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富士の高嶺から見渡せば

「対中非難決議」不採択、世界史的流れに逆らう日本の国会

2021.06.25 15:54

異様・異質な中国に対して、新疆ウイグルや香港などでの人権の侵害や自由の剥奪に抗議し、その権威主義・拡張主義を押しとどめようと声を上げる国際的な動きは、もはや世界史的な流れになっている。しかし、日本ではいまだに、対中国非難のそうした世界的潮流に乗れずに、その流れに抵抗しようとする人々がいる。

日本の国会では、ウイグル、チベット、南モンゴル、香港での中国の人権侵害を非難する国会決議、いわゆる「対中非難決議」を超党派で採択しようという動きが、この春から進んでいた。しかし、6月16日に会期末を迎えた通常国会では、自民の一部と公明党を除いて、ほとんどの党派が採択に賛成していたのにも関わらず、国会決議の採択は葬り去られ、日本の立法府として何の声もあげることができない、という結果に終わった。

その直前、英国コーンウォールで6月11~13日に開かれたG7サミットでは、中国問題が主要議題となり、G7首脳宣言では、ウイグル人に対する人権侵害について中国に「人権や基本的自由」を尊重するよう求め、香港に関しては「自由と高度な自治」を尊重するよう求めた。さらに中国の脅威に晒されている台湾問題に触れ、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記したのは画期的なことだった。また、東シナ海と南シナ海の情勢への懸念を表明し「緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」とし、「G7の価値を推進していく」と表明された。

そしてG7サミットの翌日14日にブリュッセルで開かれたNATO首脳会議。バイデン米大統領もG7から転戦したこの首脳会議でも、中国が「主敵」の一つに位置づけられた。発表された首脳宣言では「中国の野心と自己主張の強い行動は、ルールに基づく国際秩序と同盟の安全保障への体制上の挑戦だ」と明記し、中国を名指し、その「野望と独断的行動」をNATO加盟国の「体制上の挑戦」だと位置付けたのである。

これが意味することは、世界トップクラスの民主主義先進国の集まりであるG7サミットと、同じ民主主義先進国の米欧軍事同盟であるNATOが対中国で歩調を合わせ、中国による人権侵害と秩序の破壊に真正面から対抗していく姿勢を示したこと、そして、人権問題と世界の安全保障という2つの領域で、中国こそが民主主義自由世界の「公敵」となったこと、そして「自由民主主義の世界」対「専制独裁の権威主義体制」との対決構図が定まったという点で、画期的な会議であり、世界史的な転換点だったのである。

こうした流れはトランプ政権が中国の不正貿易問題を取り上げて対中抑止政策に乗り出した時点で本格化し、ことしの1月19日、トランプ政権の最後の日に、ポンペイオ前国務長官は声明を発表し、ウイグル人の強制収容や人権侵害など少数民族に対する中国政府の弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)だと規定した。そして、その判断はバイデン政権にも引き継がれ、ブリンケン国務長官も中国に対しては一貫して強い態度を貫いている。

さらに、2020年10月6日、国連総会第三委員会で、ドイツの国連大使が日米英仏を含む39か国を代表して中国の人権問題を批判する声明を発表し、新疆ウイグルにおける人権侵害として、宗教に対する厳しい制限、広範な非人道的な監視システム、強制労働、非自発的な不妊手術を取り上げたほか、香港における国家安全維持法施行後の政治的権利や自由の剥奪、チベットにおける人権侵害の問題にも言及した。さらに英国をはじめ、仏、独の海軍が南シナ海や東シナ海への艦隊の派遣を表明するに至り、「自由民主主義の世界」対「専制独裁の権威主義体制」の世界的対決構図は誰の目にも鮮明になったのである。

こうした世界史的な、もはや押しとどめることができない潮流に乗ろうせず、現代世界のなかに確固として形作られた対立構造を、見てみないふりをしようというのが、日本の国会議員のなかで媚中派と呼ばれる勢力、二階幹事長を中心とするとする自民党の一部と、公明党だった。

