おまけ~小鉄の場合(「始まりの日」番外#3)
「合コン?」
夕飯の仕度をしながら狭霧からその件について切り出された小鉄は食器棚から二人分の皿を取り出しながら答えた。
「興味はないが・・・何でそんなことを言いだすんだ?」
鍋の火加減を見ていた狭霧はお玉を持ったまま振り返って言った。
「何でって、大学生になりゃそーゆー機会も増えるだろ。第一、雪也なんか行きたがるんじゃねーのか?」
「上様のご命令とあらば、勿論どこであろうとお供はするが・・・」
小鉄はちゃぶ台の上に皿を並べ終えると立ち上がり、狭霧のほうをまっすぐに見て言った。
「だが、俺自身については、そんな場所へ行っても時間の無駄になるだけだ。こっちにはその気がないのだから相手の女性たちにも悪いだろう」
「でも、ホラ、その場で可愛い女の子に出会って、俺のことのほうが気の迷いだと気が付く可能性も考えられるだろ」
「それは断じてないな」
即座にきっぱりと言い切られ、狭霧はかえって反発したくなった。
「そんなの分かんないだろ。実際に行ってみなけりゃ・・・」
「いや、分かっている」
迷いなく断言すると小鉄は狭霧の眼をじっと見つめて同じ否定をもう一度繰り返した。
「それはないんだ」
「そっ・・・」
何かに焦がれる者の熱っぽさを秘めた優しい眼で見つめられて狭霧は言葉に詰まった。それ以上何も言えなくなり、狭霧は鍋の様子を慌てて見る振りをして小鉄に背を向けた。その後ろから覗きこむようにして小鉄が聞いた。
「俺が合コンに行ったほうがいいのか?」
「い、いいよ。何もムリに行けとは・・・」
狭霧は鍋の中身をお玉でやたらかき回しながら答えた。後ろ向きになっているため小鉄の顔は見えなかったが、狭霧には自分の返事を聞いた小鉄がどんな表情をしているか分かった。
きっと、今、蕩けそうなくらいに嬉しそうな顔をしている。
― 結局、こいつのこーゆーとこに負けんだよなあ・・・
抵抗感がない訳じゃない。不本意だとも思ってる。だけど、どうしても拒めない。
そのことで、ずっと自分でも自分を訝しく思っていた。その理由が少しだけ分かった気がする狭霧だった。