東京から参加したSparrowsが語るRed Bull Music Academy | 後編
モントリオールで行われたRed Bull Music Academy(以下RBMA)2期に、東京から参加したSparrows。
前編では、フロントマンとして活動しているバンドCrystalのことや、RBMAに参加することになったきっかけなどを紹介した。現地で話ができたのは、アカデミーが始まって3日後だったので、2週間のRBMAを終えて東京に戻ったSparrowsに、しばらく経ってからいくつかの質問を投げかけた。
RBMAに集まったおよそ35名の、期間限定の“クラスメイト”たちは、音楽のスタイル、国籍や文化、個性も何もかもがバラバラな選ばれしメンバーだ。そんななかでお互いの音楽性を生かしながら、感じの合う人同士で作品を完成させていく。まずは最終的にどんな作品が出来上がったのかが、気になるところだ。
「ゼロの状態から共作したものを挙げると、まずはJulián Mayorgaさんと作った曲。コロンビアの”Bolero”というリズムらしいのですが、かわいい曲になりました。またKamron Sanieeさんとは、アナログのドラムマシンE-MU SP-1200とOP-1を使ってライブインプロビゼーション(即興演奏)を録音し、ちょっと変わったテクノができました。それとYung Veerpさんとはいくつかの曲を一緒に作ったのですが、ひとつはチープなポストパンクぽい曲で、最終的にサンダー・キャットがベースを弾いてくれて。もうひとつは、日本語の歌詞の短いフォークソング風の曲。こちらはルクレシア・ダルト、マティアス・アグアーヨが歌で、ドリアン・コンセプトがキーボードで参加してくれたんです」
その一方で、自分の作りかけの曲を手伝ってもらったり、逆にほかのアカデミー生の曲作りに参加したりすることの方が、多かったという。
「スタッフとして参加していた方々も含めて、たくさんのアーティストと一緒に曲作りができました。約束をしてはいたものの、時間がなくて実現しなかったコラボレーションも多く、それはいつか別の機会で実現できたらと思っています」
スタジオには「今まで見たことがないものまで用意されていた」とのことだが、実際にどのような機材が揃っていたのだろうか?
「アナログシンセサイザーは、Sequential Circuits Prophet-5や、ARP 2600、Roland Jupiter-8などいわゆる定番のヴィンテージ機材から、Ensoniq Fizmo、PPG WAVE 2.2といった、今まで見たことがなかったものまで用意されていました。特にPPG WAVE 2.2が一番興味深かったです。複雑で美しいテクスチャの音を持ったシンセサイザーで、適当に弾くだけでその場がトリッピーな瞑想空間となってしまうような、素晴らしい楽器でした」
今まで触ったことのない楽器に触れて、演奏することができる。音楽を作る者たちにとって、これほどワクワクすることはないだろう。ほかにも、知ってはいるものの、ほとんど触ったことのないようなドラムマシンにも出会えたという。
「ドラムマシンは、LinnDrum、E-mu SP1200、Roland TR-808、Roland TR-909などが揃っていました。サウンドのファイルは持っていて、使ったこともあるのですが、実際にハードから出力される音からは、それぞれが持つ独特の質感と迫力を強く感じることができました。ほかにも、8トラックのテープレコーダーや、ビブラフォン、ピアノ、ドラムセットなども用意されていたのですが、あまり試す時間がなかったのが残念です」
とにかく圧倒的な出来事ばかりで
すごい体験をしてきた
音楽学校であるRBMAで、結果的にどんな学びを得たのかを尋ねると「具体的に説明するのはとても難しい」と述べる。
「期間中は、とにかく圧倒的な出来事ばかりだったんです。すごい体験をしてきたことだけは確かなのですが、こういうことを学びました、と説明するのはとても難しい。RBMAには、スタッフやプレスの方々も含めて、世界中から音楽が大好きな人たちが集まっていました。そこから生み出されるピースフルで創造的な雰囲気のなかで創作活動ができたことは、何事にも代え難い経験。世界中に素晴らしい友人ができたことも、バラバラになりつつあるように見える世界の状況の中で、大きな意味を持つことなのではないかと思いました」
RBMA中は自由に行動できる時間が限られていたので、あまり外には出歩くことはなく「ほかの参加者とチャイナタウンで中華料理やベトナム料理を食べたり、近くのハンバーガー屋に行ったり、あとは夜中にバーに行くなど」をしていたという。しかしながら、RBMAの会場とスタジオは、非常に居心地が良かったようだ。
「機材だけでなく、スタジオを彩る照明、壁紙、椅子、ソファー、テーブル、植物、そしてアートワークへのこだわりからも、この場での経験を特別なものにしようという熱意を感じました。それが自分好みでもあったので、一層うれしかったですね」
また、レッドブルという企業が取り組んでいることに対して「世界的に成功している企業だからこそ実現できることではあるのですが、一般的にはニッチなジャンルの音楽に価値を認めて、こうしたイベントを毎年開催していることに驚きました」と感想を述べ、「このような素晴らしい体験をさせていただいて、とても感謝しています」というまっすぐな言葉で、Sparrowsに送った質問状の返事は締めくくられていた。
photographer : Dan Wilton, Karel Chladek, Martin Reisch, Maria Jose Govea, Santiago Felipe / Red Bull Content Pool