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「第二の家」ブログ|藤沢市の個別指導塾のお話

スモールワールズというなんだか圧倒的な小説の考察レビュー。大人の読書感想文【後半ネタバレ】

2021.07.27 15:05


「この作者の人、天才…!!」


読書好きな生徒が本書の短編を一つ二つ読んでそう声を発したので、驚きました。「天才」という言葉は個人的にはあんまり好きではなかったのですが、そう思う気持ちはよくわかったからです。


「ここでその言葉!」


「ここでその展開!」


この本を読みながら、そんな風に何度驚かされたか。作者の一穂ミチさんのインタビューなどを読むと、細かくプロットを立てる方ではないというから、なお驚きです。


中学生にはまだ早いかなと感じるお話もありましたが(それも初っ端に)、大人の階段登るのにもいいのかな。コミカライズもされているポップな短編「魔王の帰還」ぐらいから入るのがオススメかもしれません。


それでは、詳しく本のご紹介をしていきましょう。



スモールワールズ 一穂ミチ



スモールワールズ』は、バラエティに富んだ短編集。各お話にはゆるくつながりもあって、だけど全然違うお話。各話には、怖さややさしさ、笑いや切なさが詰まっています。


そして、どのお話もとびきり面白い。書店で表紙買いした僕の目も狂ってはいなかったということですね(自画自賛)。


あらすじを見てみましょう。

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。


作者インタビューによると、この本のテーマはもともと「歪な家族」だったといいます。言われてみれば確かに。でも、そこまでおどろおどろしい感じがしないのは、作者の力量でしょうか。


というよりむしろこの本は、登場人物たちのような、小さい世界の片隅で生きる人々の応援歌にさえなっているような気がします。


小さな世界は、つながっている。当たり前だけど、僕らは一人じゃないことを教えてくれている気がするのです。


まずは保護者の方々にオススメです。



ネタバレあり感想文



世界と秘密のこと


もしも、世界に一つも秘密がなかったとしたら、その世界は果たして面白いのでしょうか。


この本に登場する登場人物たちは、お話の冒頭、誰もが秘密を抱えています。


夫婦関係や親子関係、被害者と加害者、ジェンダー、自分の正体について。それが明るみに出るまでは、各話なんてことはないお話だと思って読み進めているのですが、ある時ふと驚愕の事実を突きつけられ、一瞬こちらの思考が停止します。


そういうことか、と情報を咀嚼し終えた後、溢れるように面白さが込み上げてきます。


それを、まったく趣の違う短編で毎度させられるわけですから、いやはやすごい本です。


秘密の魅力を再確認しました。謎とも呼ぶべきか。だからこそミステリーって面白いんでしょうね。


でも、現実の世界では秘密って持てば持つほど疲れるんですよね。小説ぐらいがちょうどいいのかもしれませんね。


また、各々の話、ひいては各々の世界が少しずつつながっているのも面白かったです。ここはネタバレオッケーゾーンということで、つながりをいくつかピックアップしてみます。



僕が気づいただけでも他にもあるので、是非探してみてください。この辺りも何度も読み返したくなる理由の一つです。


一つ一つの物語は、小さな世界のお話。けれど、それぞれの小さな世界はつながって、広がりを見せます。その広がりは、実はみんなが大きな世界の中で生きていることを教えてくれます。そして、その中で誰もが小さな世界を持っていることを。


悲劇、困難、別離。大きな世界ではネガティブに括られ称されるものも、各々の持つ小さな世界では、その捉え方は少し変わってくる。


登場人物たちの向き合い方、考え方、それによる変化を目の当たりにすることで、それを材料に、僕らも少しずつ変化していく。強く、しなやかに、自由に。大きな世界の中で、小さな世界たちを大切にできるように。


この本を読んで、自分は自分の世界を大切にしようと思えました。え?それはどんな世界かって?


秘密です。


本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。

教室にも置いておきます。