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梅毒とは

2018.07.10 03:09

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/na/je/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html 【梅毒とは】より

疫学

梅毒は世界中に広く分布している疾患である。1943 年にマホニーらがペニシリンによる治療に成功して以来、本薬の汎用によって発生は激減したが、その後、各国で幾度かの再流行が見られている。1960 年代半ばには日本も含め、世界的な再流行が見られた。日本で梅毒は花柳病予防法(1928年)、性病予防法(1948年)で対象疾患とされ、1999年からはいわゆる感染症法のもと症例が報告されている。最近では、日本では1987年(報告数 2928)をピークとする流行が見られたが、その後再び報告が減少してきた。感染症法による感染症発生動向調査によると、1999~2012年は500例−900例で推移してきたが(2003年509例−2012年875例)、2013年は1200例を超え、前年の1.4倍に増加した。先天梅毒は年間1例(2010)-12例 (2006)の報告があった。

病原体

病原体は梅毒トレポネ−マ(学名:Treponema pallidum subsp. pallidum)で、直径0.1~0.2 μ、長さ6~20 μの屈曲した6~14施転の螺旋状菌である(図1)。通常の明視野光学顕微鏡では視認できず、暗視野顕微鏡で観察される。青い色彩を放つことからpallidum(英語のpale)の種名が与えられている。

fig1

図1.梅毒トレポネーマの電子顕微鏡像(ネガティブ染色)

現在、試験管内の培養は不可能で、ウサギの睾丸内で培養する以外に現実的方法はない。1998 年に全ゲノムのDNA 配列が決定、公開されたが、培養の困難さから病原性の機構は殆ど解明されていない。

本菌は低酸素状態でしか長く生存できないため、感染経路は限定される。大部分は、菌を排出している感染者(後述の第 I 期、第 II 期の患者)との粘膜の接触を伴う性行為や疑似性行為によるものである。極めてまれには、傷のある手指が多量の排出菌に汚染された物品に接触して伝播されたとする報告もある。輸血による感染は劇的に減少し、近年では輸血用血液製剤を原因とする症例の報告はない。これは保存血中での本菌の生存期間についての研究が行われ、血液のスクリーニングが進んだ結果である。しかし、第 I 潜伏期感染者では臨床症状はなく、血清反応も陰性であり、新鮮血を用いた緊急輸血などがそれらのドナーから行われる場合には、感染の可能性はある。これら以外に、感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染する経路があり、先天梅毒の原因となる。

臨床症状

感染後3~6週間程度の潜伏期を経て、経時的に様々な臨床症状が逐次出現する。その間症状が軽快する時期があり治療開始が遅れることにつながる。

早期顕症梅毒 第 I 期 ; [感染部位の病変]感染後約3週間後に梅毒トレポネーマが進入した局所に、初期硬結、硬性下疳(潰瘍)が形成される。無痛性の所属リンパ節腫脹を伴うことがある。無治療でも数週間で軽快する。

早期顕症梅毒 第 II 期梅毒 ; [血行性に全身に移行]第 I 期梅毒の症状が一旦消失したのち4〜10週間の潜伏期を経て、手掌・足底を含む全身に多彩な皮疹、粘膜疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛等が出現する。発熱、倦怠感等の全身症状に加え、泌尿器系、中枢神経系、筋骨格系の多彩な症状を呈することがある。第 I 期梅毒と同様、数週間〜数ヶ月で無治療でも症状は軽快する。早期顕症梅毒症例で髄膜炎や眼症状などの脳神経症状を示すものは、早期神経梅毒と呼び晩期梅毒の神経梅毒とは区別する。

潜伏梅毒 ; 梅毒血清反応陽性で顕性症状が認めらないものをさす。第 I 期と第 II 期の間、第 II 期の症状消失後の状態を主にさす。第 II 期梅毒の症状が消失後、再度第 II 期梅毒症状を示すことがあるが、これは感染成立後1年以内に起こることから、この時期の潜伏梅毒を早期潜伏梅毒と呼ぶ。これに対応して、感染成立後1年以上たつ血清梅毒反応陽性で無症状の状態を後期潜伏梅毒と呼ぶ。

