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#002 日課について―センチネル

2021.08.07 02:51

by Motandhel

 このノートのページをちゃんとめくることが出来て嬉しく思う。でも僕がペンを取ろうと思ったのは、昨日あったことを書き記そうと思ったわけではなく、昨日書いたことを訂正したかったからだ。

 まず僕は自分のことを「気移りしやすい」と書いた。これは事実だ。でも多分、人間関係に関することには当てはまらないだろう。彼と会っているときに別の人のことを考えることはないし、そんな人が現れるとも思えない。「多分」というのは、こんな風に一人の人と親しくなることが初めてだからだ。この後どうなるのかは全く想像がつかない。今だってまだこの関係を毎日不思議に思うくらいだ。

 それからもう一つ。「彼に会えば自由に歩き回ったり……」とまるで偶然会っているような書き方をした。これは間違いだ。僕たちは毎日会っている。時間は決めていない。お互いの用事が落ち着いた頃合いに、相手がいる場所まで足を運んで迎えに行ってみたり、アズルが使っているマラバル・トールの工房で荷物整理をして待ったりしてなんとなく落ち合う。最近はクラフトの仕事を残して工房で彼を待ち、彼がやってくると一緒にモーンホールドまで納品をしに行くことが多い。そして納品を終えると、彼が「今日はどうする?」と尋ねてくれる。行き先を決めるのはそれからだ。

 昨日はセンチネルに行った。ミルの新居の家具の買い付けに丸一日付き合わされたのだが、考えあぐねる部分がいくつかあり、アズルの意見を聞こうと思った。ミルのいない時間を見計らって家を少し見せ、それから街を歩いた。アズルは僕が滅多に足を運ばないような場所に連れて行ってくれる。無法者の隠れ家はその一つだ。センチネルの隠れ家は便利で明るく、そして何より美しい。盗品商が並べている品々はいつだって魅力的なものばかりだ。この世には誰でも魅せられてしまうような品々がある。人々はそうした品を、多くのゴールドを払って手に入れ、或いは危険を冒して盗み、また或いは良心を捨てて強奪する。犯罪のそばにはいつでも魅力的な品が眠っている。

 アズルとの散歩が終わると、僕たちは僕が研究の拠点にしているバンコライのツイン・アーチに帰る。「帰る」という言葉が彼にとって正しいのか、僕にはわからない。でも彼がそう表現するのだから、それでいいのだろう。アズルはもう僕の家でしか眠っていない。そして毎日のように「明日はあれをしよう」と翌日の話をする。僕にはそれが不思議でならない。もちろん彼を疑っているわけではない。彼は常に正直な人だ。本当にそうしたいと思って話しているのがわかる。だから僕は彼が明日のことを語ると、不思議だと思う一方で、嬉しくてたまらなくなるのだ。それは僕にとっては愉快な矛盾だ。