過去の話[天籟]
彼の場合は、人間時代は女性として過ごした。
中国の中の小さな勢力であった、宗教団体の信仰対象になっていた。
物心がつく頃には既に村の神とされ、大勢の信者が居たことを憶えてる。
その団体の教えでは、「神の身体を喰らうことで、人間という卑しい生き物は生き永らえることができる」とあった。
彼らの神になる天籟は、当時13歳。
一か月ごとに身体の部分を切断されながら、暮らしていた。
不思議なことに、彼の自然治癒力は人間とは思えない程に強く、回復の速さは凄まじかった。
しかし、それは彼にとってはこれから一生、信者という狂った人間共に喰われ続けるという、地獄を作り上げる要因にすぎなかった。
成長しては切られ、喰われる日々。
豪奢だが少し狭い一人用の部屋に閉じ込められ、外に出ることは許されない。
気持ち悪い笑みを浮かべて触ってくる教祖が不快でたまらない。
肉体的にも精神的にも、圧し潰されていた。
幼い頃から身体を切断されていた所為で、彼の体の成長はとても遅かった。
年齢と外見が釣り合わなくなり、40を過ぎても20歳頃の姿のままだった。
幼い頃からずっと纏足にされていたため、それは後遺症となり彼は歩けなくなった。
心が休まるのは、本を読んでいるときだけだった。
小説や図鑑、辞書や教科書、魔導書なども読んだ。
このとき、『外の世界』…つまり3番街の外にもこことは違うものがあるというのを知り、
裏世界管理人として目覚める。
彼は外に出ていないのに関わらず目覚めたということで、特殊な管理人とされている。
人間時代から継続して生きることができたため、魂はそのまま、器は成長し、折り返しで退化していくという、いわば『輪廻』のように生きることになった。
喰われ続け監禁され続けの地獄の日々に、
ついに耐えられなくなった天籟は暴走し、人喰い鬼となり全ての信者達を喰い殺した。
団体を潰すと、我が子を抱えて【外の世界】へ逃げた。
自分を嘲り慰み者にした教祖は喰わず、皮を剥いで晒した。
あいつだけは、気持ち悪くて喰う気にはなれなかった。