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川口ヱリサ オフィシャルサイト

エジプト〜カイロ編 14【マスタークラスの子供たち~未来への希望を 1】

2021.07.11 13:14

カイロでのコンサートを無事に済ませた翌日には、カイロ・コンセルヴァトワールでのマスタークラスの講師として招かれていました。

この時も日時がしっかり決まるまで、すったもんだ(どこに理由があるのか、なぜすったもんだしないといけないのかさえ解らない)したのですが、何しろ情報も全く入って来ない~何人の生徒が受講するのか、曲目は何なのかも知らせて貰えず、当日は11時から13時までの2時間枠でお願いします~これだけです。


大変ごちゃごちゃした下町の一角にあるコンセルヴァトワールの入口を見つけるのもやっとで、付き添いで一緒に来て下さったベルギー大使館のP氏とギタリストのイーヴ、我々はたいそう厳しいセキュリティチェックを受けてようやく入館しました、、やれやれ。。


マスタークラスの場所はホールというよりは100人ぐらいは入れそうな大リハーサル室といった雰囲気の部屋でした。

その最前列に10人以上の様々な年齢の子供たち(多分8歳から16歳ぐらい)ブルーや白のポロシャツを着てちんまりと大人しく座って待っているのです。

楽器を既にケースから出し、右手に弓、左手にヴァイオリンを膝に立てるようにして…。

子供たちの目が私を追いかけ見つめているのを感じます。

思わず『Oh my god ! あちゃ~、どうやって二時間の枠の中でよく数えると13人いる子供たち相手ににマスタークラスをしろって言うのよ!!』

そして初老のほっそりとした男性が近づいて来て、「私はこの音楽学校のヴァイオリン教師です、私が通訳しますのでよろしくお願いします。」と英語で話しかけました。


通常のマスタークラスの常識は、プロを目指す学生対象であれば、一人の生徒さんに1時間、少なくとも45分はかけます。

ですがこのコンセルヴァトワールのシステムはベルギーでも一般的な音楽学校のあり方のようだと直ぐに分かりました。

即ち、毎日の義務教育が終わった後に好きな習い事が出来る(アマチュアがほとんどですが、中でも才能のある子はプロを養成する音楽大学に進める~ベルギーではアカデミーと称しています。)国の学校システムで日本にはありません。

私立の≪ヤマハの音楽教室≫のような学校を国が行っているのです。


それでこの時のマスタークラスの状況では、選ばれた2, 3人の子供に集中して、あとの子供たちにはただ聞かせるだけというのは余り意味がない、と感じました。

年齢もまちまちだし、一人一人のレヴェルも分からないので、先ずはそのヴァイオリンの先生に一人誰か選んで少し聴かせて貰えるようにお願いしました。

彼はすぐさま一人の少女を呼びました。

グループの中で一番年かさの16歳だという事でした。

先生は「彼女は私のクラスで最も優秀な生徒で誇りに思っているのですよ」と本当に嬉しそうに紹介して下さいました。


曲目を言う暇もなく彼女が弾き始めたのは、何とチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトの第一楽章でした。

流麗な提示部から、ヴァイオリニストを目指す者なら誰もが一度は憧れる甘美なテーマ、そしてバレエのシーンを思わせる躍動感あるパート、蜜のようにとろりと歌う部分から難解な超絶技巧を駆使するパートへと、彼女は楽々としかもしっとりとした情感を込めて弾いていく~その音と姿には本当に心を打たれました。


彼女に集中して更なるアドヴァイスを与え曲のもっと細かい部分までレッスンする事は可能でしたし、したいのもやまやまでしたが、そうすると待っている他の子供たちはどうなるでしょう。

聴講生に徹するつもりがないのは、楽器を持っていつでも弾けるように準備している様子を見ても解ります。


そこで先生に提案してみました。

「せっかくですから、全員聴いて、それぞれにワンポイントアドバイスをという形でレッスンしたいのですが。。。」


先生が説明すると、皆自分の音を聴いてもらいたくて仕方がなかった様で、喜び勇んでわらわらと私の周りに駆け寄って来ました。

先生が適当に名前を呼んで弾かせるのですが、最初のうちは年も上でベートーヴェンやヴィエニアフスキーの一番などそうそうたるコンチェルトが続きましたが、少しずつ年齢層が下がっていくと曲の種類もさまざまになってきます。


ある少女は弾き終わって先生にこそこそと耳打ちしています。

「彼女は練習不足で思うように弾けなかったから、これから一生懸命に練習するから数日後にもう一度聴いてもらえないか、と言っています。。」

私は「ゴメンね、その頃にはもうエジプトを離れていないといけないのよ。」

この少女は別れるときギュッと抱きついてきました。


一人だけヴィオラを持っていた男の子がいました。

「あなたはきっとヴィオラの音が大好きなのね」と言うと、うんうん、と得意そうに頷いていました。


又私も一緒に全員でA弦を使っての腕を動かす練習をしたり、特に姿勢について言及しました。

ヴァイオリンという楽器を弾くためには常に両腕を挙げた状態を保たないといけないし、顔の左側に楽器が来るので身体の左右のバランスが悪くなりねじれてき易いので、まずは立ち方や楽器の保ち方を如何に自然に行うか、に重きを置いてアドヴァイスをするようにしてみました。