ゴールデンカムイ を私が推す理由
アイヌの少女と日露戦争帰りの元兵士が金塊を探すミステリー冒険譚。
死刑囚の体の刺青が金塊への暗号となっており、それらを探しながら、狩猟やグルメ、アイヌの伝承や映画オマージュ、変態・変顔・そして熱いバトル。
主人公勢力、軍の勢力、第三勢力等に加え、刺青持ちの囚人達や歴史が絡み、練り上げられたストーリーが大挙してくる感情闇鍋ウエスタン!
上記が公式紹介的なものだが、私がこの物語を伝えるなら下記だ。
人間が生きるとはどういうことか、生きながら戦いながら考える。
普通に生きられない人間が、それでも生きようとする時、その歪みや痛みも強さとなり煌めく。
アイヌとは”人間”という意味だそうだ。そしてカムイ・自然とも対等である。
様々な登場人物がそれぞれの不幸を抱えながら、基本的には闘う側であり、変態や罪人はいても腐った奴はいない。
金塊を巡る冒険でありながら、それぞれが自らの魂と向き合う旅の物語である。
2021年7月29日~9月17日まで全話無料公開となるため、いつも私が熱量を持て余しているゴールデンカムイについて紹介したいと思い、本記事を書く。(※追記:現在は全編無料は終了でお試しのみ)
作者の野田サトル先生はコメントで「いくときは一緒だよ☆」とのことで、本誌派の私も読みながら、このリアルタイムの名作を最後まで見届ける覚悟でいる。
ネタバレは極力しないようにするが、物語の魅力を伝達する為、私なりのあらすじを紹介しながら、私がこの作品を押す理由を語っていこう。
(尚、Amazonプライム等にアニメーションもあるが、原作のすべての話がアニメ化されてはいないので、ぜひこの機会に漫画原作に触れて頂きたい)
1巻
主人公・不死身の杉元とアイヌの少女・アシリパが北海道の冬山で出会い、北海道のどこかにアイヌの金塊があり、死刑囚の刺青が暗号となっていることを知り、それぞれ探す理由があることから相棒となる。ヒグマとの闘い、第七師団の尾形と近接戦。脱獄王・白石と主人公達が組み始める。チタタプする。
2巻
杉元とアシリパ達に迫る、金塊を狙う別の勢力・帝国陸軍 第七師団の影。第七師団の造反組や死神と呼ばれるキーマン・鶴見中尉も登場。
3巻
アイヌのグルメにヒンナヒンナ(感謝を表す言葉)しながら、第三勢力・元新選組の土方登場と、刺青持ちの囚人の猟師・二瓶が熱い魂を起たせる。
4巻
猟師・二瓶と獣の決着は、一人の兵士・谷垣の魂をマタギに戻す。203高地のエピソードと第七師団が金塊を追う理由。そして土方と鶴見の邂逅、杉元の過去の一部と狩り、新たな刺青持ちの囚人・不敗の牛山登場。
この辺りまでは導入であり、舞台設定、北海道で狩やバトル、アイヌのグルメ美味しそう、杉元強いな、と言った普通の感想・感情で読めるかもしれない。丁寧な描写と意欲作のパワーを感じつつ、なぜそこまで熱狂的なファンや推す人々がいるのかピンと来ないかもしれないが、読み進めてほしい。
5巻
事件の噂から刺青持ちの囚人・煌めく変態の辺見にたどり着く主人公達。アイヌコタン(集落)に、イメチェンした孤高の山猫スナイパー・尾形と二階堂が訪れ…。主人公組はアシリパの父の友人・キロランケに出会う。
6巻
主人公組や不敗の牛山は札幌のとあるホテルへ。そこには美貌の刺青持ちの囚人・家永が…。一方、土方達はとある街の抗争に参戦、そこに尾形が参戦。
7巻
アイヌの占師・インカラマッと主人公組は出会い、競馬、モンスターの羆の地へ。主人公組は刺青持ちの囚人・親分とその姫に出会い共闘する。最後にはハート型の雲。
8巻
第七師団や主人公組は刺青の噂から夕張の剥製屋へ。そこには悲しみと才能をもつ職人・江渡貝くぅぅん!が。谷垣とアイヌの孤児・チカパシの出会い、谷垣の悲しき過去「カネ餅」。第七師団の月島は炭鉱で何を受け取るのか。
