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「ほかでは売ってない」レアなZineが揃うセレクトショップ「commune」

2017.02.13 10:00

新代田駅から徒歩10分ほど歩いた場所に、土日のみオープンするセレクトショップがある。その名は「commune」。Zineやアートブックに特化したショップで「ここでしか手に入らないであろうアイテム」をセレクトしているという。

近年、インディペンデントな精神を貫く本屋が増え、また、国内のアートブックフェアの規模も拡大の傾向にあり、かつて手に入りづらかった海外のZineやアートブックにアクセスできるスポットが増えてきた。それにもかかわらず、「ここでしか手に入らないアイテム」をセレクトしているとは一体どういうことなのだろうか。

未だ見ぬZineが眠る宝庫に
足を踏み入れる


お店に入って目に飛び込んでくるのは、ストリートの香り漂うラフな装丁のZineやオリジナルのアパレル、そして、至るところに配置されたユーモアの効いたフライヤーや謎めいたフィギュアたち……。雑多な組み合わせのラインナップのなかには、洒落た本屋に行けば必ず置いてあるような本はどこにも見当たらない。

どのようにアイテムをセレクトしているのか? 背景にはどんな思想があるのか? オーナーである川邉 美幸氏に聞いてみた。

ーここにしか置いていないアイテムって、結構な数あるのでしょうか?


川邉 美幸(以下MK) ほとんどがそうですね。はじめて来た人は多すぎてちょっと混乱すると思います(笑)。

ーたとえば、同じ下北沢にある本屋「B&B」なんかもインディペンデントな出版物を多く扱っていますが、それよりももっと海外志向で、かつディープなものが多い印象です。どういう基準でセレクトしているのでしょうか?


MK 基準のひとつは、アーティストもしくは出版レーベルが、Zineなどの作品を継続的に発表していることですね。店頭に置いた作品のアーティストから、友人のアーティストを紹介されることもあります。あとは、自分たちのお店に合うかどうか。


ー「commune」に合う、合わないという基準を、具体的にいうと?


MK そうだな……「カワイイ」と言われるものは置かないですね。


ーガーリーなものという意味ですか?


MK そうです。以前はアクセサリーなどを置いていたのですが、もともと私自身がアクセサリーを付けないタイプなので、そういうものを扱うことにだんだんと矛盾を感じてきてしまって。あと「カワイイ」と連呼されるのが個人的にはあまり好きではなくて。もういっそのこと「No Cawaii」ってステッカーを表に貼ろうかと思ってるくらいです。

ー相当嫌気が差してますね(笑)。


MK 日本から海外に向けて「カワイイカルチャー」を発信していて、それはそれで素晴らしいことだと思うのですが、「commune」ではそういうものは扱ってないので、それを海外からのお客様に伝えるために。あとは手に取ったものを「カワイイ」以外の言葉で表現してほしいという意味も込めて……。


ー「カワイイ」と一括りにするなと。


MK はい。お店としてはストリートっぽいものが多いと思います。ストリートの方が音楽やアパレルなど他ジャンルとの繋がりのあるアーティストが多いから面白いんです。作品を扱うときは他の分野に「つながりがある」「視野が広い」アーティストのものを選ぶことが多いです。

ー「つながりがある」「視野が広い」というのもセレクトの基準なんですね。


MK それもありますが、直感のときもありますね。そうすると思わぬ発見もあって。たとえば、海外の友人がやっている出版レーベルの作品を扱うことになって、数点選んでいたら、たまたまそのなかにエディ・スリマン時代のサン・ローランでコラボレーションアーティストに抜擢された人がいたり、別のレーベルが出版した写真集を見て「この人の写真いいなぁ」と思ったら、マック・デマルコのジャケット写真を撮っていた人だったりと。


ーそういう背景やつながりを読み解く楽しさはありそうですね。


MK そうですね。お客さんに一番感じてもらいたい部分はそこかもしれません。海外のアートブックフェアに参加したときは、作品を観るだけでなく、実際にアーティストと話してみてその作品の背景やアーティストの人となりを知ったうえで、とっておきの裏話を仕入れられたらといつも考えています(笑)。

ギャラリーをクローズし、
出版レーベルを立ち上げた理由


「gallery commune」の名で若手イラストレーターの展示やアーティストのライブなどを催し、下北沢周辺のカルチャースポットとして認知されていたギャラリーをご存知だろうか。現在の「commune」の前身ともいうべき存在で、2015年に惜しまれつつもクローズしたギャラリーだ。

現在は、出版レーベルを運営し、アーティストのマネジメント、展示の企画などを活動の軸に置いている。実は、ショップの傍ら多種多様な活動が行われているのも「commune」の大きな特徴なのだ。こうした一連の活動は、ショップとどのようなつながりを持っているのだろうか?


ー2015年にギャラリーを閉めてから、少し時間をおいてショップをオープンさせたとのことですが、ギャラリーの頃からZineは売っていましたよね?


