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DINYレポート 「船底の穴」のDNVBか、「甲板の椅子並べ」か、IABも示唆する経営判断とは

2018.03.23 22:58




「DNVB(Digitally Native Vertical Brand)」の呼称はその概念の先端を行く男性ファッション「Bonobos(昨年、米流通企業のWalmartが約340億円で買収)」の創業者が名付けたネーミングだ。日本でも「サブスク」ブランドとして多くのブランドが立ち上がっている。日本でもこれから「月額会員」を募ってサブスク・ビジネスが次々に出てくるだろう。

 このDNVBブランド達は自らのバイブル(想い)に対して「熱狂的なファン、顧客」を持ち成長している。彼らの顧客とは長期的なエンゲージメント(サブスク申し込み、クレジットカードなどの決済情報の契約)を結んでいる。そしてDNVB自社からの情報はオンラインにてメディアを経由せず顧客にリーチし、商品やサービスは顧客の自宅(やオンライン)にまで直接届ける「流通網」を持つ。

 言うならば「アマゾン要らず」、「パブリッシャー・メディア要らず」、「エージェンシー要らず」、「店頭、レジ要らず」のモデルだ。レジが不要の「Amazon GO」が話題になっているが、この現象の本髄はコンビニやCPG企業を含めた商品の流通企業に限らない。「Netflixエフェクト」を受ける番組・映像を流通させる放送局やパブリッシャーにとってもど真ん中の話題であり、医薬・保険を含めた健康サポートや教育事業の流通に至るまでのあらゆるビジネス関する「ディストリビューション」網の再構築であり、序章だ。
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 と、ここまでは日経新聞を始め、各社が報じている内容だろう。それよりも今、米国で深刻なのは「では、どうするのか」の経営者としての舵取りの領域である。さぞかし現状は無視できる程の小さな穴なのだが、船底の穴はそのまま放置していくと、どんどん自社の旧来のビジネスがDNVBに少しずつ侵食され、沈んでいく。目の前の甲板デッキの椅子をせっせと並べ変えして、沈み具合を調整している場合ではない。

 このDNVBのビジネスモデルの説明において、1898年に生まれたとされるマーケティング概念の「ファネル(ジョウゴ型)理論」は当てはめにくい。これらのブランドにおける顧客コミュニケーションは、ジョウゴ型と表現するよりも「円筒型」に例える方が分かりやすい。円筒の直径サイズはほんの「熱狂的な数万人」でビジネスが成立する。円筒状(パイプ状)の繋がりはジョウゴ状(のマーケティング)のように「拡張」させるつもりはなく、ダイレクトに円筒の先(顧客)までメッセージやサービスが届けるしっかりとしたパイプだ。顧客をジョウゴで拡張させるためにサードパーティのデータを使うよりも、いかにファースト(&セカンド)パーティーのデータを筒として育成させるかの重要度が増える。



©翔泳社




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 実はマーケティングの雄であるP&Gが、このDNVBを避けたばかりに他社に抜かれた状態になり、待った無しになっているのはご存知だろうか。

マーケティングの雄、P&Gへのファンドの提言(Markezine)
https://markezine.jp/article/detail/27918


 日本法人のP&Gは世界的にも「優良児」の経営なので気づきにくいが、本体の米国はDNVB(D2Cブランド)への投資を避け続け、抱えて慣れないブランドは他社に売却し、数十年前から保持する伝統ブランドにばかり偏ってマーケティング費用が充てがわれた結果、成長が止まっている。物言う株主(トライアン・ファンド)がこの点を指摘し、それを抵抗していたP&G経営幹部はトライアンから経営者を受け入れを今年3月から開始した。

 さらにこのDNVBのビジネスモデルは、「広告」の協会であるIAB(Interactive Advertising Bureau)すらが特別レポート(スライドページは175枚!)として今年2月に発刊している。下記リンクを紹介するので、是非ダウンロードして見てもらいたい。数値や絵が多いので英語を気にせず読み込めるはずだ(経営を目指す若手は必見)。

https://www.iab.com/wp-content/uploads/2018/02/The-Direct-Brand-Economy-Master-Deck-v14.pdf

冒頭の3ページ目に、これらのDNVBブランドのロゴが約150個程紹介されている。↓





出典:IAB

 驚くのはIABという「インタラクティブの広告」に関する業界団体がこのDNVBという「ビジネスモデル」を団体の活動領域として紹介する必要が出てきた、という現れである。IABが「DNVBも我々の貢献の範囲」と先手で主張して来た事になる。


 上記「米国P&G」の事例や「IAB」の事例は「マーケティング」概念がより経営トップ(CEOレベル)にシフトしている顕著なシグナルだ。日本では「CMO」の役割の必要性がようやく説かれ始めているが、欧米ではすでに「CMOの終焉」が一部のマーケティング業界上層部での共通用語となっている。「コカ・コーラ」、「ハイアットホテル」、「GAP」、「バナナ・リパブリック」、等はCMOの呼称ポジションを削除し、CEO等のトップが兼務する事を公表している。

 その変化の背景としてCMOの「M:マーケティング」の旧来の意味合いが、「コストセンター」としての役割で「販促」や「(旧来の)ブランド育成」という「今ある商品を売る・良くする」支援に留まる意味合いを持つからだ。

 すでに企業経営から見たマーケティング(的)な範囲とは、「成長ドライバー」を発見して、投資・育成をする=「未来ROIを獲得する事業センス」が求められている。D2Cブランド買収=One-to-Oneで繋がるオーディエンス顧客の獲得という風上の決断に始まり、顧客に到達するまでの「ディストリビューション(流通、コンテンツ、カスタマーサービスを含む)」を投資として捉え、風下まで管理・コントロールするセンスと責任だ。これまでマーケティング費用とは別予算と考えられていた「設備投資(R&D)費用」は、明らかに(重要に)成長ドライバーを担うので「R&D+広告+プロモーション」は全て「新」マーケティングの管轄領域となる。

 例えばP&Gが昨年「ネット広告を削減しても、売上には影響が無かった」と公表し、ネット広告業界に嵐を起こしていたが、肝心なのは「削減費用」やそれによる「利益の向上」ではなく、「では、浮かした費用を、R&Dとして未来の成長ドライバーのDNVBのようなブランドに再投資出来たか」という采配や判断である。


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 以上、一方的に米国からのあおる側面ばかりの論調をお許しいただきたい。実は悩ましい側面も含んでいる。それは2018年の米国と世界の景気動向だ。上記DNVBの概念や、最近目まぐるしく成長するOTT(Netflixを始めとするネット配信動画)や、動画コンテンツの「新」ビジネスは全て「右肩上がりの経済」を大前提として(担保として)成長している。それらのビジネスモデルのほとんどが、フリーキャッシュフローが黒字の範囲で成長しているモデルとは言えない。「船底の穴も気になるが、目の前の雲行きが怪しい」という船底と上空の視座を持った経営判断が求められる。