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meu jewelry〜2022.1.

本の話(マンガ編)

2021.07.17 15:17

いつもウパラペトラの記事を読んでくださる皆様、誠に有難うございます

先日作者が普段興味のあることも読みたいとのご要望があり、不定期に少しずつ制作以外のことも書いていこうと思います

美術館や旅行のことなどは今までも書いてましたが、行けなくなって約2年...

積極的に何かのテーマについて書くことはなかったので、制作の合間に徐々に公開していこうと思います

ウパラペトラには直接関係ないのですが、発想のキッカケ、世界観の構想などに影響を受けているだろうと思います


ここ2年ほどで読んで印象に残った作品をつらつら書きました(作者自身の感想と体験のみ、極力ネタバレしません)

絵本・画集編、小説編も書きます(たぶん)


お暇があればどうぞ...

(長文です)

阿・吽(全13巻)

おかざき真里,阿吽社 小学館

最澄と空海の二人の天才を軸に、密教という宇宙と人間の業を独自の世界観と繊細な描写で紡いだ作品です

二人がそれぞれ旅の中で人に出会い、様々な修行を経て、自らの信仰を確立していく過程が独特の世界観で表現された力作です

作画がとにかく美しく、どこを切り取っても絵画のタブローを観るような感覚になります

まるで美しく染め上げられた辻が花のような作品です


エリア51(全15巻)

久正人 新潮社

ギリシャ神話、エジプト神話、日本書紀、北欧神話の神々、UMA、宇宙人、妖怪等を集めて隔離したアメリカ51番目の州・エリア51


そこで人間でありながら、探偵業を営む主人公・真鯉徳子(マッコイ)と相棒で河童のキシローとマッコイの銃で付喪神のコルトM1911(パイク)の元に舞い込む事件の数々を描いた作品


アメコミのようなコントラスト強め、効果的なディフォルメの作画と多数のオリジナルキャラクター、全体の疾走感が唯一無二の世界観を確立しています

見栄をきる歌舞伎役者のような、昔の映画のポスターのようなスタイリッシュなシーンが次々と展開していき、気がついたら読み切っていました

ガンアクション満載な内容ですが、切なさや儚さも感じる大人のダークファンタジーとも言うべき作品です

最後のシーンが特に詩情があって印象的です


CLAYMORE(全27巻)

八木教広 集英社

人が妖魔に喰われる存在であった世界で、妖魔と戦うために組織された「クレイモア」と呼ばれる少女たちの死闘を描いた物語


戦いの中で善と悪、生と死が複雑に絡み合い、境界線が曖昧になっていきます

激しいバトルアクションシーンも盛り込まれているのに、全体的にはどこか寒々しい空気が漂い、戦の虚しさを感じさせます

古い図書館で壮大な歴史絵巻を読んだかのような感覚になります

物語の結末が特に秀逸です


進撃の巨人や約束のネバーランドなどのバトルアクション漫画がお好きな方も、ネバーエンディングストーリーやバンズラビリンス、ダーククリスタルなどのファンタジー映画がお好きな方も楽しめると思います


レディ&オールドマン(全8巻)

オノ・ナツメ 集英社

1963年-ロサンジェルス郊外にあるダイナーの娘・シェリーは、100年の刑期を終えた老人(見た目は2〜30代に見える男性)と出会う

好奇心旺盛なシェリーと過去の記憶を無くしたオールドマンは事件に巻き込まれながら、街から街を渡り歩いていく

ACCA13区監察課、さらいや五葉、ふたがしらなど話題作を手掛ける作者さまの洋物ガンアクション作品


作画、特に構図がお洒落

引き伸ばしてカフェに掛けても見ごたえがありそうなシーンが満載

街や荒野の風景表現もそのままテキスタイルになりそうなデザインの数々

人物の描き分け、キャラクターがそれぞれ魅力的で、その世界で確かに息をしていることを感じさせます

スタイリッシュなロードムービーを想起する作品です


イノサン(全9巻)

坂本眞一 集英社

フランス革命の時代に実在した処刑人一族、サンソン家の数奇な運命を美しい作画と独特の比喩で表現した歴史漫画


とにかく圧倒的な描写力に驚愕!!

