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富士の高嶺から見渡せば

米中が向き合う中国の軍事力②

2017.02.07 09:03

<核ミサイルを配備する地下の万里の長城>

通常戦力だけでなく、中国が保有する核戦力も大きな脅威になっている。米ロの核兵器の数は1991年に調印された第1次戦略兵器削減条約(START)によって、2001年までには「既存の戦略核兵器のおよそ80%が撤去された」(No.737)という。また2011年に締結した新START条約では、2018年までに大陸間弾道ミサイルの配備数は700基、その大陸間弾道ミサイルに搭載される核弾頭の数はそれぞれ1550 発まで削減されることになっている。さらに米ロは中距離核戦力全廃条約によって、中距離および戦域ミサイルを全廃している。

一方で、中国はこれまでどんな形の軍縮にも頑として応じず、ミサイルや核弾頭能力の開発を何の制約も受けずにおこなってきた。その結果、ジョージタウン大学のフィリップ・カーバー教授によると「現在、中国は、核弾頭搭載可能なミサイルを世界でもっとも幅広く保有し、射程の非常に短いものから大陸間ミサイルまで、すべての範囲のミサイルを保有している得意な存在」(No.750)だという。さらに中国が保有する核弾頭の数については、これまでペンタゴンは一貫して、二四〇から四〇〇の間に過ぎないと見積もってきた。だが、カーバー教授が2013年に発表したレポートでは、「中国は3000発もの核弾頭を備蓄している可能性を指摘している。 これがもし真実なら、中国が保有する核弾頭の総数は米ロ両国が新STARTによって保有を許されている核弾頭の総数の合計にほぼ等しいことになる」(No.772)。

そして、さらに脅威なのは、これらの核弾頭は、「地下長城」と呼ばれる全長5000キロにも及ぶ地下トンネルを通じて移動、配備されていることである。この地下トンネルの建設は、中国の核兵器開発開始と同時に始まり、1960年代末の中ソ対立によって全国各都市に広がった。迷路のように張りめぐらされたこの地下トンネルは、大型トラックが入れるだけの高さと幅を持ち、移動式ミサイルや発射装置を最高時速約100キロで輸送する能力を 有するといわれる。カーバー教授によると「およそ15分でトラックや列車が現場に到着し、発射準備を完了する。アメリカの人工衛星がミサイル発射準備を探知するまでにミサイルはすでに発射されてしまっている」(No.756)という。

<深海に潜む核兵器>

中国が開発し2014年に配備に成功した「094型晋級原子力潜水艦」はフットボール競技場よりも長い全長137メートル、最大射程1万2000キロ「巨浪2号」ミサイルを最大16発発射することができる。「巨浪2号」ミサイルには最大四つの核弾頭を搭載できるとされ、運用可能な晋級原子力潜水艦は5隻と見込まれることから、中国はアメリカ本土に合計320発もの核弾頭を撃ち込む能力を持っていることになる。

これだけに止まらず、「中国は音の静かな096型「唐級」原子力潜水艦をすでに開発中である」とされる。一方で、「中国は世界最大にして最強の通常型ディーゼル電気方式潜水艦隊をも着々と建造しつつある。 アメリカ とその同盟諸国にとって、このディーゼル電気方式潜水艦は発展途上の原子力潜水艦よりもさらに危険な存在かもしれない」(No.995)。

最新式の「元級」攻撃型潜水艦は、日本の「そうりゅう型潜水艦」でも採用されている「非大気依存推進システム」を採用し、ドイツ製のディーゼル電気方式エンジンを搭載した静穏性、ステルス性の高い潜水艦だという。

「非大気依存推進システムを搭載したディーゼル電気方式潜水艦ほど、東シナ海と南シナ海 に適した海軍兵器は他にない。実際、ディーゼル電気方式潜水艦は「接近阻止・領域拒否」戦略を実行するための究極の「受動攻撃型」兵器である。このような、事実上探知不可能な潜水艦は、敵艦船が長距離魚雷または巡航ミサイルの射程内に入ってくるまで待ち伏せしているだけでいい。標的にされた船舶は、日本の駆逐艦であれ、アメリカの空母であれ、 ベトナムの潜水艦であれ、任務中止(ミッション・キル)に追い込まれるだろう」(No.1018)。

ドイツ製の最高級ディーゼルエンジンは、いまでは中国の潜水艦やフリゲート艦などでも当たり前のように使われていて、欧州の最新テクノロジーがなければ、今や中国海軍は動くこともできないといわれる。

「ヨーロッパ企業は鉄面皮にも「民間利用」という抜け穴を利用して中国に最先端の装備を 売り渡し、フィリピンやベトナムの沿岸警備隊を脅したり、アメリカや日本の艦船を沈没 させたりするための準備を中国の潜水艦に整えてやっているのである」(NO.1043)。

2004年11月、石垣島沖を潜没航行していた中国の原子力潜水艦(「漢級」)が日本の領海に入り込み、海上警備行動が発令される事態にまでなった。この間、中国の潜水艦の動きは海上自衛隊によって完全に把握されて追尾され続けた。中国の潜水艦乗組員は海上自衛隊のアクティブ・ソナーが発する大音響によってほとんど発狂寸前だったといわれる。そのエンジン音、プロペラ音ゆえに容易に発見・探知できた中国の潜水艦は、すでに「今は昔」なのだろうか。こうした潜水艦が東シナ海や南シナ海の海底に潜行した場合、日米の艦船は相当なリスクとコストを覚悟して領域に近づかなければならない。(続く)