9巻
諸々の勢力が入り乱れてくる。白石がなぜ脱獄王となったか、そこには一枚の絵が。偽アイヌ問題と刺青持ちの囚人や芸術家・熊岸の願い。
この辺りから、怒涛のエネルギーやクセに飲まれつつ、読者は主体的に物語や絵やセリフを楽しめるようになるだろう。
そして、私が冒頭で述べたこの物語の紹介の様相を帯びてくる。心理学的に誠実に人間の姿を描いていると思うのだ。
5巻の辺見は心理学で言う反動形成による行動だ。一見ネガティブな行動を繰り返す場合その真相には心の限界の恐怖や悲しみがあり、それを乗り越える為に人は行動する。本作の変態とは、きちんと人間の心を理解した作者によって描かれている。
6巻の家永のモチーフや物語は映画好きの作者のオマージュも心地よく、牛山の良さも出ている。そして尾形のセリフ、「テメエみたいな意気地の無い奴が一番むかつくんだ」。どれだけ不幸でも、自ら生きようとしない人間は私も嫌いだ。
7巻もオマージュや、ある種のカムイ・見えざる手を感じ始める。
8巻の江渡貝くぅぅん!は刺青持ちの囚人ではないが、変態であり、オマージュもあり、そして、毒親の呪いとそこからの解放、職人であり芸術家として生きる本懐が描かれている。鶴見チルドレンもこの辺から。
9巻には、作者の本音や表現者の叫びがサラリと出てくる。熊岸のセリフ、「本物の作品を作りたかった 観た者の人生を ガラッと変えてしまうような 本物の作品を」、それは本人の知らぬ所で叶っていた。これは私も本物の作品に出会い、絵描きとなって願う魂が震える言葉だ。そして解りやすく、西洋絵画のオマージュ(キリスト教の暗喩)が出始める。「最後の晩餐」だ。最初の福音は?
10巻
第七師団に捕まってしまった白石を主人公組や土方組が救出しようとする。前巻の囚人・鈴川を活用しつつ、第七師団の薩摩隼人・鯉登少尉登場!有坂閣下と出会い、負傷した二階堂はニカイダーとなる。主人公たちは大雪山へ。杉元は本来の自分を取り戻せるのか。
11巻
鯉登少尉は鶴見中尉に叱られる。そして、主人公のライバル的な存在・尾形の過去の一部である「あんこう鍋」が語られる。刺青の囚人・稲妻と蝮のお銀の愛とその子供と西洋絵画の名画のオマージュにつながり、鶴見中尉の聖母マリアへの重ねが目立ち始める。尾形と子守歌、そして釧路へ。
12巻
刺青持ちの囚人・姉畑先生が大暴れ。動物が大好きなんだ…。二瓶等、沢山の縁を持つアイヌの男・キラウシ。一方で囚人の刺青につながる網走監獄とのっぺら坊に迫り始める。新たな囚人が主人公組に迫り温泉からの全裸バトル始まる。
13巻
刺青持ちの囚人・都丹、全裸で闇の中闘う主人公組の男達。一方、第七師団はキーとなる網走監獄に迫る。生粋の愛の変態・宇佐美、そして情勢を何度も切り替えるキーマン・門倉が登場。主人公組や土方組も網走に迫り、チタタプする。
14巻
戦闘が始まる。刺青を彫ったのっぺらぼうとアシリパを会わせるため、それぞれが力を尽くす。そして凶弾。物語は北海道を出て樺太編へ。
この辺りがクライマックス的盛り上がりで、利害なのか仲間意識なのか因縁なのか、チームは頻繁に変化し、1コマも無駄がなくストーリーテラーたる作者の底力が凄くなる。アニメでは第二期までのパートだ。
10巻は場所を動かしながら物語を進める上手さと、個人的に好きなキャラクター・鯉登少尉登場が嬉しい巻。主人公杉元の戦わざるを得ない業と痛み、そして本来の自分「干し柿」を食べていた頃のような心を取り戻せるかという涙の問い。
