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梔子文庫

星の橋梁

2021.05.31 19:33
雨がしとしと降っている。

七夕の日って毎年のように

梅雨空が広がっているような気がする。


窓の外を見ながら、

僕は大好きだった先生が教えてくれた

フィンランドに伝わる七夕の物語を

思い出していた。


元々僕は、多くの人が幼少期に

1回は聞かされているであろう

織姫と彦星の物語が

あまり好きではなかった。


性格のねじ曲がっていた僕からしてみれば、「恋に盲目になり、遊び暮らした挙句ニートになってしまった愚かップル」

としか思えなかったのである。


そんな僕に先生はこう言った。

「フィンランドには別の七夕伝説があるよ。

大昔、仲の良い夫婦が暮らしてたけれど、

2人は死後、かけ離れた星になったんだ。

でも会いたくて毎日星屑を集めて、

1000年かけて星の橋を作ったんだよ。

だからフィンランドでは川じゃなくて

"あの世の光の橋"と言われているんだって。

無事にシリウスの星の所で会えたんだよ」


1000年かけて大切な相手に

会う為の橋を作る。

1日いくつ星屑を集めたらいいのだろう。


1年は365日だから…単純計算で…


「無理だ…」

天文学的数字に思わず

僕は声に出してしまう。


「え、急に何?どうしたの?」

カフェで向かいに座っている

大好きな人の声を合図に、

僕は無事に空想から現実へ帰ってきた。


「ううん、なんでもない。

天の川、自分でも作れるかなぁって思って。

正確には川じゃないんだけど…」


「全然何言ってるのかわからないけど、

出来ると思うよ。見守ってるから頑張って」


本気で相手にしてはいけないと

思っているのだろう。

気のない返事をしながら笑っていた。


そこに在る事が当たり前に

思えてしまう時もあるが、

やっぱり、1000年かけてもう一度

会いに行きたい僕の大好きな笑顔だ。


気の遠くなる作業だから、

手伝ってくれなくてもいい。


ずっと見てて。


待ち合わせはシリウスの星にしよう


#眠れない夜に