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なるの台本置き場

【男1:女1】10 Dollar Dream

2021.07.02 15:50

男1:女1/時間目安30分



【題名】

10 Dollar Dream

(テンダラードリーム)



【登場人物】

デイジー:サーカス団シルクの猛獣使い

マーク:日雇いの男。



(以下をコピーしてお使い下さい)


『10 Dollar Dream』作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/19077037

デイジー(女):

マーク(男):




-------- ✽ --------






001 マークM:衝撃だった。



002 マークM:王を連れ、皆(みな)の視線を集める彼女はただの猛獣使いでは無かった。……女王。きっと彼女のような人をそう呼ぶべきなんだろう。



003デイジー:さぁ。私達の時間だよ、坊や達。



004 マークM:会場が揺れるほどの歓声は彼女の美しい声に喰われてしまった。冷たくなった空気の中で彼女は白い王の顎をそっと撫でる。___刹那、聞こえた咆哮(ほうこう)に再び場内は熱気で溢れ返った。……俺は息をするのも忘れ、ただステージで猛獣達と美しく舞う彼女を目で追っていた。



005 マークM:たった20分。その20分に俺は魅せられてしまった。……それから俺は月に一度、サーカス団シルクの公演を観に行くようになった。心を手で握られたような……そんな言葉が似合う程の衝撃を与えた女王を追いかけない訳にはいかなかった。







006 デイジー:ねぇ!


007 マークM:公演に通うようになって半年程経ったある日、予想もしていなかった事が起きた。ずっと追いかけていた彼女に声をかけられたのだ。


008 デイジー:貴方でしょ?いつも席にお花を置いて帰っちゃうお兄さん。


009 マーク:え、っと。


010 デイジー:ねぇ聞いてる?


011 マーク:は、はい。


012 デイジー:お兄さんでしょ?お花を置いて帰るの。


013 マーク:……はい。


014 デイジー:やっぱり!……ふふ、いつもお花ありがとう。


015 マーク:……え?


016 デイジー:だから、お花ありがとう。


017 マーク:あぁ、いえ……こちらこそです。


018 デイジー:こちらこそ?


019 マーク:いつも素敵なステージをありがとうございます。


020 デイジー:あぁ、そういう事。……そう言って貰えて嬉しい。


021 マーク:あの……。


022 デイジー:ん?


023 マーク:どうして俺に声をかけたんですか?


024 デイジー:えーっと、どうして?


025 マーク:俺なんて沢山いる客のうちの1人でしょう?毎日来るわけでもないし、それに貴女には沢山のファンが着いてるじゃないですか。なんで俺に?


026 デイジー:貴女じゃなくて、デイジー。デイジーって呼んで。


027 マーク:え、っと。いや、でも。


028 デイジー:ほら、デイジー。さんはいっ。


029 マーク:で、デイジー。


030 デイジー:よく出来ました。ふふ。……それで、貴方の名前は?


031 マーク:俺の名前はそんな。


032 デイジー:ほら、早く言う。


033 マーク:マーク。


034 デイジー:マーク。……うん、いい名前。


035 マーク:あ、ありがとう。


036 デイジー:ふふ、どういたしまして。……えっと、そうそう質問だったね。マークの質問に答えるなら、なんとなく。かな。


037 マーク:……え?


038 デイジー:私ね、自分の直感とかを信じる様にしてるの。何をやるかとかどう生きるかとか。ぜーんぶ直感。それで、今日の一番最後、挨拶をした時にマークと目が合った。だから声をかけたの。それだけ。


039 マーク:そう……なんですね。


040 デイジー:いつもくれるあのお花、ちゃんとお部屋に飾ってるの。この前団員が家に遊びに来たんだけど、『デイジーの部屋にお花があるなんて!明日は雪が降るんじゃないか?』ですって!失礼だと思わない?


041 マーク:そう、ですね。


042 デイジー:あ、私のイメージ変わっちゃった?(独り言)あちゃーまたやっちゃった……。


043 マークM:上手く返事が出来なかった。贈った花をそんなに大事にしてくれているとは思わなかったんだ。一輪しか贈れない事を物凄く恥ずかしく思った。……逃げるように家に帰った俺は、家にあった安い酒瓶を開けた。







044 デイジー:あれ!マークだ!


045 マーク:あれ……デイジー?


046 マークM:この街で1番の賑わいを見せる大通り、シャンメルストリート。たまたま仕事で来ていた俺はオフであろういつもの派手な衣装とは全く違ったシンプルなワンピースに身を包んだ彼女に声をかけられた。


047 デイジー:こんなところで何してるの?


048 マーク:今そこの工事現場で仕事していて、その帰りです。

049 デイジー:ふぅん。……ねぇ、この後暇?