11巻までは、本当に皆にたどり着いてほしい。尾形のセルフカウンセリング(宗教で言う罪(傷み)の告白と解放・告解)、このくだりは私の魂がそのまま喋っているのかと思った。個人的に尾形はかつてないほどの感情移入の対象であり、好きとかそういうものを越えている。そして、愛について。
12巻は、輝いて逝く変態も補完の欲望と自己否定の波がよく描かれている。アシリパの恋心。個人的に好きなキャラクター・キラウシ登場。酒飲んで仲直り。
13巻はバトルも良いが、インカラマッが表す運命を超える意思の話と、諸々の考え、そして最後の晩餐的なチタタプの夜が良い。
14巻は、破壊。そして解ることと裏切り。運命の輪。実は局面を反転させる弾を撃つのは誰か。アシリパは杉元と離別し、新たな旅が始まる。
15巻
連れ去られたアシリパ達とそれを追う杉元達の樺太編の始まり。谷垣がおもちゃにされ、月島が主人公的に活躍し、その悲しき過去「いご草」と鶴見中尉とのストーリー。樺太アイヌと、刺青持ちの囚人・岩息は承認欲求の表現。スチェンカとバーニャ。
16巻
のっぺらぼうことアシリパの父・ウイルクとキロランケの流れや、土方達と出会う刺青の囚人・人斬り用一郎やキラウシ。サーカスで活躍する鯉登少尉と泣いちゃう谷垣。ウイルタ民族。国境へ向かう。
17巻
アシリパとキロランケと尾形と白石チームは、国境を超えると共にロシアの狙撃手・ヴァシリとの闘いが始まる。人のやることについて。尾形の深層意識から、カインとアベルとも言える弟・勇作さんが登場。一方杉元達は遭難しかけながら灯を見る。
18巻
樺太組も歩みを進めながら、北海道では土方組が刺青持ちの囚人・関谷と対峙する。昇華しきれない対象喪失で、何とか自己保全する為の他者への試し行為。牛山スケートと門倉&キラウシの探偵物語。そしてロシアの長谷川写真館とウイルクやキロランケ、その同志のソフィア達の因縁。
19巻
ロシアの監獄からウイルクの仲間ソフィアを脱獄させ、流氷を渡るアシリパ達。そこで暗号の鍵を取り戻すアシリパとそれに気づいた尾形の対峙。追う杉元達の戦いと救出。「生きる」というタイトルの物語。鯉登少尉の覚醒と一刀。
20巻
北海道の登別温泉では、第七師団の菊田特務曹長やアイヌのイポプテ登場。負傷した樺太組は少数民族のお世話になりながら、瀕死の尾形を救う。そこには鯉登少尉の過去が絡み…。
21巻
何だかんだ、樺太編が終わる。アイヌの文化を守ることについてアシリパは考える。鯉登少尉は気付く。
物語として派手さはないかもしれないが、この樺太編は魂の逡巡、内的世界を描いていると思う。私は尾形こそ人間そのものであり、彼の旅がこの物語の裏導線だと思っている。
そして、鯉登少尉こそ希望や成長を体現する、本来の主人公的な力を持つと思う。月島が軸として強く、細々としたやりとりに彼の人間性が出ており、彼の過去についてはアニメ3期で一話なのに映画一本分の密度と重さがあり、エンディング曲は全話の中で唯一、黒バックで流された。アシリパは色々な少数民族と出会いながら、アイヌにとっての自らの役目を考える。
「生きる」という題名の物語は凄まじく、生きることのエロスとタナトス、すべての物語の基本構造である陰陽、人間というものそのものを描いている。
22巻
逃走のための戦い。「生きちょりゃ良か」。流氷原から北海道へ。棒鱈を抱えた猫は舟へ。北海道へ戻った主人公組は新たな囚人に出会う。
23巻
刺青持ちの囚人・平太師匠と刺青持ちの囚人・海賊ボータロー。背負いきれない程の過去への防衛による解離や人格障害を描いている。宇佐美と鶴見中尉の出会い、ウパシちゃんと杉元の出会い。そして谷垣とインカラマッ、月島と鯉登の新たな段階への歩み。
24巻
