「わたしのおふねマギーB」アイリーン・ハース
たぶん当店では一年に一回くらいはアイリーン・ハースの絵本を紹介していると思うのですが、今回は本日入荷しました「わたしのおふねマギーB」です。
お話の書き出しが素敵ですね。
「これは おねがいが かなった おはなしです。」
こんな風に始まる絵本、素敵ですね。
ひとりの女の子マーガレット・バーンステイブルが或る晩に空の星に願い事をします。
「わたしのなまえをつけたおふねで おもいっきりうみをはしりたい」
翌朝目を覚ますとそこは船の中、船の名前は「マギーB」一緒に乗っている弟と、とびきり幸せな一日が始まるのです。
お話の全編を通して幸福な時間が流れています。
それは勿論ハースの描く、淡くまどろむような色彩で描かれた絵と混ざりあって、読むこちらまで、幸せな気持ちにさせてくれるのです。
けれど、大人が最後まで読むと、すこし不思議な気持ちになってしまうかもしれません。
こうしたお話(こどもの空想的な願い事が実現するお話)の典型では最後には「夢オチ」などで、現実世界の幸福の方へ帰ってくる物語処理がなされるのが普通だと思うのですが、この絵本では、最後の最後まで夢の時間が解けないのです。
最後は夜になって、マーガレットが船の中で眠りについたままお話は終わってしまうのですね。
考えてみるとお話に出てくるのは、自分より小さな幼い弟ほかには動物たちしか出てこないので、これもまた何処か不自然な印象を覚えます。
幼い子の「願い」に親の姿が(影さえも)全く出てこないことに違和感を感じてしまうのです。気にし過ぎでしょうか。
もしかしたらこの絵本を精神分析的に解釈している論文などもどこかにあるかも知れませんね。
そんなことを考えると、このお話を包む「幸福」な空気感の二面性に気づき、この絵本に奥行きが一気に感じられ、魅力が更に増すように思われます。
一見してわからないのような影の部分を持った絵本だからこそ、人の心に深く入り込み、忘れられない作品になっているのだと思います。
この絵本「わたしのおふねマギーB」は既に絶版で手に入りにくくなってしまっておりますので、気になった方は是非この機会に如何でしょうか。
当店在庫はこちらです。
「わたしのおふねマギーB」アイリーン・ハース