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梔子文庫

ジェリージェリー

2021.07.13 08:36
くらげになったような気分だった。


旅先の旅館で

少しも寝付けなくなってしまった僕は、

ふわりふわりと海中を漂うような感覚を感じながら

隣の君に声をかけてみる。


「寝た?」


まるで、修学旅行の夜のような質問だ。


「ううん、まだ」


残念ながら、お喋りは期待できそうにない

まもなく眠ってしまいそうな声が返ってきた。


結局、僕は夜明けまで

浅い眠りに揺蕩ってみたりしながら

海の中のような青い闇が満ちている部屋で

一人で起きていた。


楽しかった旅行がもうすぐ終わり、

それぞれの日常に戻るのだと思うと

この部屋の畳や掛け軸、テーブルが

途端によそよそしく感じる。


一緒にいたい、でも一緒にいたくない ー

時間が長いほど「またね」が寂しいから。

そんな物おもいが頭の中を占拠した。


寝ている君を起こさないように、

そっと手の甲で頬を撫でてみた。


水面に映る満月を

まるごと飲み込んでしまったような

きらきらした笑顔を思い出した。


この先も「またね」と言い合うたびに

大なり小なり胸が軋むだろう。


でも、その寂しさも含めて

僕の宝物のような時間なのだ。


「今日も楽しかったね」、

「歩き過ぎて疲れたね」

「あそこのお店美味しかったね」

「また行こうね」・・・


何気なく使っているけれど、

決して一人では言うことのない、「…ね」。


大切な大切な、僕の「ね」の行き先。