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シバタリョウ個展「本の渚」に寄せて

2021.07.15 07:58


青は時間の色だ。

まだ動物たちしか目覚めていない朝の帰り道。

夕焼けがもう終わり、夜の帳が下りきるまでのほんの僅かな時間も、大きな満月の月明かりも、すべてのものが染まる青い時間。

シバタさんの描く青色が好きだったので、多分最初にそのことを伝えたのだったと思います。

本に関する絵を、と提案してくれたのはシバタさんで、そこから二人で数冊の本を選びました。

宮澤賢治、尾崎翠、オトフリート・プロイスラー、R.L.スティーヴンソン、J. R.ヒメネス。

宮澤賢治を選んだのはシバタさんでした。

宮澤賢治は青色の作家です。松浦寿輝さんが「青の奇跡」でも言及されていますが、喜びの青も、悲しみの青も、賢治の作品の中にあります。シバタさんの描く賢治の青は如何でしょうか?

尾崎翠は自分が提案したのでした。

「露の珠」はある姉妹が、夜な夜な露に月の光を当て、首飾りにするお話。

短いお話の中に美しい映像的なイメージが溢れていて、このお話のシバタさんの絵を見たいな、と思ったのです。

どのお話も夜の場面が多いのは、青のイメージが自分と、シバタさんの中にあったからでしょうか?

月夜は、黒ではなく青い色ですよね。

「クラバート」は、復活祭の夜のことをシバタくんに話して、描いてもらいました。

復活祭の夜、クラバートたちはそれぞれの打ち捨てられた十字架で夜を過ごします。近くの村ではお祭りがあり、少女たちは賛美歌を歌います。そのなかでも一際美しい声で歌う少女がいて…。

「プラテーロとわたし」「子どもの詩の園」は、詩や詩に近いもので描いて欲しいなと思い、提案しました。

シバタさんの青色が帯びている憂いの色は、「プラテーロとわたし」の中に流れている何処か寂しげな感覚と響き合っていると感じるのは、自分だけではないのではないでしょうか?

「子どもの詩の園」は今までに様々な絵本作家が挿絵を描いている子どものための詩の古典です。

楽しげな絵を描く作家が多いのですが、詩が本来持っている寂しさ(あの寂しさは何処から来るのでしょうか…?)はやはりこの詩の中にもあり、シバタさんが描いた絵にも、その音は流れていると思います。


このような時勢ですので、近日中にオンラインストアでも作品を上げる予定でございます。

ぜひシバタリョウさんの描く、詩の、物語の断片の世界を、御覧ください。