My Roots My Favorites 三浦 基(地点代表・演出家)
彼らが果たせなかったこと、
悔しかったこと、成功したこと、
最近は自分の問題として考えます。
私は演劇の大学に入りましたが、なぜ、そもそも演劇を志したのかはよくわかりません。むしろ大学に入ってから演劇に出会った感じです。当時、衝撃を受けたのは、鈴木忠志*演出の『リア王』でした。初めて演劇というものを観たと思いました。それ以来、大学在学中は毎年のように夏の利賀フェスティバルに通っていました。そこで外国の前衛演劇に触れたことは、私が演出家を目指すきっかけになったと思います。
大学を卒業して、さらに2年間のパリでの研修を経て、本格的に演出活動をはじめました。私が初めて演出した古典は、チェーホフの『三人姉妹』でしたが、それを鈴木さんがわざわざ観に来てくれました。「寺山修司の演劇を観て以来の気持ちです」と照れくさそうに口にされたことをよく覚えています。やがて太田省吾*さんも観に来られました。「あなたはチェーホフを全部やった方がいい。だから全部見てから感想を言います」というなんとも回りくどい賞賛でした。それを真に受けて、〈地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演〉シリーズを始めたのでした。残念ながら、一作目となる『ワーニャ伯父さん』の稽古をしている時に太田さんは入院されたので、最後まで感想を伺うことは叶いませんでした。鈴木さんや太田さんと親交を深めることができたこの時期は、本当に刺激的で幸せでした。
お二人にとって私はちょうど息子にあたる世代でしたが、私のことを対等なライバルとして扱ってくれていました。だからこそ日本の両巨匠演出家との会話は今でも思い出すと緊張します。作品への容赦ない批評や日本の劇場制度への怒り、劇団の重要性などなど、思えばお二人とも考え方は違っても同じ方向の話を私にしてくれていたと感じています。彼らが果たせなかったこと、悔しかったこと、成功したこと、そんなあれこれを自分の問題として最近はよく考えます。そろそろ私が次なる成功を手にしないと彼らに笑われそうです。
* 鈴木忠志(1939〜):演出家。1966年、早稲田小劇場を創設。唐十郎、寺山修司らとともに60年代に起こった小劇場運動の担い手となる。
*太田省吾(1939〜2007):劇作家、演出家。1968年、転形劇場旗揚げに参加。’70年より同劇団主宰。代表作「水の駅」、「地の駅」、「風の駅」の沈黙劇三部作等。
地点代表、演出家。1973年生まれ。2005年京都へ拠点を移す。京都市芸術新人賞受賞ほか受賞多数。主な作品にブレヒト作「ファッツァー」、イェリネク作「光のない。」「スポーツ劇」など。著書に「おもしろければOKか? 現代演劇考」(五柳書院)。KAATで2017年4月13日〜23日、新作「忘れる日本人」(作:松原俊太郎)を上演予定。
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