MK ショップは去年の2月にオープンしたのでちょうど1年くらい経ちます。前身の「commune」では、私は二代目の店長なのですが、先代の店長がZineも購入できるギャラリーとして立ち上げたようです。当時はZineを売っているお店がほとんどなかったみたいで。私が店長になったときは、その考えを継続していたのですが、最初はあんまりZineの良さが分かってなかったですね(笑)。


ー分かってなかったんですか(笑)。


MK あるきっかけから偶然引き継ぐことになったので、そのときはアートのこともよく分かってなかったし、なんでこんなコピーしたものが面白いんだろうって……。でも、作ってるアーティストの話を聞いたり、自分で作ったり、アートブックフェアに参加していくうちに、それぞれこだわりがあることが分かってきて面白くなりましたね。

ー現在は、出版レーベルが活動の中心とのことですが、ギャラリーから出版に集中したきっかけはあったのでしょうか?


MK それが絶対の理由というわけではないのだけど、その時点ではやりきったという感覚がありました。個人的に、一度展示した人を何回も展示することがあまり好きではなくて、そうなると、日本で展示したいと思うアーティストが思い付かなかった。


ー今も展示したい人はいないんですか?


MK 今もいないです。展示に行っては探してるんですけどね。もしかしたら、ハードルを上げ過ぎているのかもしれないです。


ーハードル?


MK ギャラリーを閉めた後は、海外へ飛ぶことが多くなったのですが、現地のアーティストのスタジオに遊びに行ったり、インタビューしていくと、日本のアーティストの甘さが露骨に見えてきてしまって。もちろん取り上げたら売れるだろうと分かる日本のアーティストはいるのですが、それだけの理由では動きたくないなと。


ー「甘さ」というのはどんなところがそう感じるのでしょうか?


MK 単純に日本のことしか知らないのと、勉強が足りないと感じる人が多いですね。こういうと海外かぶれみたいになってしまいますが、私が出会ってきた海外のアーティストたちは、アイデアを得るべく本当に頻繁に旅をするし、売れる売れないにかかわらずものすごい量の作品を作ってるんです。制作するスタジオを借りるためだったら、お金を惜しまなくて、むしろ、そのために働いてるんじゃないかってくらいで。


—日本とは根本的な違いがありそうですね……。現在は海外の活動が多いんですか?


MK 国内外のブックフェアの開催に合わせて本やグッズを作って販売するのがメインの活動になっています。今は3月のメルボルンアートブックフェアに向けてがっつりアイテムのリリースが控えているところですね。店頭に置いているZineなどは、海外のブックフェアに参加するタイミングで仕入れることも多くて、ブックフェアそのものが作家とのつながりを生む出会いの場になっていますね。

ーブックフェアに向けて毎回アイテムを作ってるんですか?


MK 2、3冊のZineに加えて、その作家とコラボレーションしてアイテムを出すという形で毎回やっています。最近は、B.Thom Stevenson というアーティストとコラボレーションしたアイテム(上記写真)をリリースしました。アイテム作りを既存のものだけで済ませてしまうことに抵抗があって、たとえば、トートバッグであればボディをイチから作るなどしてこだわりを持ってやっています。2月末に行われる「LA Art Book Fair 2017」 でもふたつのZineを販売予定です。

(左)「1-800 WHO OOPS」Vinnie Smith / Jen Shear、(右)「Good Morning」Andy Rementer

アーティストをサポートする
ショップのあり方


ーショップだけにとどまらない一連の活動を見ていると、ギャラリーを閉じたあとも「アーティストをバックアップする」というギャラリー的な活動は形を変え続いている気がしました。


MK そうですね。やっぱりギャラリーの頃から一貫してアーティストを第一に考えてやっています。なので、ショップはその活動の一環にあるというイメージです。私たちが考えていることをシェアする場所というか。


ーショールームに近いですね。今、「commune」が考えていることをシェアするための工夫ってショップでは何かしていますか? いままでのお話で出てきたようなアーティストの背景にある文脈をいかに伝えるかということが関心事項にある気がしました。

MK 今は、とにかく人力ですね。聞かれたら止まらなくなるくらい話します。でも、うちのお店に置いてあるようなものを好きな人たちってまず自分で楽しみたいという方が多いので、とりあえずはそっとしておきますけど(笑)。


ーお客さんとの会話のなかで伝えていくんですね。かなりアナログなかんじが(笑)。


MK そうですね(笑)。とはいえ、リアルの場で伝えるとなると、やっぱりギャラリーがあったほうがいいかもしれないと思っていて。作家の世界観をまるごと紹介するなら、展示イベントを開催するのがベストだと思うんです。なので、今後の目標として、良い場所が見つかればギャラリーを再開したいです。


—ショップは「commune」の最新の情報を手に入れることができる場所になっていますが、ギャラリーができるとさらに情報を発信する場が増えますね。


MK そうなんです。ショップを開いてから1年経って、さまざまな国のアーティストとのつながりができたので、彼らが作品を作るうえでの文脈や背景を知ることができました。これからは、そういった部分を実際の作品を通してショップやギャラリーから発信していけたらと思います。

さまざまな形でアーティストをバックアップすること。それが「commune」の活動の本質だ。そう考えると、他のお店に置いていないZineを取り揃えるラインナップは、単にもの珍しいものを集めているのではなく、有名無名問わずアーティストをバックアップするという意思が貫かれた結果だと分かってくる。

お店を訪れた際は、店内のすべてのアイテムがオススメだと言っても過言ではないラインナップを、ひとつひとつ吟味する贅沢を味わってみてはいかがだろうか。


Photographer:Daisuke Tomizawa / 富澤 大輔