二兎ゲットカバオ
昼だ。腹が減った。
飯を食おう。
孤独のナニガシ並みに自分でナレーションを入れ、席を立つ。
本当に孤独のカバオは只今中華の気分だ。
のっしのっし歩き、頻繁に通っている馴染みの店に入る。
そこには入り口で客を待ち、お会計を司るおばあちゃまが1人。
曰く、どうやら満席とのことだ。
無理もない、店自体は広くはなく隠れ家的オサレ雰囲気グンバツなのだ。
味も素晴らしいのであっという間に埋まってしまう。
仕方ない、外も暑いし待っていよう。
携帯で取るに足らない情報ばかりを得ていると、時間が過ぎるのは早い。
一体どれほどの時間を、僕たちはそれにこれから費やすのか。
5分ほど過ぎたろうか。40代位のお姉さん店員が人懐っこい笑顔で近づいてくる。
「どっちか入れます?」
右手にはアイスコーヒー。
アイスコーヒー?
アイスコーヒー!
アイスコーヒーを受け取った。
ブラック派なので、左手に持っていたミルクもシュガーもお断りした。
「あら、大人じゃない〜」
からかわれたのか、和ませてくれたのか、自然と笑顔になるカバオ。
これはサービスだと言う。
なんと嬉しいお心遣い。
ストローでチュウチュウ吸う。うん、冷たいし美味い。
ありがたい、ありがたすぎる。
元々お気に入りのお店だったが、明日も行こうと既に決める。
またしばらく待っていると、さすがに食べ終わった客も出てくる。
席に通されてメニューを聞かれる。
それじゃあ…Aランチで。
「かしこまりました。待たせちゃってごめんなさいねぇ。」
いや全く気にしていない、
どころかむしろありがとう。
感謝します。まだ飲み切ってないアイスコーヒーを楽しみながら待とうではないか。
頼んだものはすぐに来た。
「こちらサービスです。」
ん?
Bランチのおかずである青椒肉絲が、私のテーブルで仁王立ちしている。
おや?
私が頼み遊ばせた、Aランチの生姜焼きも威風堂々鎮座している。
嬉しい悲鳴だが、テーブルの上で料理達がひしめき合っている。
他のテーブルと比べると、豪勢で豪華だ。
なんという心遣い、なんというおもてなし、なんて粋なことを。
客を待たせただけでこんなリカバリー、見習いたい。
…うん、やはりどちらも旨い。
心もお腹も大満足だ。
生きのさばる全ての人間がこうなれば争いはグッと減るだろう。
「満席なんでごめんなさい」
大体のお店はこれだけ言われる。
もちろん問題無いし、仕方ないし、その対応で合っている。
それプラス、アイスコーヒーに青椒肉絲を躊躇いなく提供することの凄さ。
もはや恐ろしい。
私もこの店の様な男になりたい。そう強く感じざるを得ない。
今度何かに遅刻した際は、一発ギャグとモノマネを披露してリカバリーしよう。
カバオでした。