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ZIPANG-5 TOKIO 2020 全国の姥神像行脚(その30)「奪衣婆と姥神は同一?」【寄稿文】 廣谷知行

2021.06.26 13:45

姥神と奪衣婆の混同

この全国姥神行脚シリーズでは、姥神はその名のとおり、鬼婆や老女の姿の神様を祀ったもの、奪衣婆は地獄信仰における三途の川のほとりで亡者の服をはぎ取るものとして別々に扱ってきました。しかしながら姥神は、よく奪衣婆と混同され、時に奪衣婆として紹介されることも少なくありません。 これは、姥神信仰が流行した江戸末期には、すでに地獄信仰のなかの奪衣婆についても周知されていましたので、姥神を祀る時、すでに混同、同一視されていたことが原因と考えられます。


 地獄信仰のなかで有名になった奪衣婆

京都府 六波羅蜜寺の奪衣婆像


奪衣婆についても、地獄絵などにもよく描かれ、また、全国に多くの像が残されています。例えば空也上人像で有名な京都の六波羅蜜寺に、閻魔像などと一緒に祀られた奪衣婆像は室町時代の作品と年代も古く、姿も特徴的です。

よく考えると、これも不思議なことで、初めて奪衣婆の名が確認される地蔵十王経では懸衣翁とともに登場しているにも関わらず、懸衣翁の像はほとんど見ることができませんし、地獄絵にも描かれていることはほぼありません。


 青森県 恐山の懸衣翁


神奈川県鎌倉市 長谷寺の懸衣翁像


神奈川県鎌倉市 長谷寺の奪衣婆像


懸衣翁の像は青森県の恐山や神奈川県鎌倉市の長谷寺などごくわずかな場所でその像を見ることができるのに対し、奪衣婆の像は全国的にさまざまな寺院などで見られます。


東京都 九品仏の奪衣婆像 


東京都の九品仏にある奪衣婆像も大きく立派です。ここでも閻魔像と一緒に祀られており、奪衣婆は地獄信仰のなかでは閻魔様の次くらいに有名だと言えるのではないでしょうか。


十王信仰のなかに組み込まれた奪衣婆

地獄信仰のなかに十王の存在があります。十王とは、死んでから転生するまでに生前の罪の審査をする王で、最初は七日ごと、初七日が秦広王、次に二七日が初江王で、十王を描いた図ではここに奪衣婆が登場しています。その後、三七日が宋帝王、四七日が五官王と続き、五七日が有名な閻魔王になります。さらに六七日が変成王、七七日、つまり49日に泰山王となり、ここでどのように転生するかが決まります。

そして後半になると、百ヵ日に平等王、一回忌に都市王、三回忌に五道転輪王となっています。ちなみに日本ではその後さらに七回忌の蓮華王、十三回忌の祇園王、三十三回忌の法界王が追加され、十三王となっている場合があります。49日など、故人が亡くなってからそれぞれの時に法事を行い読経するのは、十王の審査に合わせ、現世から故人の罪が軽くなるようにお願いするためです。

この信仰に基づき、全国の寺院などでは十王の像も多く制作され、十王堂などに祀られています。そしてこの中に奪衣婆が追加されているものがよく見られます。


神奈川県鎌倉市 円応寺の十王と一緒に祀られた奪衣婆像


秋田県湯沢市の三途の川にある十王堂に祀られた奪衣婆像


京都府 鳴滝延命地蔵尊にある十王と一緒に祀られた奪衣婆像


例として、鎌倉時代の十王像が残されている、神奈川県鎌倉市の円応寺の十王像のなかにも違和感なく奪衣婆が祀られているほか、以前その22で紹介しました、秋田県の三途の川にある十王堂などにも奪衣婆が祀られています。

さて、十王のなかで5番目に閻魔王がいますが閻魔王はもともとインドのヤマ神で、この神は最初の人間であり、初めて死んだ人間として冥界の道を作ったとされる神であるため、よくその存在が大きく取り上げられます。そのため、十王像のなかでも、閻魔王だけ大きく作られていることが多いのですが、奪衣婆についても閻魔王と合わせて他の王よりも大きく作られることが多いようです。


奪衣婆と姥神は同一?

奪衣婆が地獄信仰の中で、閻魔王に次いで有名になっており、獄卒や牛頭、馬頭、懸衣翁よりもその存在が大きくなったのは、やはり古くからの姥神信仰の影響があったのではないかと思われます。

姥神信仰が古くから盛んだったと考えられる富山県の立山に地獄があるという記述が、平安末期の作品である今昔物語などにすでに見ることができます。立山での姥神信仰が奪衣婆の誕生する平安時代より古くからあったとすれば、仏教の地獄信仰と立山を結び付け、奪衣婆そのものが立山の姥神をモデルに創作された可能性も否定できないのではないでしょうか。

参考文献

「古寺巡礼 京都5 六波羅蜜寺」、淡交社、二〇〇七年


次回に続く・・・


寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家



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発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)



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