【鳩おばさんのノンノンフィクション物語〜昼の番人〜前編〜】
【鳩おばさんのノンノンフィクション物語】
「昼の番人〜前編〜」
若い頃は、仕事が終わった後に、地図も見ないであてもなくブラブラと街を歩くのが好きでした。
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ふと、目に入った純喫茶。
まるで伯爵が、住んでいるかのような豪華な造りの建物。店内の螺旋階段が美しい‥。
その先にどんな空間が待っているのか‥。
不安と期待を抱えながら、扉を開けました。
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奥行きのある素敵な内装の店内に目を奪われる。
その晩は、他にお客様が誰もおらず、2階席も暗くなっており、ただただ、広い空間を珈琲一杯がひとりじめしたのでした。
なんて贅沢な瞬間だったんだろう‥。
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その記憶がふっと脳裏に浮かんだのは、
久しぶりにお店の外観を見つけた時でした。
今度は躊躇わず扉を開けて中に入りました。
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広々とした店内は、あの頃と変わらぬままでした。その日、お客様は、年配の男性がひとり。テーブルの上の灰皿には、吸い殻が山になっておりました。
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懐かしさに目を細めながら店の奥の席に座り、一通りメニューを眺めた後、学生のアルバイトと思わしき風貌の男性に珈琲を注文しました。
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すると、どこからか
「新しいの淹れてあげて」
という声が‥。
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私の他、この空間の中には、学生の他には年配の男性しかいない‥。
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ひょっとして、あの方は、お店の方?不思議に思いながらも、店内の装飾を眺めるために、私は席を立ち、店内をうろつき始めました。
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電話ボックスのあったであろう空間には、雑貨やら色んな物が置かれ、こういった雰囲気が良いなぁと眺めていると、年配の男性が私に
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「この店に、嵐の櫻井君来たよ」
と、話しかけてきました。
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‥え‥。一瞬戸惑う私。
しかし、すぐに気をとりなおし、多分。ドラマか映画の撮影で来たことだろうと思いましたので、
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「あの、私、嵐さんの撮影の事は知りませんでした。純喫茶が好きで、前にもこちらにお伺いしたことがあり、でも、その時は2階を見ていなかったので、どうなっているのかなぁと思って‥」
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あまりの怪しい声かけに、あわあわしながら、下手な日本語で返事をすると、
年配の男性は、
「いいよ。2階どうぞ」
と、言いながら手慣れた手つきで、パチパチと電気のスイッチを押し、螺旋階段を登って行きました。
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大型純喫茶は、会議やパーティーも出来るような広いスペースがあるお店も多く、このお店も2階がそのスペースのようでした。
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私は、少し確信が持てたので、頭の隅で気になっていた質問を男性にしてみることにしました。
「あの、こちらのオーナー様ですか?」
すると、男性は、
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「昼の担当の者です」
と、だけ答え、下に降りて行きました。
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‥ 昼の‥担当‥の者‥。
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怪しさと不思議さと、少しの不安を感じながらも、しばらく2階を拝見させていただき、1階に戻りました。
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「ありがとうございました。」
と、私がお礼を言うと、男性は、語尾に被せるように
「甘いもの用意しといたから」
と、言いました。
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‥甘い‥もの‥?
何だろう‥?
甘いもの‥?
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私が席に戻ると、珈琲と一緒にチョコレートが2つ置いてありました。
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甘いもの‥あった。
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すかさず男性が
「珈琲にはチョコレートが合うから」
と言いました。
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私は、恐縮と同時に、少し‥ほんの少しだけ恐怖を抱いていたので、チョコレートをすごい勢いで食べ、珈琲を飲み、早々に退散しようと思っているところに、男性が近づいてきました。
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「私の正体を知りたいですか?」
‥え?‥
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昼の番人後編に続く