星の夜の底ひより
星の夜の底ひより夏薊咲く 五島高資
The thistle is flowering
from the bottom of a starry night Taka Goto
星の夜の底ひよりは宇宙の底知れなさを連想させます。底知れぬ宇宙はただの暗闇でなく星が輝くところです。
https://www.gizmodo.jp/2021/04/aliens-may-be-trapped-in-underground-oceans.html 【宇宙人ってみんな地下の海に閉じ込められてるんじゃないかな? という惑星科学者の話】より
土星の第2衛星エンケラドゥス。分厚い氷の下には海があると考えられている。Image: NASA/JPL/Space Science Institute via Gizmodo US
わたしたちがフツーじゃないのかも。
地球人は、地球のように海と陸と太陽光に恵まれた環境こそが生命を育むのに最適な環境だと思いがちです。だってそれしか知らないわけですしね。でも、この広い宇宙には地球よりもさらに生存しやすく、適応しやすい環境が存在していて、もしもそれが分厚い氷の下に閉ざされた海だったとしたら?
土星の衛星エンケラドゥスやタイタン、そして木星の衛星エウロパのように凍てついた地表の下に広大な海を隠し持っている(と考えられている)天体は、地球のような天体よりずっと多く存在していると考えられるそうです。さらに、もしそのような海が生命を育むのに最適な環境だとしたら、この広い宇宙のどこかで地球外生命体が生まれていたとしてもなんら不自然ではありません。
むしろ、そういう星にこそ宇宙人のみなさんが住んでいらっしゃるんじゃないか、と惑星科学者のS. Alan Stern氏は考えているそうです。ただし、氷の海の住人は分厚い氷の層に阻まれてほかの世界から遮断されているため、ほかの知的文明と連絡を取り合えない状況にあるとも考えられるのだとか。そうなるともう「フェルミのパラドックス」さえも説明できちゃうので、突飛ではありますがなかなか興味深い仮説ですよね。
氷の下に広がるあたたかい海
「氷の海」と聞くと冷たくていかにも生命を寄せつけなさそうですが、実はエンケラドゥス、タイタン、そしてエウロパの地下海は土星や木星の強大な重力が生み出す潮汐力によって温められていると考えられています。さらに、これらの海では絶えず複雑な化学反応が起きていて、宇宙生物学者の目には生物が存在していてもおかしくない環境に映るそうなのです。したがって、まだ観測されてはいないものの、ひょっとしたらすでに微生物やら青白く発光するサメやらが海の底でうごめいている可能性もあるわけです。
エンケラドゥスの内部はこんな風になっているのかもしれない(想像図)
Graphic: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute via Gizmodo US
これらの地下海を持つ天体は、いずれも太陽系のハビタブルゾーンから外れているのも興味深い共通点です。
人類が知るかぎり、液体の水は生命に不可欠です。この液体の水が地表に存在できるどうかを左右する条件のひとつが主星からの距離。ちょうどいいところを「ハビタブルゾーン」といって、もちろん地球はバッチリ太陽系のハビタブルゾーン内に位置しているんですが、実は火星と金星もなんです。ところが、現在の火星と金星の地表面に液体の水は確認されていません。このことから、ハビタブルゾーンに位置しているからといって必ずしも海の存在、そして生命の誕生が保証されるわけではないことがわかります。逆に、ハビタブルゾーン内に位置していないからって海が存在できないわけじゃないことも徐々にわかってきています。これらの例が既出のエンケラドゥス、タイタンやエウロパです(タイタンには水ではなくメタンの海が広がっているようですが)。
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氷に閉ざされた楽園?
地下海を持つ天体が太陽系内だけでもこれだけ多く確認されているのなら、太陽系外でも同じようにありふれているのではないか?と考えたのが米テキサス州のサウスウェスト研究所に所属する惑星科学者のS. Alan Stern教授です。Stern氏はさらに一歩踏みこんで、これらの地下海が地表面よりも生命に適した環境であり、生命の誕生と維持にアドバンテージとなる可能性をも指摘しています。
なぜ分厚い氷に閉ざされた暗い深い海が、地上面よりもサバイバルに適していると考えられるのでしょうか?