闇を光が救う。見届ける覚悟。河で主人公組は海賊ボータローと戦う。アシリパへの揺さぶり。2つの事件の噂で札幌へ向かうそれぞれの勢力。変装。
25巻
アイヌの文化や自然について考えさせる、近代化の姿。一方、尾形と宇佐美の反映。ロシアからの船。刺青人皮の暗号解読が始まる。札幌に全員集合・狼煙の花火はアイヌのキラウシが上げる。
26巻
舞台は札幌ビール工場。うまい!門倉と宇佐美の追い掛けっこ再び。事件の元、刺青の囚人・切り裂きジャックや刺青の囚人・上エ地。狙撃手・尾形の完成と、鶴見中尉のピエタ。ボータローが問いかけるもの。
ここまでがコミック化しているパート。舞台は北海道へ戻り、囚人や各勢力が集結してくる。交響曲のようにすべてが響き合っている。
個々の生き様が説得力を持って問いかけてくる。ここには心理学の反復強迫や否認、毒親持ちのエリートが抱えがちな神経症や、数々の心理的現象が描かれている。そして愛という名の支配と呪いについて。
実は涙が出たのは尾形と宇佐美と鶴見の回だ。作者が本気で感じながら描いた絵を本気で鑑賞すると五感で伝わってくるのだ。この回は冷たい風が画面から吹き出し、あまりに美しく、左目から冷たい涙がこぼれた。そして泥臭く生きる生暖かい血の味がした。
本誌261~284話(未単行本化/最新話まで)
各勢力が拮抗する中、サッポロビール工場は破壊され、それぞれがまた動き始める。鶴見劇場にアシリパやソフィアが登壇し、月島と鯉登は観客となる。タイトルコール。ウイルク達に迫る。
月島ハイライト事件。菊田特務曹長という人間らしさの塊。暗号の謎を解き、☆へ。列車の中の夢、主人公杉元の過去、東京の物語。そこには尾形の弟、勇作さんや第七師団も。尾形も眠る。神の文字の刺青と必要なカムイについて。そして最終決戦の号砲。
もう、すべてが熱い。人間と人間が動くとなぜドラマと化すのか。すべては作者の作り出したものであり、普遍性とオリジナリティを持つ傑作である。
そして、絵を描くことが本当に好きな人が誠実に描いた絵だと思うから、観ていて清々しく気持ちよい。登場人物達は悲しみに溺れず、不幸に腐らず、どう生きるかを表明しているから潔く、気持ちいい。細部を取り上げればキリが無いが、漫画というものにこれだけの全てを込められるのか。まだまだ語りたいことは山ほどあるが、それは皆が本作を読んでからだ。
最終章突入、魂が燃えている。
(本作を推してきたが、次の様な人は読むことを控えた方が良いと思う。真面目に描かれているからこそ、フラッシュバックや不安と恐怖を起こし境界が不安定になるリスクがあるからだ。
・親しい人や家族が変死しグリーフケアの段階を越えていない人
・事件被害者で心理療法を受けていない人
・通院中及び投薬中で精神の病状を抱えている人
・虐待サバイバーだがまだ日常の喜びをキープできていない段階の人)
(一方で、これだけ深く人間の心の本質と、物語の基本とアニミズムや歴史に迫っているので、自らを自覚している人には素晴らしい友となる作品だと思う)
(余談だが、男性の裸体は美術の基礎だ。私も10代からデッサンしているから、本作の骨や筋肉や表情の美は全部クロッキーしたい位だ)
ゴールデンカムイに感謝と愛をこめて。
(※追記:現在は全編の無料公開は終了しています)
無料公開はこちら↓
#ゴールデンカムイを #ヤンジャン アプリで読もう! https://ynjn.jp/app/title/92
(※追記2:物語完結後に書いた記事はこちらです↓)
(※追記3:ゴールデンカムイ展も行き、アニメーション、そして同作が好きな人達と交流する様になった。アイヌ文化も日本の文化もすきだから、こんなに素晴らしい作品と生きていることにヒンナヒンナ)
(C)夜の魚