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源法律研修所

条例の公布に係る掲示期間

2021.08.04 22:44

https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/kurashi/shiminsanka/kokuji.html


 職員研修講師として役所を初めて訪れた際には、その役所の掲示場をチェックすることにしている。

 というのは、下記の判決があるからだ。


 「選挙に関する告示文を数葉の用紙の表裏に記載し、これを重ねあわせてその右肩に紙縒を通して掲示台の釘に吊し、掲示台の前面には金網を張り裏面入口の扉には施錠をし、表に向いた告示文書の一用紙の半面しか展示されていないような掲示方法をとつた場合には、その告示は単なる形式に止まり、告示の目的を達したものと認めることはできない」(福岡高判昭29.1.27)


 この判決に従えば、掲示場のガラス扉を施錠していても、告示文書の裏面も掲示していれば問題ないが、表面しか見られない状態の場合には、法的に告示したことにならないわけだ。

 もちろん、表面しか見られない状態であっても、掲示場のガラス扉を施錠していなければ、手に取って裏面を見られるので、法的に告示したことになる。


 それ故、掲示場をチェックすれば、その役所の法務能力・法務知識のレベルがある程度分かるという寸法だ。


 しかも、掲示されて何か月も放置され、日焼けで茶色く変色し、湿気で丸まった告示文書があると、だらしない役所だと覚悟を決めることにしている。


 また、職員さん、特に女性職員さんの服装が普段着の場合には、公私の区別をせず、公私混同を容認する職場風土なのだなと思って、用心するようにしている。

 さて、「条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して十日を経過した日から、これを施行する。」とされている(地方自治法第16条第3項)。

 条例の「公布」というのは、成立した条例を公表して一般人が知ることができる状態におくことをいう。


 そして、「当該普通地方公共団体の長の署名、施行期日の特例その他条例の公布に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならない。」とされているので(地方自治法第16条第4項)、普通地方公共団体は、公布に関し必要な事項を定めた条例(いわゆる公告式条例)を制定している。

 条例の公布の方法については、公報に登載する方法を採っている普通地方公共団体もあるが、市町村レベルでは、役所前の掲示場に掲示する方法が一般的だ。


 役所前の掲示場に掲示するのは、江戸時代の高札場の名残りであることについては、以前、このブログで述べた。

 役所前の掲示場に掲示する方法を前提にお話しすると、当該掲示場に条例を掲示さえすれば、直ちに条例を公布したことになるので、それをいつまで掲示すべきかという掲示期間の問題は、法的にはどうでもよい問題だと言える。

 それ故、条例の公布に係る掲示期間について、公告式条例等に定めを置いていない自治体が非常に多い。

 

 では、条例の公布に係る掲示期間を定めた公告式条例等が皆無かと言えば、そうではない。

 例えば、札幌市の場合には、「公布の日から起算して5日目まで」とされている(札幌市事務取扱規程第27条第1項第1号)。

 守口市の場合には、「特別の定めのない限り7日」とされている(守口市公告式条例第2条第3項)。

 登別市の場合には、原則として「10日間」とされている(公告式条例による掲示場の掲示期間に関する規程第2条第1項第2号)。

 中野区の場合には、「当該掲示を始めた日から2週間」とされている(区役所庁舎前の掲示場に掲示して行う条例等の公布等に係る掲示期間)。

 荒川区の場合には、「掲示日から20日間」とされている(掲示場に掲示して行う公布等の掲示期間並びに告示の方法等に関する規程第1条)。


 このように条例の公布に係る掲示期間は、区々であるが、それは掲示期間に法的意味がないからであって、各自治体が掲示場の掲示スペースとの関係で事務処理の便宜を考慮に入れて定めているにすぎない。


 この点、ネット民の中には、民法第98条第3項を根拠に条例の公布に係る掲示期間を2週間だと考える人がいるようだが、民法第98条第3項は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときに行う公示による意思表示に関する規定であって、条例の公布とは全く無関係なので、同条項を根拠に2週間と解することはできない。