第52回「Lunar and Planetary Science Conference」にて発表された簡潔なレポートで、Stern氏はまず地下海の居住性が天体の種類・軌道の離心率・主星までの距離などの条件に左右されないことを指摘しています。その上で、そもそも地下海が生命を維持するには太陽光すら必要ないと言っていますが、これは「自由浮遊惑星(rogue planet)」と呼ばれる天体にもし衛星が存在していたら、という話。
念のため書いておくと、自由浮遊惑星の存在はすでに確認済みですが、その自由浮遊惑星に惑星が存在しているケースはまだ確認されていません。ただ、自由浮遊惑星は天の川銀河だけでもざっと何千億、ひょっとしたら1兆個は飛び回っているんじゃないかと見積もられていますから、もし衛星を伴っていれば膨大な数の衛星の中のどれかにはエンケラドゥスのような地下海が存在している可能性が高くなり、そのうちどれかには生命が宿っている可能性も高くなるんじゃないか、という推察なんですね。
さらに、地下海は天然の防衛システムにも恵まれています。最長5kmにも及ぶ分厚い氷の層が表面を覆っているので、海の中で誕生した生命は「外部からの攻撃に対する環境的安定性」を保証されており、隕石が降ってこようが、太陽フレアや宇宙放射線にさらされようが、激烈な環境変化や超新星爆発に見舞われようがへっちゃらなはずなのです。
ところが、この分厚い氷のシールドが外部からの観測さえも一切拒んでいると考えられるのが悩ましいところ。分厚い氷の下を覗きたいならば、現時点では想像もつかないような高度な望遠鏡が必要となってきますし、太陽系外衛星を観測する技術も必要となってきます。現在に至るまでおよそ4,300個ほどの太陽系外惑星が確認されているものの、その中から衛星を見つけ出すことはまだできていません。
フェルミのパラドックス
Stern氏の論点をまとめると、「地下海を持っている天体のほうが地球タイプの天体よりも圧倒的に数が多いのだから、生命が存在している確率が高いんじゃないか?」ということになります。さらにStern氏は、もしどこかの地下海に知的生命体が誕生していたら、どのような進化の過程をたどり、どのように氷で閉ざされた世界を認知するのだろうか?という問題についても熟考しており、このように書いています。
もし地下海に知的生命体が生息していたら、彼らは氷に閉ざされた世界の外側を認知しておらず、ましてやその先に広がる宇宙の存在を知らないかもしれません。もし知っていたとしても、その危険に満ちた世界を探検したり、開拓してみたいとは思い難いのではないでしょうか。このような閉ざされた海で発達した文明は、地球のような星で発達した文明と比べると宇宙へ進出していくことに対して不利な立場にいると考えられます。なぜなら、どこへいくにも大量の水を携帯しなければ生存できないからです。
なんだかSF物語の筋書きのようにも読めますね。しかしStern氏が提案しているこのシナリオは、長らく天文学者を悩ませている「フェルミのパラドックス」に解を与えているのも事実です。地球外知的生命体がもし本当に存在しているのなら、なぜあちらから連絡をよこしてきたことがないのだろう?というのがパラドックスの要約ですが、そもそも環境的外因に妨げられて連絡できないのかもしれない、というのです。
地下の海をたゆたう未知の地球外生命体は、あくまで可能性上の話でしかありません。それでも、地球とまったく異なる環境で進化した生命体がどんないでたちをしているのか想像するだけでワクワクしますし(なんとなく深海魚)、もし太陽系内にもそのような閉ざされた世界が存在していたら、いつか探査機を送りこんで確かめてみることもできるんじゃないかって期待してしまいます。
実際、NASAは2030年代にドローン探査機「ドラゴンフライ」を土星の衛星タイタンに送りこむ予定だそうです。もしかしたら、メタンの海の秘密が暴かれる日はそう遠くないかもしれません。
https://www.isas.jaxa.jp/j/column/famous/15.shtml 【宇宙の開拓者 ~アンドロメダ銀河~】
