まるで青春時代の延長のような。 ふたりの若き写真家が語ったリアル
池野詩織とmarimoという20代の写真家。
スケーターやユースカルチャーに少しでも興味のある者であれば、それぞれの名を一度は聞いたことがあるかもしれない。今回そのふたりが昨年末に開催した『SPICY PROOF』と題された合同の作品展に足を運んでみた。既にふたりとは仕事などを通じて面識があり、個人的にもとても気になっていた写真家でもあった。出自も性別も異なる写真家が、どのように邂逅し、今回のフォトエキシビジョンを催すことになったのか。その経緯からふたりが表現したかった想いについて訊いてみた。
意外と近いところに
居たんだなって分かった
今回の合同展の話を聞いた際に、まず感じた意外性。共通する背景やカルチャー、なにをきっかけに出会ったのか。そんな経緯から訊いてみることにした。
marimo 僕は詩織ちゃんのことは、少し前から知っていたんです。スケートブランド・〈EVISEN〉のデッキで、まず写真家の松藤美里ちゃんを知って、その流れで詩織ちゃんのことも知ることになったんですけど、後になって意外と近いところに居たんだなって分かったんです。
詩織 でもお互いの写真をしっかりと認識していたというわけではなかったんですよね。きちんとした出会いは、2016年の5月くらい。お互いの共通の知人でもあった、〈EVISEN〉のアートワークなども手掛けるシール職人・AKIOCHAMが、私の展示でバルーンの催しをしてくれて、その時にmarimoくんと、〈EVISEN〉のアシスタントデザイナー・古川くんが遊びに来てくれたのがきっかけでしたね。
そのときにmarimoくんが、自分の写真集『BETWEEN YOU AND ME』を持ってきてくれて、私の写真集と交換したんです。それを家に帰ってからゆっくりと見てたんですけど、いいなって心底思えたんです。もちろん私もmarimoくんのことはAKIOCHAMから聞いていたりしていたので知っていたんです。写真集を出したことも知ってて、展示も行けたら行こうと思っていたし。行けなかったのがすごく残念だったけど。
それからその展示の後に、マリモくんがわざわざ感想を書いたメッセージをくれたんです。それがすごくうれしくて。いつもならそれで終わることも少なくなかったんですけど、この時はなにか一緒にやってみたいと思ってすぐに私から声をかけたんです。それから大阪の新世界にある「VOYAGE KIDS」というギャラリーのオーナーの人と私が知り合いで、そこがオープンしたばかりだったので良いタイミングだなとも思って、今回大阪と東京で開催しようと思ったんです。
marimo 僕ももともと「VOYAGE KIDS」で展示をやりたいなと思っていたんです。しかもその頃ちょうど大阪のその周辺で友達が多くできはじめたタイミングで、それこそ今回の展示でロングスリーブのTシャツを作ってくれた〈WHIMSY〉とかもそうでした。
それで、展示だけだともったいないし、せっかくなら写真集も作ってみようってなったんです。今回僕らの写真集の入稿やデザインの技術面を手伝ってくれた古川くんと3人チームで作ったんです。東京の「みどり荘」も彼の紹介だったんですよね。
詩織 そうそう。ほとんど3人でチームとして作った感じだったよね。デザインとかは自分たちでやったんですけど、古川くんは本当に影武者みたいな感じで動いてくれたんだよね。みんなそれぞれ、過去に同じ空間に居たこともあったんだけど、そのときにきちんと出会っていても今のような関係にはなれていなかったと思うんです。
marimo それって『BLOCK PARTY』(編註 : 2012年に原宿で行われた、古川マサシもオーガナイズに携わったパーティー)のときだよね。ビル一棟貸し切って、一階ではスケートパークやってたり、他の階はギャラリーになってたり、DJブースになってたり、屋上ではAKIOCHAMがこたつを設置して、隣のビルの壁にプロジェクターを使って無断で投影してファミコンをやったりしてたんだよね。今考えるとかなりありえないけど、めちゃくちゃ面白いパーティだった。
詩織 私はひょんなことからAKIOCHAMのことを知っていて、EVISENも絡んでるイベントがあるからおいでよ、って誘われて遊びに行ったんですよね、確か。今回出会ったタイミングはお互いがそれぞれ個人で写真集を出したタイミングでもあったし、ふたりとも次のテーマがはっきりしていたんですよね。
直感はいつだって
間違ってないと思っている
初めて出会い、面識を持つようになってから、実は遊んでいたスポットや活動していた場所が同じだったってことは、ストリートカルチャーや同じ業界に身を置く人にとってはよくある話だったりする。過去に何度もすれ違った果てに、ふたりも出会ったのだ。そこから、互いの直感的な衝動に導かれ、ふたつの都市で大きな反響を呼んだ合同展を開催するに至ったが、今改めて振り返るとどんな感想を持っているのだろうか。