参議院議員の青山繁晴氏やジャーナリストの有本香氏らが、対中非難決議が葬り去られた経緯を明らかにしている。

有本香『以読制毒』「誰が対中非難決議を潰したのか」夕刊フジ6月17日

青山繁晴チャンネル6月18日「僕らの国会第170回「あえて真相暴露・対中非難決議」

「中国のウイグル、チベット、南モンゴル、香港等での人権侵害を非難する国会決議」案、いわゆる対中非難決議は、在日のウイグル人団体を一つにまとめ、それをもとに新たな「日本ウイグル国会議員連盟」の立ち上げに尽力した会長の古屋圭司元国家公安委員長が中心になって文案をまとめ、根回しを行なってきた。さらに4月21日に発足した「南モンゴルを支援する議員連盟」(会長・高市早苗元総務相)がこれに加わり、採択に向け機運を高めてきた。国会決議を推進してきた国会の有志らは、中国問題がメインテーマとなる日米首脳会談、G7サミットの前に、日本の立法府としての意志を示すべきだと強く主張してきた。

ところで、国会決議は、全会一致を慣例としていた。このため、各会派に受け入れられるように決議文の文案を調整する中で、対中非難決議なのに「中国」という国名がすべて削られ、逆に軍事クーデタで軍部が政権を握っている「ミャンマー」という国名が入れられて、「対中国」の色合いを薄める工作が行なわれた。

何のためにそんな小癪なことまでしたのかというと、中国との特殊な関係を維持してきた公明党に配慮した結果だという。その公明党は4月18日の日米首脳会談前の国会決議採択には絶対に反対という態度だった。日米首脳会談のあとも決議案は宙ぶらりんにされ、6月11~13日のG7サミット前の決議採択も見送られた。日米首脳会談やG7サミット前に、あえて中国との対決姿勢を打ち出すことに及び腰になった結果だといわれた。

そして、いよいよ6月16日の会期末が目前に迫った6月13日夜、対中非難決議に関わったウイグル議連、南モンゴル議連、チベット議連(下村博文会長)、「人権外交を超党派で考える議員連盟」(中谷元会長)らが集まり、会期末に対中非難決議を成立させるための対応を議論した。このあと下村政調会長が青山参議院議員に明かした事情は、この件で「与責」(与党=自公政策責任者会議)の開催を呼びかけているが公明党側からは返事がない、ということだった。下村氏は「公明党が乗ってこなければ置いていく」という意向も示したという。自由民主党としてまず採択するという態度を決め、それが公明党にとってもプレッシャーになる、という考えだった。

ところで、自民党の党内手続きとして重要事項に関する党の方針を決定するためには、党4役のサインが必要で、対中非難決議に関しては、14日夜の段階では、党4役に加え、森山国対委員長もサインをする意志を示していたという。その夜、自民党本部の幹事長室に下村、古屋、高市、「日本の尊厳と国益護る会」の長尾敬副代表らがあつまり、下村氏が二階幹事長の前に、決議案に了承というサインを書き込むための用紙と赤ペンを差し出した。二階氏が赤ペンを手に取ろうとしたその瞬間、「ちょっと待ってください」と林幹雄幹事長代理が口を挟み、「東京都議選を考えると、公明党との連携がいかに大事か」と長々と説明し、サインを保留するよう説得したという。有本氏の取材によれば、林幹事長代理はこの時、「こういうの(ウイグル問題)、あまり興味ないんだ」とも発言したという。

これに対し下村氏は「G7声明がでたあとに日本の国会決議がでないというのは公明党にとって世界的にも国内的にも良くない」と反論したが、最終的には二階幹事長が「あす(15日)に予定されている『二幹二国』(自公の幹事長・国対委員長会談)で議題にする」といって引き取った。

