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生理活性物質? 生物活性物質?

2018.06.13 03:26

https://www.chem-station.com/blog/2013/11/post-577.html 【生理活性物質? 生物活性物質?】より

最近めっきり時間の取れなくなったcosineです。今回は薬学系ならではの短めエントリを。

医薬と関わる世界にいると、「生物に効果を与える化合物」にものすごく沢山出会います。これをひっくるめて一般には何と呼んでいるでしょうか。「医薬」ではありません。なぜなら「毒」も含まれるからです。

「生理活性物質」と呼ぶ人が多いと思います。しかし一方では、「生物活性物質」と呼ぶ人もいます。

いやいやどっちも変わんねーじゃん?と思うかも知れません。

しかし実情は少し違います。

実はこの用語は、専門家視点から厳密な使い分けが提案されています。

生物活性物質:「毒でも薬でもとにかく生体に作用があれば良いという物質」

生理活性物質:「ある生体のなかに本来存在するもので、その生体のために役立っている物質」

ざっくりいえば外因性か内在性か、という違いがあるのです。

つまり我々が日常使っている医薬品は、ほとんど「生物活性物質」なのですね。英語だとbioactive compoundなので、確かに生物活性と表記するほうが適切にも思えます。いままで漠然と「生理活性物質の全合成」とか書いてしまってた方々、良い機会ですから本当は「生物活性」なのだと心得ておきましょう!

そんな細かい用語の違いなんてどうでもいいだろ?・・・と思われるでしょうが、そこは薬学系ならではのこだわりというか文化なんですね。

薬学視点では「薬=異物」です。化合物が生体から見て異質であるかどうかは、実は分野のアイデンティティにも絡む最重要ポイント。意外に気にされうる観点なのです。

ほとんどの読者の皆さんは薬学外の方でしょうが、そんなこだわりもある世界なのだな、と知りおかれるのも乙なものかと。

筆者自身、薬学部で教育を受けた身ですから、毎回単語をこう直されていました。今は学生の書いてきた単語をこう直す立場。さてさて、これでかのような思想は伝わって行くのだろうか・・・?

案外こういった地味なこだわりから、分野の哲学は根を張っていくのかも知れませんね・・・などとふと思った今日でした。


https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2012/07/news010.html 【新型コロナウイルスの中和製剤開発へ、結合力を100倍高めたACE2】より

 京都府立医科大学は2020年11月18日、新型コロナウイルスの受容体であるACE2のウイルス結合力を約100倍高めることに成功したと発表した。同大学 助教の星野温氏らが、大阪大学と共同で研究した成果だ。

 新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質がヒトの細胞表面にあるACE2に結合することで感染するが、結合力を高めた高親和性改変ACE2タンパクを用いることで、ヒト細胞への感染を阻害する効果が期待される。そこで研究チームは、ACE2のウイルス結合力を高めることで、高い中和活性を持つタンパク製剤の開発を試みた。

キャプション

ACE2を用いた中和タンパク製剤のイメージ(クリックで拡大) 出典:京都府立医科大学

 まず、DNAの突然変異誘発による多様化と選択を繰り返すことで目的とする機能を向上させる指向性進化法を用いて、ウイルスへの結合力がもとのACE2より100倍以上高い高親和性改変ACE2を作出した。ウイルスへの結合力は、抗体製剤と同等以上であることを確認している。

キャプション

指向性進化法による高親和性ACE2開発の概要(クリックで拡大) 出典:京都府立医科大学

 次に、開発した高親和性改変ACE2に抗体のFc領域を付加したタンパク製剤を合成し、機能評価した。その結果、レトロウイルスの粒子表面に新型コロナウイルスのスパイクタンパクを発現させたシュードウイルス中和実験で、野生型の約200倍の有効性を確認した。また新型コロナウイルスに対する中和実験では、一般的な抗体製剤の血中濃度領域において良好なウイルス中和活性を認めた。

