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超人ザオタル(24)平安の日々

2021.07.21 01:18

それから数日して、私の身体はかなり回復した。

温かい風呂に入り、身体も清潔になった。

いままでの粗末なものに比べれば食事は申し分ない。

心地いいベッドで眠り、その日の天気を心配することなく目覚める。


道を旅していたときには想像もできない快適な日々だ。

私はずっとこれでいいのではないかとさえ思った。

人間的な暮らしがここにある。

家の周りを散歩することもできるようになった。


あの草原の風景も違って見えた。

もうそこを歩かなくてもいいのだ。

瞑想さえしていない。

私は何のために瞑想をしていたのかさえ忘れた。


いや、私はそれを思い出そうともしなかったのだ。

思い出せば、この暮らしに別れを告げなければならない。

私ははじめて人間になった気がしていた。

そして人間であることに歓びを見出していたのだ。


この身体が健康であることの歓び。

この心が平穏であることの幸福。

過酷な旅に自分を晒すこともない。

守られている安心感がそこにはある。


アルマティとタロマティの手厚い世話がありがたかった。

見も知らぬ私をここまでもてなしてくれる。

だが、私は何の恩返しもできないだろう。

ここで私にいったい何ができるのだ。


私はただ旅をしてきただけだ。

パンを焼くこともスープをつくることもできない。

眉間にしわを寄せて、野にある葉や根をかじって生きてきたのだ。

私がいかに自分が粗野であったか思い知らされた。


いつかは私はここを離れなければならない。

いつまでもふたりに世話になっているわけにはいかないのだ。

だが、ここで人間らしい暮らしを始めるのも悪くない。

そんな想いがまったくないわけではない。


私は自分という人間が分からなくなってきた。

ミスラといるときには、旅をすること自体に疑問はなかった。

ただ、その終着地が見つからずにいただけだ。

もしかすると、ここが本当の終着地なのかもしれない。


そんなわけがないことは知っていた。

私はまだ旅が終わったとは感じていなかった。

これはその途中であることは明らかなのだ。

ただ、私の道へのあの熱意は砂漠の砂のように乾いてしまった。


それを呼び起こさなくてはならなかった。

だが、私はそれを怠っていたのだ。

怠っていることも知っていた。

それでも、私はそれを放置し続けた。


もはや、またあの過酷さに身を置くことに抵抗があった。

それにはもう少し準備する必要がある。

そう自分に言って納得させていた。

そうして時が無為に過ぎていくことさえ、気にならなくなっていた。