佐原商店さん最終日
佐原商店さん最終営業日、2016年3月31日は秋田に行きました。このお店のこの日を見るためです。現地に着くとすぐに、お店を見つけることができました。東京の部屋から目的地まで一直線という感じです。この地域としては、おそらく普段にはない「人だかり」で、マスコミもNHK含め何社か居て賑わっていました。
12名ほどの列でしたからそのまますぐに並んだ方が良いだろうと思いました。並んでいる間におやっさん(同店店長の佐々木澄夫さん)が現れました。
佐々木澄夫さん(佐原商店・店長)
12:51 開けるたびに撮影タイム
おやっさんが自販機を開ける度に行列は崩れ撮影タイムです。 「(店長さんと)一緒に撮れる、お話し出来るチャンスはそんなにないかもしれない」と、そわそわしながら並ぶこと41分、1杯のうどんを買うことができました。200円です。うどんを手にしておやっさんのところへ寄って行きました。「写真撮っていただけますか」と申しあげ心よくOKしていただきました。食べようとするや否や「チームNHK」に取り囲まれます。「秋田の人じゃないですよね」「どこからですか」「何のためにきたのですか」「うどんのお味はどうですか」と矢継ぎ早。今更引くに引けず、気のきかないコメントを続けながらうどんを食べました。よかったです、「まずは、うどんを味わえたのだ」と。
13:22 うどんできました
13:28 うどんいただきます
うどんを食べてほっと一息です。「NHK」からの味への質問には「ぬるくて美味しい」と答えました。おやっさんが缶コーヒーをご馳走してくれました。「金の微糖(温)」です。私は東京から「治一郎バームクーヘン」を持って行っていました。「渡せないかも、まず会えるか分からない」「(いきなり食べ物渡すって)変だろうな」等と思いながらも、念のためとバッグに押し込んだ「治一郎バームクーヘン」がよかったです。コーヒーのお礼と称して自然にお渡しすることができました。
13:44 「金の微糖(温)」いただきました
NHKは翌朝04時にうどん自販機の電源を落とすまで、ずっと張り付きでした。「さすがNHK」です。わたしは今回の出張でまず、佐原商店さんのすぐ近くのホテルの部屋をおさえることから始めました。それがあったから来ることが出来たようなものです。ホテルの部屋からも、途切れることのない行列の様子は、昼も夕も夜もずっと見ることができました。
13:04 NHK 取材の様子はたいへん勉強になります
14:56 昼間の行列
夕方には「きょうのニュース(@フジテレビ系列)」の生中継が入りました。部屋でテレビを観ながら中継の本番には出て行き、キャメルのジャケットのきれいなお姉さんのインタビューを聞いておりました。このうどん自販機、2015年にNHKのドキュメント番組「ドキュメント72時間」(以下、文中『72H』と表記)の舞台となりました。72時間ひとつの場所で定点カメラ観測を行いそこに集う人々を取材する内容です。私はこの番組はファンですが、本放映については観ていないまま現地入りしました。そして視聴者投票ではここが「2015年の年間1位」となったそうです。その流れで、最終営業日にはNHK東京本部からも「見届けるように」お達しがあり、取材チームはあらためて張り付いていたということです。実は2015年の放送以降、売上が2倍以上に伸び反響が有り過ぎた為、閉店の時期も延びていました。
暗くなる前に再び並びました。次は1杯の蕎麦をいただきました。何度も言うようですが200円です。並んでいる間、現地の皆さんとおしゃべりしながら待ちました。秋田弁はさっぱり分かりません。話の内容は分からないままでしたが、楽しく待ち時間を過ごしました。【※ 秋田弁紹介・・「あべ」⇒行こう。「どさ」⇒どこへ。「くー」⇒食べる。「こー」⇒食べよう】
18:08 蕎麦です
2度目は45分間並びました。日が落ち、あたりも少し暗くなってくる頃です。「72H」の時は真冬でカメラマンの方は凍傷に近い状態になり厳しい取材だったとのこと。NHKディレクターの山浦さんから「夜は今日も冷えます、あたたかくして来た方がよいですよ」とアドバイスもいただきました。真っ暗になり、店には仕事終わりのサラリーマンの方々なども集まってきました。イベントです。
おやっさんの手書き案内は自販機に貼ってあります
21:38 夜の行列です
