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超人ザオタル(26)道への不安

2021.07.30 00:13

翌日の晩にタロマティが部屋を訪ねてきた。

「ちょっと時間がありますでしょうか、ザオタル」

タロマティは何やら気難しい顔をしていた。

そのときも私は椅子に座って本を読んでいた。


「どうぞ、時間はいくらでもあるよ、タロマティ」

私は構えることなく笑顔でそう答え、椅子をすすめた。

「ありがとうございます。では」

そう言ってタロマティは私の向かいにある椅子に座った。


「実は、姉のアルマティのことですが。

その…、道のことが頭から離れないようで困っています。

私たちにはここの生活があります。

ふたりで力を合わせて生きていかなければなりません。


私はここでの生活が気に入っています。

ここでの生活が私自身なのです。

畑仕事や動物たちの世話、料理や掃除。

そんな毎日の繰り返しが私の人生のすべてです。


それ以上の何かなど望んでいません。

それどころか、私はそれで楽しく満ち足りています。

アルマティもそうであることを疑ってはいません。

ただ、ときどき道の話をはじめると少し心配になるのです。


もしかすると、ここを離れると言い出すのではないかと。

自分も旅人のように道を歩むことにすると。

そんな時にあなたが現れたのです。

もちろん、私は道を行く人を尊敬しています。


道を行く人を助けることは私たちの務めです。

だから、アルマティがあなたを助けたとき、最高の贈り物だとさえ思ったのです。

でも、自分たちが道を行くかという話になると違ってきます。

それは分を超えることになります。


もしアルマティが道を行くなら必ず不幸になるでしょう。

期待は裏切られ、夢は破れ、身も心もボロボロになります。

私はそんな道行く人を何人も見てきたのです。

強靭な心身を持つ者でさえ、自分を擦り切らして倒れていきます。


助けたのはあなただけではありません。

アルマティは道の者から話をたくさん聞いてきました。

それには支離滅裂な話が多いのですが、それでもアルマティの興味は消えません。

むしろ強くなっているように思えます。


おそらく、あなたからも道の話を聞きたがるでしょう。

それはもちろん構いません。

ただ、私たちにはここでの暮らしがあることを知っていてもらいたいのです。

そして、私がアルマティの幸せを願っていることを」