『香里園の家』HECP-ホームエレクトロニクス・カフェ
3坪のミニマルハウス、ミニマルカフェ
ショークが最後の形象に選んだのは、今までの「家」とは全く異なる。高層ペントハウスや昭和初期の茶室、農園風景の古民家、復興のバラックでもない、何もない小さな「小屋」である。彼はここをバウヒュッテと呼んでいる。なぜここが彼にとって最高の住宅になり得たのだろうか。
小さな休暇小屋『バウヒュッテ』は、ショークの若き恋人の誕生日プレゼントとして建てられた。芸術家ショークの、最小にして最高の住処は、僅かに366x366x266(cm)、6畳一間の小屋である。外壁にはこげ茶色に塗った足場板が貼付けられ、内壁は合板、屋根は石綿スレートの大波板という質素な造り。家具はショークのダブルイマージュの世界観の、奇異な家電とロボットの融合によるインテリアオブジェで構成されている。今までのショークの「家」であった、高層ペントハウスや昭和初期の茶室、農園風景の古民家でもない、何もない小さな「小屋」である。彼はここをバウヒュッテと呼んでいる。なぜここが彼にとって最高の住宅になり得たのだろうか。
何もないとは言ったものの、一つだけ、この小屋をショークの作品足らしめているものがある。世界的建築家ル・コルビュジェの生み出した『モデュロール』という、人体の寸法に基づく数列である。178cmの男性が立って片手を上げた高さを黄金比で割り込んでいき、その寸法を設計に適用するのだ。
バウヒュッテはこのモデュロールを用い、綿密な計算の上設計されている。削ぎ落とせるものは全て削ぎ落とし、わざわざ家具を固定したのもモデュロールに対する自信の現れであると言える。圧迫感や閉塞感なしに快適な狭小空間を作り出すことは人間の身体のみならず、行動や思考、本能といったところまで掘り下げた、非常に高度な空間設計能力である。そしてこの小屋を目の前にして思う事、それは人間の本質はこれほどまでシンプルであるかという事だ。一見単純にも見えるこの小屋はショークだからこそ造り得た、まさに彼の代表作の一つとも言える作品なのだ。
バウヒュッテは六十歳を期に全てを捨てて生まれ変わったショークにとって、過去の社会的な地位や贅沢な生活では得られない安息を得ることができる場所だったのである。香里園の高台の程よい自然と文化の融合は、日常生活における極上の空間だったのだろう。本当に必要な物なんて、この小さな小屋を一杯にするほどもありはしない。「生活の簡素さ」ーつまり、「家」のあり方をインスタレーションという芸術を通して活動し続けてきた、ショークにとって「家」は日用品(コモディティ)であるという、ようやく問題の核心に辿り着くことが出来たのである。