 条例の公布に係る掲示期間を定めた公告式条例等がある場合には、ご担当の職員さんはこれに従わなければならないから、所定の掲示期間を経過して放置すると、懲戒処分を受けるので、ご注意いただきたい。


cf.1地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)

第十六条 普通地方公共団体の議会の議長は、条例の制定又は改廃の議決があつたときは、その日から三日以内にこれを当該普通地方公共団体の長に送付しなければならない。

② 普通地方公共団体の長は、前項の規定により条例の送付を受けた場合は、その日から二十日以内にこれを公布しなければならない。ただし、再議その他の措置を講じた場合は、この限りでない。

③ 条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して十日を経過した日から、これを施行する

④ 当該普通地方公共団体の長の署名、施行期日の特例その他条例の公布に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならない

⑤ 前二項の規定は、普通地方公共団体の規則並びにその機関の定める規則及びその他の規程で公表を要するものにこれを準用する。但し、法令又は条例に特別の定があるときは、この限りでない。


cf.2札幌市事務取扱規程 (昭和23年10月20日訓令第44号)

(公告等)

第27条 令達番号簿に登載した条例、 規則及び告示は、 札幌市公告式条例(昭和25年条例第34号)により公告しなければならない。この場合において、公告に用いる公文書は、公布伺(告示にあっては、告示案)と同一内容のものに市長印(告示にあっては、市長印又は区長印)を押印した公文書によるものとし、その掲示期間は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるところによる

 (1) 条例及び規則 公布の日から起算して5日目まで

 (2) 告示 公布の日から起算して5日目まで。ただし、法令に別段の定めがある場合は、その期間とする。

2 令達番号簿に登載した訓令は、訓令先に公文書で通知しなければならない。ただし、軽易なものについては、口頭で伝達することができる。

3 前2項の規定により公告し、又は通知し、若しくは伝達した条例、 規則及び訓令の制定原議並びに条例及び 規則の公布伺は、当該公告又は通知若しくは伝達後直ちに法制課に引き継がなければならない。


cf.3守口市公告式条例 (昭和25年8月23日条例第1号)

第2条 条例を公布しようとするときは、公布の旨の前文及び年月日を記入してその末尾に市長が署名しなければならない。

2 条例の公布は、本市役所前掲示場に掲示して行なう。

3 前項掲示場の掲示期間は、特別の定めのない限り7日とする


cf.4登別市の「公告式条例による掲示場の掲示期間に関する規程 (昭和45年6月17日 規程第4号)」

(告示の掲示期間)

第2条 告示の掲示期間は、次の通りとする。

 (1) 法令又は条例等で告示期間の定めのあるもの 所定の期間

 (2) 条例、規則及び規程 10日間

 (3) 予算の要領告示等重要と認めるもの 7日間

 (4) 前各号以外のもの 5日間

2 前項第1号の場合において特に実施期日が長期の場合は、掲示期間を短縮することができる。


cf.5中野区の「 区役所庁舎前の掲示場に掲示して行う条例等の公布等に係る掲示期間 (令和3年4月1日 告示第36号)」

中野区公告式条例(昭和22年中野区条例第5号)に基づき区役所庁舎前の掲示場に掲示して行う条例、規則又は規程の公布又は公表に係る掲示期間は、当該掲示を始めた日から2週間とする


cf.6荒川区の「掲示場に掲示して行う公布等の掲示期間並びに告示の方法等に関する規程 (昭和25年9月18日 告示第69号)」

第1条 荒川区公告式条例(昭和25年条例第12号)により、公布又は公表のため、条例、規則若しくは規程を掲示場に掲示しておく期間は、掲示日から20日間とする


cf.7民法(明治二十九年法律第八十九号)

(意思表示の効力発生時期等)

第九十七条 意思表示はその通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる

2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

(公示による意思表示)

第九十八条 意思表示は表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる

2 前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。

3 公示による意思表示は最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。

4 公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。

5 裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。