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源法律研修所

外交特権

2021.06.23 03:10

 外交特権という言葉を一度は耳にしたことがあると思うが、外交特権とは何だろうか。改めて訊かれると、答えに窮する。


 「国際法上、外国の外交使節団および外交官には、一般の外国人とは異なる特別の保護・待遇が与えられる。これを外交特権または外交特権免除という。

 外交官にこのような特別の地位が認められるのは、彼らが国家を代表してその名誉と威厳を維持し、任務を能率的に遂行する必要があるからである。

 外交特権には不可侵権治外法権がある。不可侵権は、外交使節の生命・身体・自由・名誉・館邸・公文書・通信などを侵されない権利である。接受国は、官吏自身がこれらを侵害してはならないことはもとより、一般の私人がこれを侵害しないように十分の警備を尽くさなければならない。たとえば、外交官を逮捕・拘束するなどはできないし、私人が大使館に侵入することのないよう十分な措置を講じておかなければならない。

 治外法権とは、外交官が接受国の刑事・民事・行政の各裁判権、警察権、租税権、役務・社会保障などの行政権より免除されることである。たとえば、接受国が外交官を訴追・処罰できるのは、その本国が明示的に特権を放棄した場合のみである。

 外交特権は、外交官とその家族のほか、元首や外務大臣にも同様に認められ、また、使節団の事務技術職員および役務職員とそれらの家族にも、より制限的ではあるが一定の範囲で認められる。

 なお、特別使節団の構成員、国際組織に派遣される各国代表部の構成員、国際組織の上級職員、国際司法裁判所裁判官などにも、外交特権に準ずる特権が認められる。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。太字・下線:久保)


 外交特権を定める「外交関係に関するウィーン条約」の前文は、外交特権の目的を、「個人に利益を与えることにあるのではなく、国を代表する外交使節団の任務の能率的な遂行を確保することにある」と明記している(cf.1)。


 ところが、外交官の中には、この外交特権を悪用して、接受国たる日本の法令を遵守せず、傍若無人に振る舞うクズがいる。クズ外交官を野放しにしている国は、ならず者国家と呼んで差し支えない。


 例えば、下記の記事によると、各国の外交官車両による駐車違反について、2018年は2396件のロシアを筆頭に、第2位が222件の中国、2019年は第1位が1111件のロシア、第2位が242件の中国、2020年は第1位が306件のロシア、第2位が176件のエジプトだったそうだ。

 駐車違反金を支払わずに5年の消滅時効を迎えた「踏み倒し」の件数も、2018年は第1位が1140件のロシアで、第2位が482件の中国、2019年が第1位が1101件のロシアで、第2位が416件の中国だったそうだ。

 恥を知れ!と思うのだが、ロシア、中国、エジプトには日本の如き恥の概念がないから始末が悪い。文字通り「恥知らず」だ。

<追記>踏み倒しトップ20か国など、より詳細な記事があったので、リンクを貼っておく。予想通りイギリスは0だった。

 外交官車両には、当然ナンバープレートが装着されている。ナンバープレートについては、以前、このブログで触れた。

 東京では目にする機会が多いのだが、「外交ナンバープレート」をご覧になったことがあるだろうか。

 外交特権の保持者には、申請により、「外交ナンバープレート」が発給される。青地の細い横長プレートに白字で「外-◯◯◯◯」と番号が書いてあるので、「青ナンバー」・「外交ナンバー」とも呼ばれている。「外」を丸で囲んだマル外ナンバーは、大使の車だ。


 この「外交ナンバープレート」は、一般国民が乗る自動車はもちろん、天皇陛下がご乗車あそばされる御料車と同様に、国交省が交付していると思いきや、実は外務省が発給しているのだ。

 すなわち、外務省が、外交関係に関するウィーン条約、領事関係に関するウィーン条約(cf.2)、国際礼譲等を踏まえ、外務省設置法(平成十一年法律第九十四号。cf.3)に基づき、外交ナンバープレートを発給している。


