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ファッション業界に溢れるコピー商品に問題提起!! スタイリストが「あの事件」を振り返る

2017.01.04 10:00

去年の秋頃、ある取材で知り合ったスタイリストが、数年前にファッションWEBマガジン「HOUYHNHNM」のブログで書いたエントリーについて、ふと語りだした。


【ファッション業界の方々へ一読ください】コピー商品について(2014-12-02)


アパレル業界に跋扈するコピー問題に対して率直な意見を述べたこのエントリー、掲載当時は1日の閲覧数が3、40万を記録。また、Facebookでも6,000シェアという数字を叩き出している。


折しも、2016年は大手ネットメディアによる剽窃問題が世間を揺るがした。年が明けたいま、あらためてネットメディアの問題を振り返る意味でも、「こんなことやってたらファッション業界がダメになっちゃいますよって気持ちも込めて書いた」という森俊輔の言葉に耳を傾けてほしい。

森 俊輔/スタイリスト
OEMのメーカーで企画として様々なブランドの洋服づくりに携わったのち、ブランドのPRとして活動。その後2015年1月にスタイリストとして独立し、自身が大好きだった「サブカルチャー」をファッションとより強固に繋げるべく、声優、アニソンシンガーやアイドルのスタイリング・衣装制作を担当。ファッションが絡んで、それが楽しいことであれば何でもやるスタンスという自他ともに認めるファッションバカ。


卸先のセレクトショップが、
本物の横にコピーを並べる


当時在籍していた会社が扱い出して、1年経っていないくらいの時でしたね。これからどうやって日本でこのバッグブランドを広めていこうかというタイミングでしたから。チープな売り方はしたくなかったので、卸先もかなり絞らせてもらっていました。


卸先でも大切に売ってくれて、媒体でもたくさん紹介していただき、その甲斐もあって順調に売れていました。


そんななか「とある噂」を聞いたんです。1年も経っていないのにすでにコピー商品が出回っている、と。


教えてもらったサイトを見て愕然としました。まったく同じだったんですよ。しかも、そのセレクトショップのオリジナルとして売っていたんです。


実際に店頭にも足を運びましたが、本物の横にそのコピー商品が並んでいて、本物が27,000円でコピー商品が13,000円。同じところに並べてたら、そりゃ安い方を買いますよ。だって、買おうとしてる人たちは、まだ「本物がどっちか」なんてことも知らない。


それくらい知名度を広げる前の段階でしたから。

こんなことがあっていいのだろうか
怒りよりも悲しさがこみ上げてきた


これでは、ブランドがすぐにダメになってしまう。なにより、きちんと売ってくれている他のセレクトショップに申し訳が立たない――当日の夜には記事を書きました。こんなことを許しちゃダメなんだ、とありったけの思いを込めて。


防御策じゃないですけど、ぼくが言わなかったら、多分どんどん真似されちゃう。だから、当時在籍していた会社には何も言わず、森俊輔個人として書きました。この件に関しては、すべての責任を僕が負いますという気持ちで。


記事をアップした後、すぐにシェアが広がり、「あんなこと書いて大丈夫なんですか?」ってたくさんの方々から言われました。なかには「あんなこと普通は書きませんよね」って怒り気味に言ってくる人もいました。


実際、様々なところからネガティブな批判や圧力がありましたが、ここで負けたらオリジナルをつくっている方々に失礼だし、コピー商品を許してしまう事になる。


だから「記事、消せない?」って聞かれても、「なんで消さなきゃいけないんですか! おかしいのはコピー商品をつくってる人たちなんじゃないんですか?」って突っぱねました。

褒め称えたのは、
オリジナリティを追求する人々


一番評価してくれたのは、ファッション業界のデザイナーさんたち。


わざわざ会いに来てくれて「森くん、よく書いてくれたわ」って言ってくれた方もいました。正直、ものすごい閲覧数の中で、業界だけではなく一般の方々も巻き込んでの問題になっていたので、ぼく自身も押し潰されそうになっていたんです。だからこそ、オリジナルを追求する方々からの支持はなによりも心強かった。


そもそもファッション業界に入るのって、洋服が好きだからですよね。デザイナーとか企画をやってる人たちは、自分たちが自信を持ってつくったモノを世の中に出すべきなのに、「あの商品、売れているらしいよ。じゃあうちもつくろう」みたいなノリが多すぎる。


それはすごく悲しい。


たとえ奇抜だろうが、たとえ高かろうが、自分たちが身に着けたいものを、自信を持ってつくってほしい。


この一件もそうだけど、コピー商品をつくってあなたたちは本当にそれを買いたい? それを身に着けたい?って聞いたら、たぶん「NO」なんですよ。つくってる人たちは「本物」を身に着けたがる。


なのに、そんなものを売るんですか?


