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#004 住処について―ストロス・エムカイ

2021.08.08 23:49

by Motandhel

 まだ少し興奮しながらペンを手にしている。フンディング港は素晴らしい街だった! 美しい船が停泊する青い海。砂漠地帯独特の繊細な窓細工が美しい建物と、その土壁に這うたくましい蔦。そして街の至るところで生活に利用されるドワーフの機械! アズルの言うとおり、街には僕が好きなものがすべて揃っている。今まで訪れたことがなかったのが不思議なくらいだ。なぜダンデは僕にこの街のことを話してくれなかったのだろう?

 スピアヘッド号の甲板から景色を見ていると、街の東側のはずれに美しいドーム型の屋根がいくつも見えた。今思うと笑い話だが、僕はアズルにあれは別の街かと尋ねた。彼は当然笑った。小さな街とも取れるその建物群は、あのフンディング宮殿だった。

 「あの」というのは、アズルが何度か僕にその話をしてくれていたからだ。住居として売りに出されている建物の中でも特に豪華で広く、もはや家と呼べるようなものではない。そんな評価は聞いていたが、まさかあれほどに大きいとは。

 一歩足を踏み入れて気に入った街なだけに、手頃な住居がないのは残念だ。もう少し分相応な家があれば、僕は間違いなくあそこを拠点にしていただろう。ドワーフの機械の蒸気音が響く砂漠の街で目覚め、気持ちのいい風を浴びながら海を眺める。そんな朝を迎えてみたい。

 到着したのが夕暮れ時だったので、少し街を歩くとフンディング港の南にある灯台の光が輝き始めるのを見ることができた。セインツ・ポートという街にある灯台だとアズルが教えてくれた。時折遠くの灯台の光が過る夜の街は美しく、ドゥーマーの文明が溶け込んだ人々の生活も、不思議と素朴で親しみやすさに溢れていた。つくづく、住みやすい家がないのが惜しまれる。

 日付けが変わる頃バンコライの家に帰り、いつものように抱き合っていたら朝になってしまった。晴れた日にツイン・アーチの屋上から見る朝日は美しく、この家ももちろん決して悪くはないと再認識した。もしここから引っ越すとしても、今使っている大きなベッドと二人用の浴槽は必ず運ばなければいけない。アルトマー様式の(必要以上に)繊細な浴槽は、果たしてあの小さな島までの船旅のあいだに壊れずに済むだろうか?