050 マーク:えぇ、まぁ。時間はありますが……。


051 デイジー:これからカフェに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?


052 マーク:俺と……ですか?


053 デイジー:マーク以外の誰と行くの?


054 マーク:いや、でも俺のような汚い人間が行くところじゃ……。


055 デイジー:そうね。仕事着で行くような所ではないわね。


056 マーク:いや、そういう事ではなくて……。


057 デイジー:マーク、家はこの辺?


058 マーク:ここから歩いて10分もかからないかと。


059 デイジー:それなら1時間後に再集合でどう?私もまだ行きたいお店があるから。


060 マーク:あの……本当に俺でいいんですか?


061 デイジー:だからそうだと言っているでしょう。その質問は今後二度と受けないからね。


062 マークM:こういうところはサーカスで見る彼女と変わらず彼女の力強さを感じる。思わず笑うと彼女は少し不服そうな顔をして俺の顔を見つめていた。


063 デイジー:何がおかしいのよ。


064 マーク:いや、なんでもないです。


065 デイジー:変なマーク。ほら、カフェ行くの遅くなっちゃうから早く解散しましょ。


066 マーク:わかりました。


067 デイジー:また1時間後にここで。じゃあね。


068 マークM:そう言って彼女は人混みに消えていった。……1時間後、約束通り彼女は先程別れた場所にいた。先程と違ったのは彼女の両手に本が何冊も入った紙袋が下がっていたことだ。



(間)



069 デイジー:マーク何にする?


070 マーク:デイジーは何を?


071 デイジー:私はこれ。今日はこの季節限定のやつを食べに来たの。


072 マーク:じゃあ俺もそれで。


073 マークM:お店に入るなりこういう雰囲気に慣れているであろうデイジーに言われるがまま窓際の席につき注文を済ませた。


074 デイジー:マークはこういうお店来る?


075 マーク:来るわけないじゃないですか。これで恐らく3度目です。


076 デイジー:ふふ、やっぱり。そんな気がした。


077 マーク:そういうデイジーは?


078 デイジー:何回も来てるわよ。ここは私の行きつけのカフェ。


079 マーク:そりゃあそうですよね。失礼しました。


080 デイジー:マークは恋人とかいないの?


081 マーク:また急に何を……。


082 デイジー:恋人はいるのかという素朴な疑問よ。


083 マーク:ここまで生きてきて一人もいませんよ。


084 デイジー:好きな人は?


085 マーク:好きな人は……いましたが伝えたことは一度も。


086 デイジー:案外臆病なのね。


087 マーク:案外……。


088 デイジー:猛獣使いの私とこうしてデートみたいな事してるのよ?臆病ではないと思っていたのだけれどね。


089 マーク:俺は……臆病者です。あと一歩のところがいつも踏み出せない。……お恥ずかしい話ですが。


090 デイジー:ふふ、貴方に足りないのは自信ね、マーク。


091 マーク:自信なんてどうやったらつくんでしょうか。


092 デイジー:そうね……少なくとも、この私が気に入っているのよ。私としてはそれで自信を持って欲しい所なんだけど。


093 マーク:有り難き幸せです。


094 デイジー:ふふ、そう。……ねぇ、もうひとつ聞いてもいい?


095 マーク:色々質問なさっているじゃないですか。今更お伺いなんて立てなくていいですよ。


096 デイジー:そう、なら。マークはどうしてウチのサーカスに通っているの?


097 マーク:そう、ですね……。


098 デイジー:団員の私が聞く質問ではなかったわね。ごめんなさい。


099 マーク:いえ。……ちょっと長くなりますがいいですか?


100 デイジー:えぇ、もちろん。時間はあるわ。


101 マーク:俺、小さい時に両親を亡くしたんです。そこからはあまりいい人生ではなくて。親戚の家を転々として、働ける年になった頃その時お世話になっていた家を出ました。


102 デイジー:そこからは一人?


103 マーク:はい。デイジーも気づいてるとは思いますが、その、稼ぎは少ない方ですので生活もギリギリで。そんな時に友人からサーカス団がこの街に来ることを聞いたんです。最初は行く気もなかったけど、その友人が『お前の生活には光が足りない』とか言って無理やり。


104 デイジー:それで、光は見つかった?


105 マークM:肩肘をつきながら、子供のような目でそう問いかける彼女にまた、目を奪われてしまった。


106 デイジー:ねぇ、聞いてるの?


107 マーク:あぁ、聞いてますよ。……見つかりました、光。


108 デイジー:ホント?!よかったぁ。……それで、その光って誰なのよ。


109 マーク:はぁ?!なんで、そう……!


110 デイジー:毎回演目が同じサーカスに何度も通うなんて、目当ての団員がいるくらいしか理由無いでしょ?