そんなことをやっていたら、あなたたちが身に着けたい「本物」は売れなくなって、どんどん無くなっていっちゃいますよ。そんな気持ちでやってるなら、もっと稼げる他の仕事をやった方がいい。


ファッション業界にいるんだから、自分たちが誇れる、かっこいいことやろうよって思うんですよ。

本物を身に着けてほしい
ただそれだけのこと


ぼく自身はファッションも好きだけど、サブカルチャーも同じくらい好き。アニメもすごく好きだから、声優のスタイリングもやってます。声優という仕事は昔に比べると表舞台に出る機会が増えていて、専門誌もあるくらい。だからこそ、スタイリングが重要なんです。


誰にでも譲れないものってありますよね。


ぼくが声優のスタイリングを担当するとき、強くこだわるのは、きちんとした「本物」を身に着けてもらうこと。それで衣装協力にちゃんとしたブランドやショップがクレジットされることが大事だと思っているんです。


だって、そのクレジットをみて、ファンの人たちが「同じのを着たい」って思うかもしれないじゃないですか。そうしたとき、本物を選んでほしい。もちろん「本物」は、日本製だったり、生地や細かいデザインにこだわっている分、いつも買っている服よりも高いかもしれない。


ぼくが伝えたいのは、「あこがれの人と同じものを買おうとするとお金がかかるかもしれない、でも絶対にかっこいいよ!」っていう提案。


そうして、ファンの人たちがオシャレに興味を持ってくれたら、ファッション業界が予期せぬ形で流行をつくれるかもしれない。そこにチャレンジしてみたい。そのプライドでやってます。

匿名はズルいっすよ


記事をそのまま流用されたりとか、ライターさんも一緒ですよね。そこに対してギャランティーは発生しないわけですからね。服やバッグだって、デザイナーがどれだけ考えてつくったと思ってんだよって話ですよ。


セレクトショップは、いいと思ったブランドを仕入れるために、必死にその店の格式やルールをレベルアップさせて、ブランド側に「やらせてください、絶対売りますから」ってお願いをするべきだし、ブランド側も「一緒にやってきましょう」ってWIN-WINの関係で成り立つべきだと思います。


利益率がいいから、はたまた自分のところで取り扱えないからコピー商品をつくってしまう。「本当に自信をもって仕事をやってますか?」って聞きたいですね。


こう見えて結構小心者で、言ったことに対して責任も感じるので、どういうリアクションがあるのか毎日チェックしてました。不思議なことに批判はあまりなかったです。「この人が言ってることは正しい」って共感してくれる人の方が多かった。ただ、コピーをやってた本人たちはヒヤヒヤしてたと思います。


その広がりもあってなのか、読売新聞からも取材を受けました。あらためて記者の方に話すと新聞でもこういった問題が多発しているようで、すごく共感されました。


「本物」でありたいと思うし、
「本物」を提供し続けたい


この記事を書いた後、ぼくが異を唱えていたバッグのコピー商品は一瞬で店頭から消えました。それまでは、あまり意識せずに「売れているものがあったら真似することが当たり前」という感覚があったんだと思います。改めて反省してくれたんだとしたら、書いた側としては非常にうれしいですね。


きっと、どんなことも言わなきゃいけない時があると思ってます。


ファッションは、センスやアイデアが売りモノ。そのセンスを得る為にぼくたちがどれだけの服を買って、身に着けてきたかーー。


ライターだってそうでしょう。記事を書くためにどんだけ時間をかけているのか。語彙力を身に着けるために本を読んで、取材に時間を費やして、PCに向かってコーヒーでカフェインをとりながら眠い目をこすって朝方まで記事を書いている。カメラマンの写真だって、アーティストのグラフィックだってそう。それをつくり上げるまでに、ぼくたちは人生をかけて投資をしてきたんです。

率直な疑問なんですが、もし仮に「本物」をつくる人たちがいなくなってしまった時、コピーや盗用してきた人たちはどうやって仕事をするんでしょうね?


今一度考えてほしいんです。


スキルや技能は時間をかけなければ絶対に手に入らない。コピーや盗用をする時間があるくらいなら、ひとつでもオリジナルの仕事に身を投じるべき。今からでも遅くないと思います。


できあがったものに対して反響がでたら嬉しいし、それってコピーや盗用をしている人たちには絶対に味わえない感動だと思うんです。


この感動があるからぼくはこの仕事をしている。

自分自身は「本物」でありたいと思うし、「本物」を提供し続けたい。


どんな職業だってそうだと思う。楽して稼ごうなんて、そんな甘い話はないんですよ。時には労力に見合わないギャラの時だってあります。そんな時だってぼくは手を抜かない。

ロマンとプライドで仕事をしてますから。