22時過ぎました。おやっさんがコーヒーを事務所で淹れてくれました。今日2杯目、ご馳走になります。 テレビでは古館さんの最後のオンエア(@報道ステーション)が始まっていました。おやっさんとコーヒーをのんでいると事務所の前に「ごちそうさまでした!」と若者が元気よく「さいごの1杯のお礼」を言いに声を掛けてきました。NHKインタビューを受けている青いキャップのお兄さんです。
22:04 チームNHK と青いキャップのお兄さん
おやっさんもすぐに出て対応しています。
22:23 「ごちそうさまでした」店内に入り言葉を伝えます
「今の若いモンもしっかりしている」と事務所に戻っておやっさんの一言。「こんな『うどん』でも皆んな来てくれるな」としみじみです。それからしばらく事務所でおやっさんのお知り合いの話、東京でご活躍のされている人のお話などを聞かせてもらいました。うどんのことや自販機のことはほとんど話していません。コーヒーを飲んでは自販機の様子を見に行き、行ったり来たりで23時を過ぎました。 おやっさん23時には帰ると言っていましたが行列は途切れず「帰るに帰れないよ」と笑います。しかし、そういつまでもという訳にはいかないのです。いよいよ閉店です。おやっさん、販売用に残っている菓子パンを「みんな、持っていかないか」と振る舞います。残ったネギのお皿も「ネギはいらないか」と菓子パンに続けてすすめてくれます。ありがとう、気持ちだけ受け取ります。
23:10 ネギはいらんか そう、勿体無いものね
私も最後のご挨拶です。一歩前に出て「お疲れ様でした、ありがとうございます」と伝えます。そしておやっさんからいただいたお返事、どんな一言だったと思いますか。いよいよシャッターが閉まります。30年以上続いた店は今日幕をとじました。
23:15 シャッターが閉まります
私は行く前に東京で、人と会う度「この店」のことを話題にしていました。私の周りはほぼ認知度100%で、ひとしきり会話は盛り上がりました。その中で一人の友人がこんな話をしてくれました。「テレビで観たけれど、現地で取材を受けていた40-50代くらいの一人の女性で『幼い頃に外食と言うと家族でここへ連れてこられて食べていて、最後と聞いたから今日は来てみた』と話していた」。それを聞いていたら、港の近くのこの店の風や空の感じがふわっと映像で思い浮かんできました。 「外食」ってなんでしょう。仕事柄「外食」に携わる私は、今もずっとテーマです。ルールもマニュアルもないですが、一方で「変わらないもの」もあるでしょう。NHKには「良い店ってなんですか」「何故みんな来るのだと思いますか」などと非常に奥深い質問もいただきました。「行きつけってやっぱり必要なものでしょうか」とも聞かれました。
七味も今日で最後 よくがんばりました
「外食」も「食べること」も本来シンプルです。シンプルであるべきです。気軽で身近で、平凡な日常に「ハレの時間」を与えてくれるものだとは思います。そしてそれは客単価で上下することのないキラキラしたものだったりするようにも思います。新年度へ向け「外食」をこれからも伝えるにあたり、新鮮な体感をできた1泊2日の旅でした。それぞれに、今もこれから先も足を向けたくなる「1店舗」がありますように。
(國井直子 kuniinaoko)
【あとがき】実は色んな意味でプレッシャーのかかった年度初への切り替えでした。思い切って秋田に行き、何があるかは分かりませんでしたが個人の1本目の記事にも出来れば良いなと思って向かいました。
文中で問いかけている「おやっさんが(閉店の23時過ぎ)最後にわたしに返してくださった言葉」は「また会いましょう」でした。
「また会いましょう」「会うために店はある」ずっとながく思っていたことを自分なりに再確信できた瞬間でもありました。そして化粧もせず現地にそのまま着きテレビに囲まれたのは(;´д`)恥ずかしいばかりです。NHKの放送は4月29日(金)です。前回の「72H」の再放送とその最後に「最終日」の映像を編集し数分載せるとのことです。映らないことを祈ります。
✽番組HPをみたら「★4/29(金) 秋田 真冬の自販機の前で・惜別編」と記載されていました(笑)…惜別編です。
いただきました。自分では買えません。かわいい。お面は取り外し可。
18:20 夕方の2杯目 蕎麦とメイク付きで店長さんと撮り直しです