しかし、翌15日の時点でも公明は態度を決めておらず「時間切れ」だとして、結局「二幹二国」では何の結論も出されなかった。

最終日の16日は重要土地規制法案をめぐって、野党から各委員会の委員長に対する不信任決議案が次々と出される状況の対応に追われ、ついに徹夜国会にまでなって、対中非難決議案は結局、流れてしまった。

公明党の北側一雄副代表は、翌17日の記者会見で対中非難決議がまとまらなかったのは「公明党のせいではない。自民党の執行部内で意見がまとまらなかった」と発言した。しかし、この発言はおかしい。これは、自民党内の意見がまとまらなければ、公明党内の意見もまとまらない、あるいは自民党内がまとまらなければ、自分たちも意見をまとめないという意味なのか?自民党内の意見がどうであろうとも、公明党自身が主体的に党としての態度を決め、それを独自に明らかにするのが本来の筋ではないのか?

そもそも国会決議は全会一致が原則だというが、これと連立政権の下での自公の政策一致とは関係がない。立法府での国会決議は、それぞれの政党会派の責任で独立した意志を示すべきで、「与責」だとか「二幹二国」などと言ってすべて与党としての意見をまとめなければならないとしたら、政党としての独自性や独自の理念など打ち出せるはずがない。

公明党が対中非難決議についての態度を示さないことを受けて、安倍前総理は「決議を止めたのは公明党だ。公明党が原因であることをはっきりさせるためにも自民党としての意志を示すべきだ」と青山議員に指示し、15日朝の自民党外交部会で急遽、国会決議への賛成を満場一致で可決することになったのだという。つまり、自民党は対中非難決議に賛成という態度を機関決定しているのである。自民党執行部がまとまっていないなどという言い訳は通じない。公明党は「人権と平和の党」という理念を示すべきであり、それができなければその看板は下ろすべきだ

公明党の山口代表は、対中非難決議について「ジェノサイドだという明確な証拠でもあるのか」と否定的な態度を示したと伝えられている。

残念ながらジェノサイドの証拠は、有り余るほどある。強制収容所に収容され、かろうじて解放された人が実名と顔をさらしてその体験を告白しているし、ここ数年間、出生数が極端に減り、避妊手術が急増している実態は、中国側が公表した人口動態や衛生に関する統計ではっきり確認できる。私自身は、新疆ウイグルのカシュガルやホータンでの地元ウイグル人に対する検問の厳しさや数百メートルごとに設置された警察派出所(「便民警務站」)、人々の行動を監視する街頭カメラの数の多さなどを直接、この目で確認し、映像にまとめ紹介した。

Youtube動画「新疆ホータン・カシュガルでの厳重警備と監視」2017年9月

ウイグルに「ジェノサイドの証拠があるのか」どうかの話ではなく、そのように訴える人々が現実にいるとしたら、そうした人々の訴えに耳を傾け、真実はどうなのかと中国政府に真相を質すのが人権の党の役割ではないのか。

香港人の自由な選挙への願いを抑圧して集会やデモを禁止し、香港の「言論の自由・表現の自由」の最後の砦だった「蘋果日報」(リンゴ日報)の資金を凍結し、編集幹部を次々に逮捕し、力づくで廃刊に追い込んだ香港の現状に、日本の国会が何の声も上げずに黙認していいのか。

ウイグルにも香港にもチベットにも南モンゴルにも、それぞれの信念に基づき、宗教に救いを求める人々は大勢いる。信教の自由の大切さを身をもって知り、宗教の保護に命をかけるべき唯一の政党が沈黙することは許されない。

台湾問題は、沖縄や尖閣諸島だけでなく、日本の運命にも直結する事態である。中国空軍機の度重なる領空侵犯など習近平のあからさまな台湾威嚇に対して恐怖に怯える台湾の人々がいるという現実を前に、日本の国会が明確に抗議の意志を示さなくて、いかにして日本の生存と国民の命を守ることができるというのか?