農業を楽しんで、地元の農家ともふれあいを深めている全盲ろう男性の方がおられます。
京都新聞(2016年12月25日)からです。
全盲ろう男性「農」に汗 手触り頼りに手際よく
目が見えず、耳が聞こえない全盲ろう者の岡田昌也さん(51)=滋賀県草津市矢橋町=が5年前から、手の感覚を頼りに農作業に励んでいる。
通所する守山市の障害者福祉施設「びわこのみみの里」の近くで、高齢化した農家の畑を手伝っており、「教えたことをきちんとやり、手際もいい」と驚かれるほど。
盲ろう者が農業に従事する例は珍しく、「体を使う屋外での作業はやりがいがある」と話す。
岡田さんは生まれつき耳が聞こえず、1歳の時に病気で視力が低下、県立聾話学校の小学4年の時に全盲ろう者になった。
高等部を卒業後、大津市の段ボール製造会社で働いたが、介助していた母親が体調を崩し、退職。
「みみの里」の前身施設に約10年前から通い、NPO法人「しが盲ろう者友の会」の会長も務めている。
農作業は、同施設が「自宅との往復になりがちな通所者に、地元住民との交流を深めてほしい」と考えたのがきっかけ。
JAおうみ冨士を通じ、約8千平方メートルの畑地を持つ近くの新藤正男さん(91)を紹介され、農業をやりたい通所者を募った。
2009年からスタートし、岡田さんは11年6月から参加した。
岡田さんは1年目は苗を踏みつぶしたり、雑草と間違えて抜いたりと失敗を繰り返したが、徐々に触って分かるようになった。
今年11月上旬、キャベツの苗を植える作業では、畝の前に座って土をなでて雑草や小石がないか確認し、新藤さんが20センチ間隔で置いた苗を、深さ10センチほどのくぼみを掘って次々と植えていった。
土をかぶせたあと、まっすぐ植えられているか、葉が土に隠れていないかなどを一つ一つ触って確認。
3時間ほどで120メートルの畝6本分の苗を植えた。
サトイモの収穫作業では、土から引き抜き、根についているイモの大きさを確認しながらもぎとり、土をはらってかごに入れた。
「本当にできるのか心配だったが、一度教えたことをきちんとやり遂げるのでびっくりしている」と新藤さん。
収穫した野菜は同市洲本町のJAの直売所「おうみんち」で販売し、冬場も白菜などを収穫する。
しが盲ろう者友の会によると、県内には約130人の盲ろう者がいるが、屋内で過ごすことが多く、全国盲ろう者協会も「継続して農作業をしている人は珍しいのでは」という。
岡田さんは「暑さや寒さでしんどいときもあるが、外の作業はうれしい。
盲ろう者でもできることを知ってほしい」と話す。