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地域づくりファシリテーション研究所

第11話 ファシリテーション自分史 その2

2021.07.14 23:00

プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)。

これが僕にとってファシリテーションと出会うきっかけでした。

PCM研修を僕が受講したときのことを前回お話しました。

1999年12月のことです。


しかし、実はそれより半年以上前に、 PCMの効力を実感する機会がありました。

今回はそのことをお話したいと思います。


1999年4月に僕は新たな仕事に就きました。

環境分野の国際協力をおこなう公益法人の研究員という職でした。


そして、着任直後の5月から6月にかけて実施される研修の担当者になりました。

JICA(当時の名称は国際協力事業団)から委託を受けて実施する研修です。

世界各国から来る中堅の政府職員たちが対象で、テーマは「環境影響評価」。

インフラ建設など大きな事業を実施することで環境にどんな影響があるか。

それを事前に予測する調査です。

この環境影響評価の制度や手法を学ぶのが研修の目的でした。

各国から十数名が日本に来て、1か月半にわたって一緒に研修を受ける設定でした。


この研修は、それまで既に10年近くにわたり毎年実施されていました。

なので、僕が引き継いだと時点で「型」がしっかりできていました。

ただ、座学が圧倒的に多いことが僕の好みではありませんでした。

研修期間中、入れ替わり立ち代わり色々な専門家が来て講義をします。

どれも内容は素晴らしかったです。

ただ、研修員にとって受け身で講義を聞く部分の割合が多すぎるように感じました。


もちろん、間違っているということではありません。

先ほど「好み」という表現を使いました。

これはまさに主観の問題です。

僕自身が、講義を長時間じっと聞き続けるのが苦手ということも背景にありました。


ともあれ、この研修では講義を減らし、主体的な学びをかなり増やしてみました。

環境影響評価の事例として有名だった名古屋の藤前干潟を視察先に加え、

この事例を参加型ワークショップで深く分析してみる、というのが第一の試み。


第二に、研修期間の最後に各研修員が発表する「アクションプラン」の導入もしました。

それまでも、研修期間前半に「カントリーレポート」の発表というメニューはありました。

これは、各研修員が自国の環境影響評価制度を紹介するもので、

日本に来る前から課されていた宿題でした。

それに加えて、研修で学んだことを生かして今後自国でどんな取り組みをするか。

それを最後にまとめて発表するのがアクションプランです。


こうした新たな試みを採り入れるにあたり、PCMを活用することにしました。

具体的には、藤前干潟の事例を深掘りするための問題分析と、

アクションプランでの枠組み「プロジェクト・デザイン・マトリクス」が中心でした。

PCM全体を学ぶメニューも前半に入れました。


この新たな試みのために力を借りたのがファシリテーターのSさん。

Sさんは、藤前干潟の事例をPCMで分析する論文をちょうど出版したところでした。


以上の新たな試みを加えた結果、研修効果はどうなったのか?

幸いなことに、研修員や、発注元であるJICA担当者から高い評価を受けました。


トルコから来た研修員は、最終日の振り返りでこう述べました。


「職場の同僚が、この同じ研修に以前参加しました。

その同僚は、よい経験になったが、講義ばかりなのが残念だったと言っていました。

私は今回自ら受講して、以前と明らかに違うことが分かりました。

変えてくれてありがたいです。

そして、変えたことがとても有意義だったと自信を持って言えます。」


このコメントを聞いたとき、僕は思わずウルウルしてしまいそうになりました。


こういうと僕の手柄のようですが、一番の功労者はもちろんSさんです。

正直なところ、それまで私はPCMやファシリテーションの効力を理解していませんでした。

PCMはその名のとおり事業管理のための事務的な道具に過ぎないのかと思っていました。


実際には、PCM実践過程の対話や協働の効力が想像をはるかに上回るものでした。

そして、それを動かすファシリテーションの奥深さを初めて垣間見ることができました。


このとき、そして翌2000年の同じ研修でもお世話になったファシリテーターのSさん。

この人の振る舞いからも学ぶことが多くありました。 


「これはAでしょうか? あるいはBなのでしょうか?」

そのような問いを研修員から受けると、Sさんは即答しませんでした。

穏やかな笑顔でこのような感じの受け答えをするのでした。

「どうでしょうねー。」

「それは大切な問いですね。みなさんはどっちだと思いますか?」

「なるほど。そして、それに加えてCという可能性もあるでしょうかね?」


つまり、「Aです」のように断定的な即答をしないのです。

中立的であることや、幅広い考え方を促すこと。

これがファシリテータ―的な受け答えなのだろうか?

そう僕は直感的に思いました。


このように柔らかい印象を放つSさん。

でも、その奥に強い頑固さのようなものを僕は感じました。

自分の考えがあいまいなのでなく、むしろ確信があるのでしょう。

だから、ファシリテーター的な受け答えを徹頭徹尾できるのでしょう。

僕はそう感じました。


逆に、確信がないと、立場が不明確になってしまいます。

気まぐれに揺れ動くようではファシリテーションの効果も低くなりそうです。


Sさんの域には一生かかってもたどりつけない僕ですが、

Sさんが身をもって示してくれた振る舞い方は自分の心に今も焼き付いています。