詩織 今回の展示のタイトルも『SPICY PROOF』ってつけたんですけど、お互いの気持ちに対してもスパイシーなのかもなって思いました。1年後はもしかしたら全然違う考え方になっているかもしれないですけど。やっぱり人って絶対変化していく生き物だし。同じ気持ちのままずっと一緒に居られることはないと思うので。でもだからこそ最初はまだそこまで把握していなかったmarimoくんともやってみたいと思えたんです。今の直感を大事にしたいと思って。直感はいつだって間違いがないと思っているから。直感を信じすぎてるのはあるかもしれないけど(笑)。
marimo 詩織ちゃんの直感は鋭いと思うよ。これ言うと怒られるかもしれないけど、詩織ちゃんって僕からしたら直感系だし、天才肌な写真家なんですよね。異才っていうか。それは俺がものすごく普通で、凡人だからより感じるのかもしれないけど。
詩織 私はけっこうmarimoくんと似ていると思うけどね。
marimo 決め事とかも割とズムースに進んでいったもんね。僕が良いなと思ったことはけっこう詩織ちゃんも良いって思ってくれることが多かったよね。性別こそ違うけど、そこは関係なく価値観も共有できるっていいなって再確認しましたね。
詩織 唯一、性別というか違いを感じられたのは、私はドキュメント写真の作品を作るうえでもどうしても恋愛に結びついてしまうことが多いということ。でもmarimoくんも、きっとそういう部分ってあるはずなのに、けっこうお蔵入りにしていること多いよね?
marimo NGではないんですけど、別に出すものではないなと思っちゃうんです。そういった写真も撮るけど発表するほどでもないというか。
詩織 私的にはめちゃくちゃ良い!って思ったからストックもっと見せてって言ったら、すっごく恥ずかしがるんですよ(笑)。
marimo 僕からしたらパーソナルな部分すぎて恥ずかしいんです(笑)。
詩織 むしろパーソナルすぎるものも出してほしかったな。私とmarimoくんの違いはそこなのかもしれないですね。男と女っていうよりも。
marimo 詩織ちゃんの写真は愛がテーマになることが多かったりするもんね。
詩織 うん。それは避けられないね(笑)。でもmarimoくんがもしあの感じの作品を出したら、友達のスケーターに絶対笑われるよね(笑)。
marimo そうだね(笑)。でも、からかわれるかなとかディスられるかなっていう作品でも、意外とみんな良いねって言ってくれるんだよね。今回も、もしかしたら周りから女の子と合同展やるよりも、もっとスケートのライディングカットを掘り下げた方が良いんじゃないの?とか、言われるのかなとか思ったけど、意外にみんな良いコンビネーションだねって言ってくれたんです。それがうれしかったですね。
詩織 私の周りの人たちもみんなmarimoくんとやる意味を理解してくれたし、いいねと言ってくれてうれしかった。初めて私たちの展示に来てくれて、手紙まで残してくれた人もいたもんね。今回の展示で、そうしたこれからも大切にしていきたいなって思える出会いがたくさんあったのは、大きな財産ですね。
marimo 今回ふたりで初めて本を作ってみて、たくさん売ることやお互いの認知度を上げることも大切なミッションではあったんですけど、それ以外の本当に大切なことが手に入った気がしています。お互いの友達が良いねって言ってくれたり。詩織ちゃんみたいな人と親友になれたりとか。
詩織 私もmarimoくんに関してはすっごく良い味方ができたなって思った。marimoくんにとって味方と思える人たちが、私にとってもそうだったから、そういう人たちと出会えたのは本当によかったです。あと個人的には、そんななかで、今までに私自身が瞬発力や感覚で築いてきたものと一度さよならしようと思っていたのかもしれないなって思ったんですよね。展示が終わった後になぜかそう感じたんです。
marimo そうなんだ。でも今思えば出来上がった写真集もそんな風に仕上がっているなとは思ったよ。お互いに過ぎ去ってしまった時間を写したものだったから。あんな写真はもう二度と撮れないだろうなって思いますね。
写真を表現方法とする者にとって、言葉を重要視することはほとんど皆無だ。なぜなら伝えるべきものは写真そのものに写っているはずだから。しかしもう一歩踏み込んでその人となりを知りたいと思ったとき、その背景にあるこぼれ話のようなサイドストーリーが新たな発見となることもある。それは今回の若きふたりの写真家が語ってくれた、眩しいほどにピュアな想いのように。
『SPICY PROOF』
池野詩織/大山マリモ
B5 / 64p / First Edition of 300
¥2,000
Photography : 池野詩織 / Shiori Ikeno、 大山マリモ / Marimo Ohyama