狭小地の3階建てを光と静寂で満たす_建築家の自邸レポート_2
前回から、遊空間設計室・高野保光さんのご自宅のレポートをお送りしています。前回は外観、アプローチ、玄関についてお伝えしたので、よろしかったらご覧ください。
今回は1階のLDK。その前に間取りのおさらいを ↓ 床面積は28.79㎡。寸分の無駄なく、凝縮された間取りです。よく建築設計のプロの方が「いい家は平面図(間取り図)も美しい」とおっしゃいますが、本当にそうだな〜と。
玄関から幅広の階段を数段上がるとLDKのフロアで、この光景に迎えられます。キッチン背面の壁が、この空間の主役。白い漆喰の壁には刷毛目のような細かな凹凸があり、それが上からの光を受けて華やかな陰影を見せています。そして、注目していただきたいのは、ダイニングの家具。これは高野さんがこの場所に置くためにデザインしたもの。テーブルをこんな低い角度から見ることは少ないと思いますが、脚や裏側の見え方までしっかり考え抜かれていて、美しい。キッチンの足元が浮いて見えるようなつくりなので、奥の明るい床面まで視線を滑らすことができます。
椅子も高野さんのデザインです。余談ですが、芸大の建築学科1年生は、課題として必ず椅子の制作をするのだそう。強度・材料・美しさなど、建築に共通するテーマ設定ができるからでしょうか。
キッチン背面の壁は、漆喰をコテで塗ったあと、湿り気のあるうちに高野さんが手袋をはめた手で表面をこすって、凸凹をつけたそうです。DIYとは次元の違う話で、「絵心」がないとこういう品のある仕上がりにはなりません。細長い吹き抜け空間の最上部には、天窓が。ここからの光は時間とともに強さや色が変化して、壁の凹凸がそれを増幅し刻々と表情を変えます。一瞬も見逃したくない、アート。
キッチンに立って、玄関の方を見ると美しい螺旋階段と、その向こうに窓が見えます。外は交通量の多い幹線道路ですが、室内で喧騒は感じられません。漆喰塗りの天井のツヤがおわかりでしょうか。天井の高さは抑え気味。でも、狭く感じないのです。窓への視線の抜けとか、多様な光の採り入れ方とか、床に段差をつける、階段吹き抜けへの連続感…etc ここに列挙しきれないほどの工夫が織りなす空間感。細部のすっきりした納め方も、こと小さな空間では重要なのかなーと、ぼんやりながら拝察いたします。
キッチン天板はフラット。邪魔するものなく背面の壁までスーッと視線が通ることが、広さを感じさせます。でも、きれいさを保つにはきっと努力が必要ですね。
一角にある畳のコーナー「茶の間」です。丸い掘りごたつ式のちゃぶ台もオリジナル品。1本脚で、天板を薄く見せる繊細なデザイン。建物を凹型にくぼませてつくった坪庭には黒竹が植えられ、午後になって日が回るとリシン壁に影を落とします。
茶の間からの眺め。ゴロッとなって一杯やりたいw
左側の壁ぎわ、床の間のしつらえ…ですよね? 坪庭越しの外壁が、屏風絵のようにきれい。
キッチンへの見通し。
テレビは壁付け、機器類も壁の中にビルトイン。とにかくものを出っ張らせないためのあらゆる手段を講じています。
茶の間の小上がりに腰掛けるもよし。
階段や床に腰掛けるのもありですね。
キッチンの脇に小さな手洗いとトイレが隠れているのですが、そのドアのつくりがすごい。少しも出っ張りがなく、閉めるとほぼ壁と同化します。写真は開けたところです↓ 取っ手はアイアンで制作したもの。既製品のドアでは実現できない、鑑賞したくなるドアノブ。
次回は2階の寝室をご案内しますので、お楽しみに!
この家の様子を、動画でご覧になれます。広がりのある室内を疑似体験してください。
遊空間設計室のHPもぜひご覧ください。
詳しいDATAは前回の最後に記載してあります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。