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Adolescence

一ノ瀬 佳音(1話)

2021.07.26 07:00

都内のとある中学校。

「佳音〜、はやく帰ろうよ〜」

夕日が差し込む放課後の教室の出入り口に、二人の女子生徒が中を覗いている。

「まってまって、この荷物職員室に持っていかなきゃ」

女子生徒たちを待たせているのは、一ノ瀬佳音。

自分のスクールバッグを肩にかけると、山積みになったノートを両手で抱えた。振り返って教室の出入り口へと小走りで向かう。

「また頼み事されたの?」

「たまには断っちゃえばいいのにー」

友達たちはそう言いながらノート数冊を手に取る。

「あっ、ありがとっ。んー、なんか断れないんだよね〜、頼ってもらえるのは悪いことじゃないし」

佳音は軽くなったノートの山を整えながら笑う。

「てかそれ、今日の日直の仕事じゃん。いいように押し付けられただけでしょ〜」

「まったく優しいのか鈍感なのか…」

友達たちは呆れているが、佳音を見るその目は優しげだった。


階段を降りて、職員室に到着した。

「失礼しまーすっ!せんせ、これ持ってきました〜」

担任の先生の机にたどり着くと、佳音はとん、とノートの山を置いた。友達たちが続けて数冊ずつ重ねていく。

「あらあら、係じゃないのに悪いわね。ありがとう」

座っている担任の先生が佳音たちを見上げてにこっと笑う。

佳音はつられて笑顔になった。太陽のように眩しい笑顔だ。

友達たちは横で顔を見合わせて、くすっと笑った。


一ノ瀬佳音は中学2年生。特にこれと言った趣味も、何か秀でた特技もない、普通の中学生だ。


強いて言うのではあれば、実年齢にそぐわない大人っぽい美しい容姿が特徴だろうか。


白く艶のある肌、ぱっちりとした大きな瞳、ゆるくカールした長いまつ毛、きゅっと結ばれた血色のある唇。

背も高く、腰まで伸びた紺色のロングヘアーはより大人っぽさを強調している。


その容姿からはクールで知的な性格だと思われがちだが、本人は至って普通の中学2年生、といった感じだ。


好奇心旺盛で明るく、分け隔てなく色々な人と仲良くできるクラスの中心的存在だ。

そのためか頼まれごとも多く、断れないお人好しな性格もあってつい引き受けてしまう。


友達にも恵まれ、楽しい学校生活を送る普通の女の子、それが一ノ瀬佳音。

だが、友達の一言で人生が変わるだなんて、この時は思ってもいなかった。