~「枠」から「人」へ~ のもうひとつの視点
2月はブログをさぼってしまった・・・。
ということで、「DSP/RTB オーディエンスターゲティング」の書籍 の中の原稿の一部になる一文を掲載してみます。
オーディエンスデータやDSPでリアルタイムにクッキーを選別して買い付ける手法は、かなり周知されてきた感もある。しかしこのパラダイムシフトの一番大きな変化は、単にターゲティング技術の問題ではなく、まさに「DSP」のDSつまりデマンドサイドということにある。
デマンドサイド=バイイングサイドの論理で広告が配信できるということは実は大きな構造変化だ。
従来、すべての広告はいわゆる「枠」ものであり、「枠」とかネット広告でいうところの「広告メニュー」というものは、当然セルサイドがつくったものである。バイサイドは基本セルサイドがつくったフォーマットやユニットで買わざるを得ない。既製品の服を買って着ないといけないのだ。
一方DSPという考え方では、1日だけ大量出稿したいとか、逆にずっと継続的に特定クッキーにだけ複数のクリエイティブを一定の順番で見せようとか、既存の「広告メニュー」では対応できないこと(できにくいこと)ができる。買う側の都合にいくらでも合わせることができるとうのがポイントだ。
また受給状況という要素を別にすれば、基本クッキーを選ぶターゲティングそのもので単価が上がることはない。外部オーディエンスデータを購入するにはコストかかるが、内部データの利用の範囲では、メディア側のデータを使わないので特段単価があがる構造にはない。やりかた次第でターゲティングした広告でも掲載面を安く買うことはいくらでもできる。
またターゲティングという考え方も、従来はメディアを選ぶためのものだったと言ってもいい。何故、ターゲットセグメントの性年齢区分を例えば男女20~34歳にしないといけないかというと、そうでないとTVの個人視聴率で到達量を確認できないからである。また雑誌の読者層をターゲットプロフィールに重ねることもあるが、これだけ雑誌が売れなくなると、そもそもこうしたターゲッティングに意味があるのかということになる。
従量制のTVスポットにしても、欲しいところだけ買えるわけではない。ご存知のようにプライムタイムに1本引くには早朝深夜に何本かいっしょに買わないといけない。悪い言い方をすれば、売る側の論理でできている「抱き合わせ販売」である。(メディア会社にクロスメディアといわれるとおよそこの感覚になる。)
こうしたことは長い間「当たり前」で疑問を持たない広告主もまだたくさんいるであろうが、既製品を選ぶだけの時代は、少なくともネット広告、モバイル広告においては終わるように思う。しかし買う側にとっても習い性で既製品を選ぶことしかしてきていないと、いざ「買う側の論理でバイイングしなさい」といわれてもどうしていいか分からないという事態になることが多いだろう。
DSP/RTBやオーディエンスターゲティングでは、広告配信先のデータベースを広告主自身が管理するという時代が来る。そうなると、ターゲティングの発想はどのメディア、どのビークル、どの掲載面を選ぶかを前提にしたそれではなく、どんな行動をした人をターゲットとするかという行動ベースであり、またそれらの相関から見える「行動の兆し」である。
しっかりした仮説、シナリオをもってデータの大海原からモーゼの十戒のごとく道筋を発見できるかたいへん興味深いマーケティングの時代になったといえる。
広告を買う側の論理でしっかりしたプランニングができるかどうか、ここは広告主企業のマーケターがターゲットプロフィールの再構築を含め、広告を買う側の論理が十分発揮できるスキルを獲得できるかどうかにかかっている。ますます広告主が自社内でこういうスキルを持つ、持たないで、競合他社との差が生まれる。「枠」を売りたい広告代理店任せにしておくと競合と大きな「差」をつけられかねないことをよく肝に銘じておいたほうがよろしいかと思う。元代理店の経験からいいますと・・・。