キャプション

改変ACE2-Fc製剤におけるウイルス中和試験(クリックで拡大) 出典:京都府立医科大学

 新型コロナウイルスの治療法の1つに、スパイクタンパク質をブロックして中和するという方法がある。現在、抗体を用いた中和製剤の開発が盛んに進められているが、抗体製剤にはウイルスの変異によりスパイクの形状が変化して抗体が結合できないエスケープ変異という問題がある。

 今後は、生命科学インスティテュートと共同で、高親和性改変ACE2を用いた新型ウイルス中和タンパク製剤の開発を進める予定だ。

「医療技術」バックナンバー


https://www.nibiohn.go.jp/information/nihn/files/1357b762d7f34ea208f5da87d30ccb34e283dba4.pdf 【新型コロナウイルス受容体 ACE2 と同じ機能を持つ微生物酵素 B38-CAP を発見】より

『Nature Communications』に掲載

【研究成果のポイント】

概要

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の今井由美子プロジェクトリーダーならびに秋田大学大学院医学系研究科の久場敬司教授は、国際農林水産業研究センターの韮澤悟主任研究員、秋田県総合食品研究センターの高橋砂織研究員らとの共同研究により、白神山地の土壌から分離した微生物の産生する新しい酵素 B38-CAP がヒトのアンジオテンシン変換酵素 2(ACE2)蛋白質の構造とよく似ており、生体内で ACE2 と同等の薬理活性を示すことにより心不全や高血圧の症状を改善することを明らかにしました。今井プロジェクトリーダーならびに久場教授は既にACE2 は SARS コロナウイルスの受容体である一方 ACE2 蛋白質には SARS ならびに重症呼吸不全の重症化阻止効果のあることを報告しています。最近 ACE2 は現在流行している新型コロナウイルスの受容体であることが報告されましたので、B38-CAP には、ACE2 同様に新型コロナウイルス感染に対して、特に心不全などの基礎疾患を有するヒトの重症化阻止効果のあることが期待されます(図 1~3)。

本研究成果は 2020 年 2 月 26 日午後 7 時(日本時間)に国際科学雑誌『Nature Communications』の電子版(https://www.nature.com/ncomms/)に掲載されました。

新型コロナウイルス受容体 ACE2 と同じ機能を持つ

微生物酵素 B38-CAP を発見

ヒト ACE2 と同等の薬理活性を持つ微生物酵素「B38-CAP」を発見

B38-CAP は ACE2 と同様に心不全や高血圧に対して治療効果を示した

ヒトACE2 はSARS コロナウイルスの受容体であり、ACE2 蛋白質にはSARS や重症呼吸不全の抑制効果

のあることを既に報告

最近 ACE2 は新型コロナウイルスの受容体であることが報告

B38-CAP には ACE2 同様、新型コロナウイルス感染症の重症化阻止効果のあることが期待

研究の背景

ACE2 は強力な生理活性物質であるアンジオテンシン II を分解することによりレニンアンジオテンシン系を負に調節

して、高血圧や心不全に対して保護的に作用することが知られていました。医薬基盤研究所の今井由美子プロジェクト

リーダーならびに秋田大学の久場敬司教授は、以前より ACE2 の研究に取り組み、2005 年には ACE2 は SARS コロ

ナウイルスの受容体であること、また ACE2 蛋白質に SARS や重症呼吸不全の重症化阻止効果のあることを報告して

います(図 2)。これまでヒトを含む哺乳類の ACE2 は糖鎖構造を持つことから、組換え型のヒト ACE2 酵素を治療薬と

して大量に生産することが困難で医薬開発での障害となっていました。一方、2006 年に秋田県総合食品研究センタ

ーの高橋砂織らが白神山地土壌から分離した D-アスパラギン酸特異的エンドペプチダーゼ生産菌 Paenibacillus sp.

B38 は、国際農研での全ゲノム解析から多くの有用酵素遺伝子を持つことが示唆されていました。

本研究の内容

秋田県総合食品研究センターの高橋砂織研究員と国際農研の韮澤悟主任研究員らの解析から、Paenibacillus sp.