 かつては、在本邦外交官、領事官等の自動車に関する規則 (昭和35年10月15日 外務省官房儀典長室)に基づいて自動車登録番号標(車両番号標)を交付していたが(cf.4)、当該規則が時代に合わなくなったため、現在では、外交使節団車両の登録、ナンバープレートの発給に際して提出を求める書類の内容・書式、実務作業のベースになる内容・手順など、様々な前例綴りに基づいて発給しているそうだ。


 外務省設置法は、行政作用法ではなく、単なる行政組織法にすぎないし、在本邦外交官、領事官等の自動車に関する規則や前例綴りは、外務省儀典長室が定めた内規にすぎないから、法律による行政の原理に慣れ親しんだ者からすると、なんだかなぁ〜と思うけれども、そもそも外交使節団及び外交官には外交特権(不可侵権及び治外法権)があるので、根拠となる条約さえあれば、細目についてはきちんと法令で定めなくてもいいのかも知れぬ。特別権力関係論とは正反対の外交特権が結論的に類似するのが面白い。

 英国の場合には、締結された条約を実施するための法律(実施法)が議会で成立して初めて、その条約が英国法の一部を構成し、国内法上の効力が認められるのに対して、我が国の場合には、「発効した条約を国内的に公布すれば、それによって国内法的な効力を持つ」(第34回国会衆議院日米安全保障条約等特別委員会議録第16号 昭和35年4月11日 内閣法制局長官林修三氏の答弁。cf.5)という違いも、外交ナンバープレートに関する法整備がおざなりにされている原因の一つかも知れない。


 なお、駐車違反は、死傷事故を誘発する可能性がある。死傷事故の原因となった違法駐車をした外交官を訴えることは、外交特権によりできないため、従来、問題になっていたが、現在は、保険に加入しているので、保険会社が賠償を肩代わりしてくれる。

 すなわち、外務省は、外交ナンバープレートの発給する際に、外交使節団車両が自賠責保険と任意保険の双方に加入していることをチェックしており、年に二度、例えば五月と十一月とかに登録車両の保険証書の写しを大使館等から提出をさせて保険期間の有効性を確認するという手続を取っているそうだ。


 また、外務省は、館員家族を含め、外交使節団に対して、公務であると否とにかかわらず、我が国の交通ルールを尊重するよう、口上書を累次にわたり発出し、要請するとともに、交通ルールを説明する資料、パンフレット、最近ではウェブのリンクといったものを、可能なものは多言語で併せて提供をしている。


 しかし、子曰、君子喩於義。小人喩於利。(子曰く、君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る。「君子は事に触れて義を行おうとし、小人は事に触れて利を謀ろうとする。」)というように(宇野哲人著『論語新釈』105頁)、外交特権を悪用するクズ外交官及びならず者国家は、自ら進んで道理に従おうとはしないので、いくら正しい道理を説いても聞く耳を持たぬが、損得勘定で分からせることは、ある程度可能だ。

 上記記事にもあるように、外務省は、駐日外交団車両に対するガソリン税免税措置に関し、該当車両に対し免税購入のための証明書を発給する際、違反金の納付を確認し、「今年5月からは、悪質な車両に対し、青ナンバーが給油時にガソリン税の免除を受けることができる証明書の発行を拒否することにしている」が、手ぬるい。接受国たる日本の国内法を遵守させるべく、円借款、ODA(Official Development Assistance政府開発援助)、交流事業などをどんどん取り止め、締め付けてやればいい。


 今回は、駐車違反を取り上げたが、外交特権を悪用するケースは、下記の記事のように、他にもある。

 要するに、日本が舐められているわけだ。礼には礼をもって返すのが士道だ。無礼なならず者国家に礼を尽くすは媚びへつらいであって、礼を尽くさぬのが正しい。毅然たる態度でそれ相応の報復をするだけの覚悟があるかどうかが問われている。

 

cf.1外交関係に関するウィーン条約(昭和三十九年六月二十六日条約第十四号)

cf.2領事関係に関するウィーン条約(昭和五十八年十月十一日条約第十四号)

cf.3外務省設置法(平成十一年法律第九十四号)

cf.4在本邦外交官、領事官等の自動車に関する規則 (昭和35年10月15日 外務省官房儀典長室)

cf.5第34回国会衆議院日米安全保障条約等特別委員会議録第16号 昭和35年4月11日 内閣法制局長官林修三氏の答弁