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Perspective's Blog

医薬品の承認審査制度:#2 新型コロナワクチンの承認審査~日本と海外の比較~

2021.08.02 01:00

こんにちは、パースペクティブの多田です。

今回は、前回の続きとして、新型コロナワクチンの承認審査について、日本と海外の状況を比較していきます。


各国における新型コロナワクチン(ファイザー社製)に対する承認状況

以下は、ファイザー社製新型コロナワクチンに対して、各国で最初に与えられた承認*に関して、対象となった審査制度や申請・承認の時期を比較したものです。(各種ニュースより筆者まとめ)

*各国において、最初の承認時には接種対象年齢を16歳以上としていましたが、その後追加の承認で、12~15歳まで対象を拡大しています。以下の表では、初回の承認申請時を基準として比較しています。

ファイザー社製のコロナワクチンを世界で初めて承認したのはイギリスです。イギリスでは申請からわずか2日での承認になりました。USやEUにおいても、申請から20日程度での承認と、迅速に行われました。これらの国/地域では、このわずかな期間で全ての審査を行ったということではなく、「ローリング・レビュー」と呼ばれる審査プロセスにより、申請前の臨床試験の段階からデータの提供を受け、逐次審査を行うことにより、申請から承認までの期間を大幅に短縮しました。

アジアで初めて承認したのはシンガポールです。シンガポールでは欧米と同じく、2020年末にはワクチンの緊急使用を承認しています。


日本が承認までに時間を要した理由

このように、世界に先駆けて承認した国・地域におけるスピード感と、日本で承認するまでのスピード感に差が出た理由について、承認審査制度の観点から見ていきます。

前回の記事の通り、日本では「特例承認」により、新型コロナワクチンが承認されました。特例承認は、海外で使用されている実績も考慮し、承認申請資料のうち臨床試験以外のものを承認後の提出としても良い等として、特例的な承認をする制度です。しかし、現在の日本の制度上、特例承認においても、日本人の治験データが必要となります。

ファイザー社の新型コロナワクチンの国際共同治験は約44,000人を対象に実施され、うち、アジア人も約4.5%含まれており、人種・民族で一貫して、有効性が示されていました(参考)。しかし、日本においては、日本人の治験データが必須となることから、2020年10月~2021年1月にかけて、160人という小規模な国内治験が実施されました。そして、1月末に当局に国内治験データが追加提出され、国内治験データの審査を経て、2月14日に承認に至っています。このように、より迅速に承認を行った国・地域と比較すると、日本における承認までの期間は長くなり、国民へのワクチン供給も数か月遅れることになりました。

国際共同治験でアジア人を含む結果として、有効性・安全性がきちんと確認されたと判断され、かつ、日本の承認審査の制度上、一定の条件を満たしたときに日本人の治験データ提出が免除される仕組みが整っていたとしたら、海外と足並みをそろえて承認を行うこともできたかもしれません(参考)。

こうした状況を課題と捉え、日本においても承認審査の制度上の見直しが進んでいるようです。(参考①:ワクチン、治験待たずに許可 緊急使用へ22年にも法改正)(参考②:変異株対応ワクチン、国内治験必要なし 海外での実績が条件


承認審査制度以外の観点から

もし今回、諸々の条件をクリアし、日本において、例えばイギリスのように世界に先駆けて新型コロナワクチンを承認したとしたら、日本でそれが広く受け入れられ、同じようにワクチン接種が迅速に行われていたでしょうか。

日本では欧米ほどは感染が拡大していなかったこと(これが欧米のような感染者数・死者数だった場合は、考え方が変わる可能性は高いと思います)や、過去のワクチン接種に関する健康被害への批判などによりワクチン忌避の考え方が根強くあることから、ワクチン接種に対して慎重な考えになりやすいと思われます。

そして、そうした考え方が、結果的にこれまでの承認審査制度の方向性にも影響を与えてきたのではないでしょうか。こうした感情的な部分は、今後、承認審査制度を整えていっても変わらず、むしろ、承認審査を加速化しようとする方向性に対しては、より際立ってくるのかもしれません。

次回・次々回の記事では、今回比較対象とした国・地域のうち、アメリカとEUの新型コロナワクチンの承認審査制度について、もう少し詳しく見ていきます。


※編集履歴

・2021/10/11:アメリカの申請日、EUの審査方法を訂正