B38 菌株の遺伝子産物の一つにヒト型 ACE2 と似通った蛋白質構造を持つ酵素 B38-CAP が存在することが分かり

ました。韮澤悟主任研究員らは、試験管内で B38-CAP 蛋白質の諸性質がヒト ACE2 と酷似している一方で、微生物

の蛋白質生産系で短期間に大量に取得できることを見出しました。同蛋白質を用いて、医薬基盤研究所の今井由美

子プロジェクトリーダーならびに秋田大学久場敬司らの研究グループは、B38-CAP 蛋白質にはヒト ACE2 蛋白質と同

様に心不全の改善効果のあることを見出しました。具体的には、B38-CAP をマウスに投与して生体内での血行動態

や毒性について検討を行ったところ、ヒト ACE2 と同程度に安定な血中濃度が維持され、異種蛋白による毒性や免疫

拒絶反応などは見られませんでした。次に生体内で B38-CAP が ACE2 様の酵素活性を発揮するかを調べたところ、

マウスに投与された B38-CAP は ACE2 と同等にアンジオテンシン II を分解し、アンジオテンシン II によって誘導される

高血圧を改善することが分かりました。さらにマウス心不全モデルで B38-CAP の効果を検討したところ、B38-CAP は

心収縮率の低下、心肥大、組織の線維化といった心不全の所見を顕著に改善しました。重要なことに、B38-CAP の

治療効果は心不全や高血圧の病態が確立した後から投与しても症状の改善が認められました。したがって、B38-

CAP には ACE2 と同様の薬理作用のあることが示唆されました(図1)。

本研究成果の意義

この研究を通して、微生物酵素 B38-CAP には ACE2 と同等の薬理活性を示すことが明らかになりました。最近

ACE2 は現在流行している新型コロナウイルスの受容体であることが報告されました(図 3)。現在、新型コロナウイルス

感染症は高齢者や心不全、糖尿病、呼吸器疾患などの持病のある人で重症化することが問題になっています。本研

究から B38-CAP には ACE2 同様に、新型コロナウイルス感染に対して、特に心不全などの基礎疾患を有するヒトの重

症化阻止効果のあることが期待されます。また、B38-CAP は ACE2 蛋白質より短期間で大量に産生することが可能

なので、臨床応用の可能性が期待されます。

特記事項

本研究成果は 2020 年 2 月 26 日午後 7 時(日本時間)に国際科学雑誌 『Nature Communications』の電子

版(https://www.nature.com/ncomms/)に掲載されました。

論文タイトル:

B38-CAP is a bacteria-derived ACE2-like enzyme that suppresses hypertension and cardiac dysfunction.

著者:

Minato T, *Nirasawa S, Sato T, Yamaguchi T, Hoshizaki M, Inagaki T, Nakahara K, Yoshihashi T, Ozawa R,

Yokota S, Natsui M, Koyota S, Yoshiya T, Yoshizawa-Kumagaye K, Motoyama S, Gotoh T, Nakaoka Y,

Penninger JM, Watanabe H, Imai Y, Takahashi S, *Kuba K

*責任著者

掲載雑誌:

Nature Communications (ネーチャーコミュニケーション)

本件に関する問い合わせ先

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 (NIBIOHN)

ワクチン・アジュバント研究センター (CVAR)

感染病態制御ワクチンプロジェクト・プロジェクトリーダー

(クロスアポイントメント:大阪大学蛋白質研究所特任教授(常勤))

今井 由美子 (いまい ゆみこ)

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ 7 丁目 6 番 8 号

TEL: 072-641-9895

FAX: 072-641-9896

E-mail: y-imai@nibiohn.go.jp

URL: http://www.nibiohn.go.jp/activities/regulation-intractable-infectious-diseases.html

記者会見

なお、本件について、以下の通り記者会見を開催する予定です。

日時:2020 年 2 月 27 日(木)午前 11 時

場所:秋田大学医学部附属病院 大会議室

問い合わせ先:秋田大学医学部総務課 Tel: 018-884-6005, e-mail: ksaito@hos.akita-u.ac.jp