晩期顕症梅毒 ; 無治療の場合、約1/3で晩期症状が起こってくる。長い(数年〜数十年)の後期潜伏梅毒の経過から、長い非特異的肉芽腫様病変(ゴム腫)、進行性の大動脈拡張を主体とする心血管梅毒、進行麻痺、脊髄癆等に代表される神経梅毒に進展する。

先天梅毒 ; 梅毒に罹患している母体から胎盤を通じて胎児に伝播される多臓器感染症である。

早期先天梅毒の発症年齢は、生下時~生後3カ月。出生時は無症状で身体所見は正常な児が約2/3とされる。生後まもなく水疱性発疹、斑状発疹,丘疹状の皮膚病変に加え、鼻閉、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、などの症状が認められる。

晩期先天梅毒では、乳幼児期は症状を示さずに経過し、学童期以後にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などの症状を呈する。

病原診断

1.病原体検出

病原体検出は感染症の確定診断の基本であるが、梅毒トレポネーマの検査室での分離は不可能である。そこで顕微鏡観察によりらせん状菌の検出が行なわれてきた。しかし、第 I 期と皮膚病変のある第 II 期の場合を除き、菌の検出は困難である。第 I 期に関しては、症状が現れても血清反応の陽性化まで1週間程度の期間があるので、下疳などの病巣部から病原体検出を積極的に試みる必要がある。病変部の浸出漿液を暗視野顕微鏡あるいはパーカーインキで染色して顕微鏡観察し、らせん状菌を検出する。しかしながら、現在では実施が難しくなっており、PCR法等の核酸診断の利用が期待されている。

2.血清学的診断

血清抗体は感染後、初めにカルジオリピンに対する抗体価(非トレポネーマ抗原による検査:VDRL、RPR、自動化法)が上昇し、次いでトレポネーマに対する特異的抗体価(トレポネーマ抗原による検査:FTA-ABS、TPHA)が上昇する。抗カルジオリピン抗体価は治療に反応して下降するため、治療効果の判定にも利用される。しかし、特異的抗原ではないため、生物学的偽陽性反応がありうる。一方、抗トレポネーマ抗体測定の特異性は高いが、治療後も抗体価は漸減するものの継続的に陽性となるため、過去の梅毒感染との区別がつきにくい。つまり、抗カルジオリピン抗体価陽性には潜伏梅毒あるいは梅毒既往の可能性を示す。梅毒症状が認められない場合には、抗トレポネーマ抗体の上昇に加えて、抗カルジオリピン抗体価の上昇(通常16倍または16RU)が確認することが重要である。

予防・治療

海外ではペニシリンGの筋注単回投与が一般的であるが、国内ではペニシリンGの筋注は使用出来ない。日本では、経口合成ペニシリン剤(アモキシシリンなど)を長期間(第 I 期で2-4週間、第 II 期で4~8週間)投与することが推奨されている(日本性感染症学会 性感染症 診断・治療 ガイドライン2011)。神経梅毒の場合にはベンジルペニシリンカリウム(1日1200~2400万単位)を点滴静注で10~14日間、もしくはセフトリアキソン(1日1g)を点滴静注で14日間治療する。ペニシリンアレルギーがある場合には塩酸ミノサイクリンまたはドキシサイクリンを使用する。妊婦に対しても基本的には同様に行うが、胎児への副作用のために塩酸ミノサイクリンは使用せずアセチルスピラマイシンを使用する。妊婦にペニシリン治療を行った場合、新生児は同時に治療できたと考えてもよいが、エリスロマイシンを使用した場合には、本薬は胎盤を通過できないので、新生児は出産後改めて治療する必要がある。米国CDCのガイドラインではセフトリアキソンの筋注、アジスロマイシンの内服治療についても述べられている。ペニシリン剤に対する耐性菌は存在しないが、近年ではアジスロマイシン耐性の梅毒トレポネーマの出現の報告がある。

治療効果の判定には、抗カルジオリピン抗体価の減少と臨床所見を経時的に追跡する。効果判定の時期は病期によるが、例えば早期顕性梅毒では3~6カ月後に抗カルジオリピン抗体価の減少(治療開始前の値の1/4以下に低下)を確認する。

予防としては、感染者、特に感染力の強い第 I 期及び第 II 期の感染者との性行為や疑似性行為を避けることが基本である。コンドームの使用は完全でないものの予防効果があることが示唆されている。

感染症法における取り扱い

全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。

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