広告業の進化と歴史、そして大転換
従来の広告会社のビジネスモデルとその提供サービスが確立するまでには、スペースブローカーからスタートして、スペースを売るための付加サービスの提供を積み上げてきた歴史があります。つまり新聞や雑誌の広告スペースを売るだけから、スペースを売るために広告文(コピー)を書くサービスを加え、民放ラジオやテレビが始まるとCM制作、CM表現を開発するためにマーケティング調査、テレビCMに連動した店頭施策、イベント、トータルキャンペーンとサービス領域を広げていったわけです。いずれにしても、マス広告を中心とする広告スペースを売るために周辺サービスを提供してきたのが、日本の広告会社であります。
さて、欧米もAE制という完全にクライアントをレップするサービス形態ではあるものの、メディアのコミッションは収益の中核でありました。しかしメディアバイイング機能は、ブランドコミュニケーション開発と当然連携するものの、役割を担う者を機能分社し、大量発注には低いコミッションレート(というかフィー)で受注するようになります。
欧米のメディアバイイング会社は、プランニングシステムが確立しており、基本的に習得すれば誰でもプランニングできるようになっています。従業員は女性が多く、ブランドエージェンシーに比べ、その人件費は安いのです。つまりメディアプランニングバイイングサービスは付加価値が比較的低いと認識されています。そのかわりコミュニケーション開発つまりアイディアを供給する会社には、相応のフィーが支払われます。そしてその収益構造も変化してきました。いわゆるAbove the Lineの広告領域(クリエイティブ開発、メディア販売) は想定的にシェアを落としており、DAS(Diversified Agency Service)領域のシェアが上がっています。
極めて近い将来、日本の広告業界が直面する事態とは、まずはマス広告枠を売ることを前提にそのマージンを収益源とするフルサービス提供がしづらくなること。もうひとつは、マス広告の到達量を効果とみるのではなく、エンゲージメントという概念のように、実際にどれだけターゲットの琴線にふれるコミュニケーションができたかを問うようになると、アイディアで創出されたコンテンツしだいで広告的効果は大きく左右されることになるので、優秀なコンテンツ開発ができるプレイヤーの価値が高く評価されるようになります。そして一部の非常に有能な人間(コンテンツ開発者)の収入は格段に高く、比較的誰にでもできるオペレーションサービスとの差が大きくなります。そうなると、これらを同じ会社で、同じ給与体系の中に抱え込むことは難しくなります。従来の機能を1社で無理に囲いこもうとすると、市場で評価される価値より、オペレーションには高く、アイディア創出には安い対価しか払えないので、成り立たなくなるのです。それだけ日本の広告会社は1社単体で何でもやってきたのです。(逆に云うと、周辺サービスを何でも取り込めるほどメディアマージン収入があったということ。)しかし今後は1つのビジネスモデルや一定の顧客層へのサービスをそれぞれに最適化しないと経営できなくなります。
そして一番重要なことは、マス広告枠出稿への誘導を前提としないコミュニケーション開発のスキル(つまり人材)を育成することが、今の広告会社とは別の育成装置を用意することでしか解決できないということです。欧米には既にインタラクティブエージェンシーという会社(業態であり機能)がこれを担っています。こうした業態があることが従来のトラデルショナルエージェンシーにも次世代対応のいい刺激と機会を与えているのです。
私は「日本にはインタラクティブエージェンシーが存在しない」と思いますが、これは業態論ではなく、スキル(人材)育成装置がないということなのです。
現在の総合広告会社は、会社の1スタッフ部門として、インタラクティブを機能させようとしていますが、一番肝心なクライアントとインターフェイスするところ、つまり営業でのインタラクティブスキルを育成することができていません。営業にスキルがなければ、いくらスタッフを強化しても、実際には強化にはなりません。スキルのない営業にまともな仕事を持ってこれるはずもなく、まともな仕事がなければスタッフのスキルも鍛錬されることもありません。当然のことです。営業もスタッフも顧客と一緒になって鍛錬されることで、スキルが磨かれる訳で、営業とスタッフは一体として機能しないことには新しいスキルセットは成立しないのです。
広告業のビジネスモデルの大転換は、「スペース販売の利益を中心に、周辺サービスを行う」というモデルと、それによって培われてきた広告マンスキルが崩壊することです。おそらく今の広告会社経営陣には特に後者が理解できません。成功体験が邪魔をしているためです。次世代の広告マンスキルについて、その人材育成を第一に考える人たちを総合系、ネット系を問わず、今こそ結集すべき時になっています。