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山岸産業医事務所

産業医の助言と限界について

2021.06.21 23:54

前回の記事で「要点をまとめて伝える」ようにしますと書いていましたが、今回は長くなってしまいました。お時間がある時に読んで頂けたら幸いです。




産業医は、労働者に対して体調管理についての助言指導を行うことや、ときには職場に対して助言指導を行うこともあります。


大切なことは、「誰が」「なぜ」「どのように」、困っているのかを確認していくことだと考えます。

産業医はその医師の知見と信義誠実の原則に基づき助言指導を行います。当然ですが、産業医の意見が常にいつでも正しいわけではありません。


会社へ実現困難な指導を繰り返せば、仮にその意見に全て従うと、その会社は経営困難になる可能性があります。そうなった場合でも、産業医が金銭的な補償をするかと聞かれれば、それは現実的ではありません。


その結果として会社が倒産すれば、多くの労働者と家族に不利益が生じると考えられます。


他にも、労働者から、健康上の問題を理由に、職場への配慮を(労働者の希望あるいは主治医の意見等の形で提示され)産業医から職場へ指導するように依頼されることもあります。


しかし、周囲の労働者の業務内容や職場状況の理解に努めないと、職場に対して的外れな指導となってしまう可能性があります。


片方の意見を鵜呑みにしてしまうと、公平な判断ができるとは思えません。


労働者・主治医の意見を参考にした配慮についての「実現可能性」を考慮せず、そのまま伝えてしまうと、職場が対応可能な配慮の(許容の)限界を超える可能性があります。


その場合、配置転換などの可能性もあるでしょう。


つまり、受け入れ困難な指導をした結果、労働者・主治医の意に沿わない対応がなされる可能性があることも踏まえ、必要なら職場への指導を行う前に、上記の可能性を労働者・主治医に伝えておくように努めることが(産業医として)望ましいと考えます。


現在、私が健康相談・復職面談で意識している内容をまとめると下記のようになります。


①本来、一人分働くことが、労働契約の原則であるはずです。働けば疲れてしまうのは当たり前なので、その日の疲れを翌日に持ち越さないような生活リズムを心掛けてもらうよう助言させて頂きます。


②一人分働けていないのであれば、職場は困るため一人分働けていない理由を聞く必要があります。


③育児や介護等が原因であれば、家族へ協力の依頼や社会資源の利用を検討してみるよう助言します。


④体調が理由で一人分働けないのであれば、まずは「なおす(治す)」ことに努めるように助言します。


⑤どのように「なおす(治す)」かは治療者(主治医)と本人・家族で相談しながら、1番良いと思われる方法で実施して頂くことになりますが、追加で通常業務の内容を意識したレベルまでの回復を目指して助言をさせて頂く場合もあります。


⑥一人分働けているのであれば、その体調・状況を維持できるように努めて頂き、必要なら通院の継続や、日頃の生活リズムや、働き方の工夫をしてみるよう助言をさせて頂く場合もあります。


❶一人分働けていないなど、職場が困っている場合には、どのような点で困っているかを整理した上で、本人に「なおして(治してor 直して)ほしい」と伝えるのが良いでしょう。


❷内容はなるべく「具体的」に伝えないとうまく伝わらないため、産業医が代わりに指摘・説明することは難しく、原則として職場の上司・管理者から伝えて頂くのが良いと思います。


❸精一杯、努めてみたが、自身・家族・治療者(主治医等)の努力だけでは一人分の業務遂行が難しい場合、職場配慮として「周囲の社員と違う対応」をしていくことを職場へ依頼します。


❹配慮の実現可能性を考慮しながら、職場・本人と対話を行うことが必要でしょう。

 職場は、本人との対話の中で実施してほしい配慮を拾い上げることが望まれます。


❺職場配慮の実現可能性について、労働者と対話をした上司・管理者がその場で回答することは避けるべきだと思います。上司・管理者はさらにその上司や管理者等に実現可能性を相談してみてから、会社方針として本人に伝えるようにして下さい。


❺疾患名のみで配慮内容を決めることは望ましくありません。同じ疾患であっても、遂行可能な業務内容は一人一人異なります。

 例外の一つとして、比較的似た経過を辿るものの具体例は「がん治療」です。

 手術や放射線治療、抗がん剤治療などにより体力の低下が見込まれます。長期間の配慮が必要になる可能性が高いです。可能なら主治医の治療の見通しなども参考にしながら、時間外の制限や、一定期間デスクワーク等の身体的負担が少ない業務への配置転換も検討されるでしょう。


 対照的な疾患としてメンタルヘルス不調があります。例えば骨折などであれば、従前の業務ができるくらいまで、1-3ヶ月程度で回復する場合が多いと思われます。


 メンタルヘルス不調については、「繰り返す可能性が比較的高いと報告されていること」「見た目で判断が難しいこと」が大きく異なります。

 メンタルヘルス不調の職場復帰については、以前の記事にも書いたかもしれませんが、「ほどなく従前の業務ができるくらいまで十分に回復してから」職場復帰をすることが望ましいです。

 メンタルヘルス不調の再発の原因の大きな要因として、「焦り」のため回復不十分で復職してしまう場合が多いように思われるためです。

 ですので、産業医面談の際には体調・生活リズムをよく確認した上で、復職したらどのような仕事をしてもらうつもりか、職場に確認するように努めています。


❻職場配慮の種類・内容は多岐に渡ると思いますが、産業医が指示しやすいものとしては「時間外の制限」等が挙げられるかと思います。その他のものについては、周囲の社員の不公平感に繋がらないよう、職場の意見を聞きつつ、必要なら本人に根拠(診断書等)を求めることも検討して下さい。


❼周囲の社員の理解が得られないような過度の配慮を、終わりの見通しなく続けた場合は、不公平感のため周囲の社員のモチベーションにも悪影響が出てしまうことや、配慮に対して理解が得られず、結果的に復職した労働者とのコミュニケーションに影響が出る可能性が懸念されます。


❽復職した社員がいる場合、どのように接したら良いだろうかと聞かれることも多いです。アドバイスとしては「なるべく他の社員と同じように」接するように意識した方が良いとお伝えしています。




上記が、私が現時点で主に意識している内容です。

ですが、労働者・職場ごとに個別性があり、画一的な対応は難しいと日々感じています。


時代背景が変われば、同じ会社の同じような問題であっても、対策・対応は変わるはずです。


産業医の助言指導にも限界はあり、すべての結果を保証することは決して出来ません。


しかし、信義則にのっとった対応を実現するには、継続的な研鑽・努力が必要だと考えています。


やはり長文になってしまいました。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。


引き続き頑張っていきますので、今後ともなにとぞ宜しくお願いします。