VICEが発表した「TVにネイティブアド」は本当にすごいのか
DIGDAY JAPAN を読む機会が多い。
なかでも、最近ではこの記事に注目した。
DIGIDAY Japan
ネイティブアドを行う、初のテレビ局「VICELAND」誕生:Webのビジネスモデルは通用するのか?
http://digiday.jp/publishers/vice-coming-to-tv/
これを読んでもらった上での解説エントリーだ。
身近なたとえ話を考えて見よう。テレビ東京が「ガイアの夜明け」をブランデットコンテンツと定め、スタートアップの企業達にフォーカスした紹介番組にシフトさせ、中国Youkuと放映パートナーシップを結んだとしよう。これでテレビ(局)のネイティブアド事業の出来上がりだ。
今後はフジテレビでも日テレでも、ブランデットコンテンツを制作する本数が増え、自社配信にこだわらず拡散するパートナー(売り先)を探す(営業する)、という事が始まるのは時間の問題だろう。
今回VICEのCEOシェーン・スミスが発したコメントがすごかったのは、「テレビのネイティブアド」の旬の話題を、タイミングを見計らったようにIABの国際カンファレンスで発表をしたこと。VICEメディアは元はモントリオールのローカル「パンク」雑誌としてスタートした。スミスCEOがWEBメディアとしてここまで業態を変遷させたことは驚く。もう一つ凄いのは、コンテンツをグローバルに展開させる(営業する)と標榜したこと。
日本のテレビ局の事業モデルがどうシフトするのか、という目線でこのニュースを紐解いてみる。そのためにまずは、日本のテレビ局とアメリカのケーブルTVの事業の違いを整理しておこう。共通点が見つけやすくなる。
■局とは「作り手」なのか「送り手」なのか。
アメリカには「ケーブルテレビ配信社」(コムキャスト、タイムワーナーケーブル、ディッシュTV等)と、ESPNやA&Eらの「ケーブル番組制作チャンネル」とが存在する。これらをひっくるめて「ケーブルテレビ」と略して呼んでしまうのでややこしい。日本のテレビ局は上記の両面を兼ね備えて「局」と呼ばれていると考えてよいだろう。
結論から言えば、日本のテレビ局は、良し悪しは別にして「番組制作チャンネル」という制作者側の色がだんだん濃くなる可能性がある。少なくともネットフリックスへ番組制作で手を組んだフジテレビの動きはこの方向だ。今まで政府からの利権で儲けていた「配信者」側ビジネス、を今後どう扱うのかが見ものだ。
■パイプ屋なのか、制作屋なのか
アメリカに話を戻す。ネットフリックスやHULUの登場以前は、アメリカで「テレビ番組を見る」場合、視聴者は「ケーブルテレビ配信社」に月額100ドル程支払って200チャンネルを見る、というスタイルが主流であった。このケーブルテレビ配信社(コムキャスト、タイムワーナーケーブル、ディッシュTV等)を、話の区分をわかりやすくするためにコンテンツを送り届ける「パイプ屋」と表現しよう。パイプ屋は「200チャンネルパッケージ」や「スタンダード50チャンネルパッケージ」等の価格差別したバンドルメニューを用意して視聴者に売る。パイプ屋事業には、上記の古来のケーブル配信社だけでなく、電話線事業のベライゾン、AT&T等が参入している。
今回のVICEと発表をしたA&Eは「番組制作チャンネル」であり、パイプ屋にチャンネルを購買契約してもらって利益をあげる側だ。平たく言えば番組制作して放送局に売る「プロダクション」なのだが、1本単位ではなく「チャンネル」としての仕入れ契約を年単位で行なう。良い番組チャネルとしての「ブランド力」を高める事が、彼らの生命線だ。
当然パイプ屋に高く売れるチャンネル(ESPNは筆頭)と、あまり高く売れないチャンネル(A&E)が存在する。ちなみに1契約者あたりのチャンネル平均単価は31セント。ESPNはその20倍の6ドル強だが、A&Eは30セントだ(※SNL Kagan調べ)。
図2 ケーブルテレビ局(コムキャスト、タイム・ワーナーケーブル、ディレクTV等)が、ネットワーク局(ESPN、TNT等)に支払う、購読者1件あたりに占めるコスト。業界平均は約41セント、中央値は14セント。ESPNがダントツで6ドル、A&Eは登場していないが30セントと言われている。
■ディズニー資本のA&Eでもミレニアム狙いのコンテンツが作れない
A&Eは、ディズニーと米ハースト社(コスモポリタン等の雑誌)の50/50ジョイントで作られた「番組制作チャンネル」。A&Eとはアート&エンターテイメントを意味する。傘下には同じ名前のA&Eの他、「H」のロゴでお馴染みのヒストリーチャンネル、今回改名をする事になったH2、他10チャンネル持つ。
このA&Eが立ち上げたH2チャンネルが、A&Eの自力ではミレニアム世代を引きつけることができず、お手上げたった。18-49歳の層ではついに昨年比20%の落ち込みがあった。今回の発表は
(DIGI DAY引用)2016年初頭に、衛星・ケーブルテレビ局A+Eネットワークが保有する「H2チャンネル」を「VICELAND」と改名し、A&Eとともに運営すると明らかにした。A&Eが「VICELAND」の株式の過半数を保有し、放送や業務面を統括。残りの半数近くを保有するVice Mediaがすべてのコンテンツを提供する。(ここまで)
A&Eが先見の明があったのはVICEに2014年から資本をいれていた事だ。この交渉も主導権を持っていたのはVICE側で、当初はタイム・ワーナーをパートナー交渉をしていたが、バリュエーション価格が折り合わず、A&Eがパートナー権を獲得した。
A&EネットワークはVICEに15%(約300億円、2.5億ドル)出資した事になっているが、他にもマーチン・ソレル率いる英WPPがVICEに2011年に数%、ルパード・マードック率いる21 Century FOXが5%(約84億円、7千万ドル)と、ちゃんと出資している。VICEのシェーン・スミスはカナダ出身だ。日本のテレビ局は、グローバルコンテンツについてどれほど積極出資をしているだろうか。競っている矛先が日本の井戸の中での視聴率では、コンテンツプロバイダーとしての伸びシロは小さい。
VICEの現在の価値は6000~7200億円(50~60億ドル)と言われており、15%保有するA&Eは約600億円(5億ドル相当)、5%保有するFOXは約240億円(2億ドル)程の理論上のキャピタルゲインを作った事になる。このように、番組制作チャンネルが自社内に制作機能を持たずとも、グローバルに伸びるコンテンツへの早期投資によって、チャンネルブランドを成長させている。この投資の輪が欧米人の同士の人脈ネットワークの中で粛々と進んでいる。
続く