111 マーク:そ、そんな事はないだろ。デイジーの考えすぎだ。


112 デイジー:あはは!焦りすぎ。……マーク、そっちの方がいいよ。


113 マーク:何が。


114 デイジー:口調。ずっと敬語で話してたじゃない。


115 マーク:あっ、……それは……。


116 デイジー:はいはい、今更だから。普通に話して?もう団員と客だけの関係じゃないんだし。


117 マーク:あぁ……わかった。


118 デイジー:それで。……誰なのよ、マークの光は。


119 マーク:またその話か?……俺の話はいいから。次、デイジーの話聞かせて。


120 デイジー:仕方ないわね。……私の何が聞きたいっていうの?一つだけならどんな質問でも答えてあげるわ。


121 マーク:そうだなぁ……デイジーはどうしてサーカス団で猛獣使いをしているの?


122 デイジー:そ、れは……。


123 マーク:何でも答えるって言った。


124 デイジー:それはイジワルだわ。


125 マーク:君が言ったんだろう?


126 デイジー:そうだけど……。


127 マーク:でも、言いたくないなら言わなくていい。デイジーが嫌な思いをしてまで話を聞くのは違うから。


128 デイジー:……思っていたよりも紳士的なのね。


129 マーク:ご貴族様のような暮らしが出来たらどれだけ良かったことか。……なんてね。


130 デイジー:ふふ……ねぇ、聞いてくれる?……ちょっと長くなるけど。


131 マーク:もちろん……時間はありますから。


132 デイジー:また敬語。


133 マーク:これはこれは、大変失礼致しました。デイジーお嬢様?


134 デイジー:ふふ……変なの。


135 マークM:そう笑いながら彼女はゆっくりと話し出した。……彼女の両親も猛獣使いであった事。幼い頃から動物に触れていたから自然と猛獣使いを志した事。彼女の両親が所属していたサーカス団で事故があり、両親共に亡くなった事。そこから様々な街を転々とし、今のサーカス団に出会った事。……これを語る彼女は、物語を読んでいるかのように穏やかな表情をしていた。







136 マークM:こんな時間がずっと続いて欲しいと思っていたんだ。……いや、続くと思っていた。……そう過信していた。……『ずっと』なんて子供が作り出す夢でしかなかったんだ。……そう、夢でしか。







137 デイジー:ねぇ、マーク。


138 マークM:何となくその後の言葉を聞きたくなかった。


139 デイジー:私は貴方の光だった?


140 マークM:ほら、聞かなければよかった。……彼女のこんなに悲しそうな顔なんて見たくなかったんだ。


141 マーク:どうして……そう思ったの?


142 デイジー:ステージから見る貴方の目が、他の人とは違ったから。


143 マーク:あんなに熱いステージをやってる最中にそんな事を考えていたの?


144 デイジー:まぁ、ね。


145 マーク:駄目じゃないか、ちゃんと集中しないと。仲間とは言えど、相手は猛獣だろ?


146 デイジー:大丈夫よ、坊や達だもの。


147 マーク:あのねぇ……。


148 デイジー:マーク。貴方に伝えなければいけないことがあるの。


149 マーク:……なに?


150 デイジー:……その前さ、一つ私の願い事、聞いてくれる?


151 マーク:一つだけなら何でも。


152 デイジー:二言はない?


153 マーク:ないよ。


154 デイジー:今晩、私を10ドルで買わない?


155 マーク:何を言い出すかと思えば……それは聞けない。


156 デイジー:なんでもって言ったわ。二言はないと。


157 マーク:その目はズルいだろう。


158 デイジー:どんな目?


159 マーク:……女王の目。


160 デイジー:そう。……それで、買ってくれるでしょう?私を。


161 マーク:……何で。


162 デイジー:10ドル。チケット1枚分。……私に頂戴。


163 マーク:……女王様の仰せのままに。







164 マークM:次の日の朝、彼女はもういなかった。彼女は置き土産に一枚のチラシを置いていった。そこには、『サーカス団シルク、最終公演』の文字。……あぁ、あの悲しげな表情はこれだったのか。


165 マーク:言ってくれればよかったのに。


166 マークM:誰もいない部屋でそう呟く。そんな俺を嘲笑うかのように、窓をあけると幸せそうな声が聞こえてくる。……また、独りだ。







167 デイジー:サーカス団シルク、最終公演だよ。チケット1枚10ドル!ほらそこのお兄さんも、どうだい?夢と光を魅せてあげるよ。



168 マークM:結局、最後まで俺は客だったのだ。光に欲を出してはいけない。光は……光でしかないのだから。



169 デイジー:さよなら、マーク。



170 マーク:10ドルに魅せられた俺は、彼女に渡すはずの10ドルを貯め続けた。その後も、ずっと。10ドルの光に夢をみて。



(終)