梔子文庫

横顔に映りて消えし

2021.07.07 11:50
どおん、どおん


という轟音に目が覚めた。


ほんの少し昼寝、のつもりが

すっかり眠り込んでいたようで、

明るかったはずの部屋は

濃紺のインク壺の中にいるように

すっかり暗くなっていた。


窓に近づくと、

少し遠くで花火が上がっていた。


「どうしたの…?」


隣で寝ていた君も目を覚ます。


「今日、花火大会だったみたい」


「え!ほんと?ここから見える?」


「うん、少し遠いけど」


僕たちは並んで花火を見た。


「やったー!今年初花火だね」


無邪気に笑う横顔に、

不規則な光が映っては消える。


この打ち上げ花火が終わっても、

ちりちりと僕の想いを焦がす火種。


なんでもない日、君と並んで

真夏の夜の空気を纏っている。


起きたあとのほうが、幸せな夢だ。