第15回:宇宙の開拓者 ~アンドロメダ銀河~
(ISASニュース 2006年02月 No.299掲載)
図1
図1 アンドロメダ銀河
(1辺=2.5°)写真提供:DSS
アンドロメダ銀河(図1),見た目の大きさが月の6倍もあるこの渦巻銀河を, 皆さん一度はどこかで目にしたことがあるでしょう。満天の星空のもと,もしくはきれいな天体写真として, はたまたそれはマンガの世界だったかもしれません。しかし20世紀の初頭まで(現在でも愛着を込めて), この天体がアンドロメダ「星雲」と呼ばれていた(いる)ことを,皆さんはご存知でしょうか? 超新星残骸のカニ星雲や散光星雲のバラ星雲などと同列に,銀河系の内部にあると考えられていたこの天体が, いかに銀河として認識されるようになったか,それに伴って人類の宇宙観がいかに切り開かれていったのか, 今日はこのお話を致しましょう。
肉眼でも見え古くからその存在が知られてきたアンドロメダ銀河が,最初に「星雲」と名付けられたのは, 1771年にメシエが作ったカタログの31番目に記載されたときでした。当時この天体は,太陽系と同じような惑星系が誕生している現場であり, 中心星の光を周囲の円盤状のガスが反射している,と考えられていました。こうした誤解もあり, 我々の銀河系こそが宇宙の中心にして唯一の存在であるという,今にしてみれば人類の単なる思い込みは, 実はほんの100年前まで続いていたのです。
図2
図2 ハッブルが観測したアンドロメダ銀河の写真乾板。
右上の「VAR(variable star)」が発見したセファイド変光星。
写真提供:ウィルソン山天文台
アンドロメダ星雲が我々の銀河系の外にあることを初めて明らかにしたのは,アメリカの天文学者ハッブルです。 1923~1924年にハッブルは,そのとき完成したばかりのウィルソン山天文台の直径100インチ(2.5m)望遠鏡でアンドロメダ星雲を何回も観測し, そこにセファイド変光星を見つけ出しました(図2)。当時からすでにセファイド変光星は,明るさの変動の周期が長いほど, 絶対光度が大きいことが知られていました。ハッブルはこの性質を利用して,アンドロメダ星雲までの距離が, 銀河系の大きさ(3万光年)よりもはるかに遠いことを明らかにしたのです(現在ではアンドロメダ銀河までの距離は230万光年と求まっています)。 こうしてついにアンドロメダ星雲は2000億個もの星の集合体であることが分かり,銀河系の外にいるお隣さん, 今日のアンドロメダ「銀河」となったのです。
ハッブルは,このアンドロメダ銀河の距離の測定を皮切りに, 有名な銀河の形態分類を行うとともに(1926年),遠方の銀河ほど我々から速く遠ざかっている, すなわち宇宙は膨張しているというハッブルの法則を発見していきます(1929年)。1920年代は, 銀河系が宇宙の中心だったそれまでの宇宙観が覆されただけでなく, さらにそれまで考えが及びもしなかった膨張宇宙という現代の宇宙論の礎までもが築かれ, 人類の考える宇宙のスケールが一気に1万倍も開拓された10年間だったのです。
図3図3
図3 X線(左)と赤外線(右)で見たアンドロメダ銀河
(図1と同じ領域を表示)写真提供:MPE,NASA
アンドロメダ銀河は我々に最も近く, さらに円盤とバルジをもつ構造や大きさが銀河系と似ていることもあって,これまで多波長で多数の望遠鏡によって観測され, そのたびに銀河の新たな一面を見せつけてくれています(図3)。我々の銀河系も外から眺めると,きっとこんな姿をしているはずです。 現在,両銀河は互いの重力で引っ張り合い,毎秒50kmの速度でどんどん接近しており,約30億年後には両者は衝突すると考えられています。 そのころには,我々の子孫は月や火星だけでなく太陽系さらには銀河系をも飛び出して, この近づいてきたお隣さん銀河にもごあいさつに伺っているかもしれません。そして人類の宇宙観も, きっと今の我々が想像だにしなかったものへと変遷しているに違いありません。
二人はアンドロメダ星雲からの縁だそうです。