本作は、国王ルイ十六世の斬首刑の指揮を執った死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンを主人公に、処刑や解剖などから当時の社会情勢や風俗、人々の暮らしが写実的で緻密に描写され、独特の比喩表現によって当時のフランスの空気がリアルに迫ってきます

ベルサイユに突然津波が襲ってきたり、マリーアントワネットの日常をTwitterで表現したり、比喩表現に選ばれるモチーフの選択が絶妙です

シャルルとは対照的な性格の妹・マリーが主軸のイノサンRouge(全12巻)も素敵です


向ヒ兎堂日記(全8巻)

鷹野久 新潮社

明治を舞台に幼い頃から妖が見える古書(妖書)店主と店に集まる妖たちの交流を描く物語


登場する妖たちのデザインがどれも可愛く、全体に丹念に描かれた紙芝居のような軽やかな筆致が特徴です

各話の内容は可愛いものから重いもの、切ないものまで多彩です

巻が進むと店主が大きな事件に巻き込まれていき、なぜ店主に妖が見えるようになったのか、その過去が明らかになっていきます

妖怪がお好きな方、謎解きがお好きな方に特にオススメ


燐寸少女(全6巻)

鈴木小波 KADOKAWA/角川書店

モチーフは文字通りマッチ売りの少女ですが、内容は完全なオリジナル作品です


マッチを擦ると願いが叶うところは同じですが、過度な願いは代償も伴います

可愛い作画に反し、ダークで寓話的なエピソードの数々

グリム童話やイソップなどのように、決してハッピーエンドばかりではなく、人間の残酷な面を覗くような話も描かれます

燐寸少女・リンのキャラクターが可愛くて、ゴシックロリータ服のバリエーションも見どころです


フランスはとにっき(全3巻)

藤田里奈 徳間書店

作者さまがまだマンガ家として独立される前に、思い立ってフランスに行こうと決意し、実際に1年間滞在された経験をエッセイテイストで描かれた体験記


私自身が大学生のときにあるキッカケでフランスとドイツにそれぞれ1週間ずつ、ただ美術館と博物館を回りつくす、ジリ貧旅行をしました

当時の冷や汗をかいた自身の思い出を苦々しく思い出しながら、爆笑しながら読みました

作者さまの行動力と引きの強さ(?)が強めのスパイスとして効いているテンポの良いエッセイの様な楽しくアグレッシブな作品です

疲れ気味の方、ただ笑いたい方にオススメ


かくかくしかじか

東村アキコ 集英社

ある少女が美術の道を志し、最初に出会った恩師との交流を描いた作品

10代の自分を真っ直ぐに見つめ直し、当時の後悔、葛藤に真摯に向き合い、美大受験の体験を元に創作された作品


私自身、美大受験が終わって○○年経ちますが、あの時辛かった日々があったからこそ、現在も創作が出来ていることを改めて思い返せた作品です

自身の恩師を偲びながら読みました

飾らないストレートな表現に心の古傷が疼き、涙目にもなりましたが、読後は爽やかな気持ちになります


東京藝大受験ものがたり

あららぎ菜名 飛鳥新社

2日で1枚を描き上げる毎日の訓練、どこまでやっても手応えのない石膏デッサン、観れば観るほど難しくなる静物、塾独特の人間関係...

藝大の極寒の教室で静かに鉛筆の音だけが響くあの感じ...

作者さまが実際に体験されたリアルな美大受験を、洒脱な筆致と構成でマンガにすることに挑んだ意欲作


本書は作者様が真摯に藝大に挑み続け、目標を達成するまでの闘いの記録です

実際の美大受験の内容をこれほどつぶさに伝えている作品は初めてでした

平成の時代に火鉢に当たりながら、2日中描き続け、叶わなかったあの当時を生々しく思い出しました

綺麗事では済まない実際の日本の美大受験と、それに臨む若い芸術家の卵たちが厳しくも優しい目線で描かれ、自分事としてじっくり読みました

陶芸家のお父様の言動も芸術家あるある

淡々と、そして実感が滲むエピソードたちがテンポよく配置・脚色され、ドキュメンタリーとしても創作としても楽しめる傑作です


最後の2作品は美大に限らず、何かを目指して受験に臨んでいる方、またはご家族に受験を控えている方は、特に読まれると良いかと思います

美大受験という特殊な世界を体験した作者様方がそれぞれに赤裸々に実感を持って表現され、厳しい場面も読み進めてしまう吸引力があります

読み味は決して楽しいだけではありません

けれど内容を噛み締めると、少しだけ自分を客観的に見られるようになるかもしれません

良い時も悪い時も全て何かに成る為に必要な経験であるという実感がこもっており、苦い良薬のように効いてきます

10代のころに出会いたかった作品たちです

(順不同・敬称略)

こう見るとSF多いですね...どれだけ現実逃避したかったかが分かります

こうした逃避するためのエンターテイメントも人間にはとても必要だと実感しています


作者自身の生活はコロナ前から自粛しているようなものでしたが、自ら籠るのと否応なく蟄居させられるのでは全く異なり、それなりにストレスを感じたり、生活リズムが狂ったり、制作スピードが落ちたりと色々と影響はあります


そんな禍中でも表現し書籍として届けてくださる作家様方と出版関係、流通関係の方々に感謝し、これからも読みつづけていきたいと思います


ここまで取り留めのない拙筆を読んでくださり、ありがとうございました


次回、本の話(絵本・画集編)につづく...のか?!