BIGDOGSSの挑戦。「Blue Corner」から発信するクリエイティヴな活動
ラップやダンスのスクールが次々とでき、お笑い芸人たちがラップバトルをしたりダンスを活かしたショーを繰り広げたり。ラップとダンスがメインストリームになったと感じると同時に、本来あったはずのHIPHOPの芸術性やカルチャーが失われていくようにも感じてしまう。一般的にも認知されたことがうれしくもあるが、僕らが憧れたカッコいいHIPHOPの形が変わっていくようで寂しくも感じる。
ファッションアイコンとして東京ストリートを牽引し続けるBIGDOGSSは、僕らが青春時代に心を動かされたHIPHOP本来のスタイルを継承したダンスチームだ。自由でインディペンデントなマインドのもと、さまざまな形でクリエイティヴな活動繰り広げる数少ないチームなのではないだろうか。
クリエイティヴな活動を
集約したカルチャーの発信地
2015年の冬、目黒区の洗足にオープンしたセレクトショップ「Blue Corner」は、そんな彼らがダンサーとして活躍する傍らでスタートしたクリエイティヴな活動を集約したカルチャーの発信地。リーダーのChangyamaさんがディレクションするブランド「Feel Good」、AndreさんによるMIX CD、Keeperさんが撮り下ろしたフォトTシャツの販売や写真の展示、Leegetさんが、兄のKANE$さんと共に手掛けるブランド「Ari」を中心に、彼らがセレクトしたアイテムや作品たちが並ぶ。
Leeget 2013年にBIGDOGSSで、「DING DONG DITCH(ディン・ドン・ディッチ)」っていうポップアップショップを開催したことがあって。それ以来、年に1回というペースでやっていたんです。でもいつかポップアップじゃなくて、実際に店舗とか自分たちの場所を持ちたいという気持ちがあって。それを形にしたのが、この「Blue Corner」なんです。
ショップに入ってやっぱり気になるのは彼が手掛けるブランドだ。
Changyama もともと「LEAPS」っていうブランドをやっていたんですけど、一緒に手掛けていた人が忙しくなってしまい続けるのが難しくなったタイミングがあって、新たに「Feel Good」をスタートさせたんです。まだ1年目なんですけど、本当にやりたいもの、着たいものを作ってますね。ブランド名が指す通り、着ていてる人にポジティヴな気持ちになってもらえるように、原色を中心に使ったポップなイメージで作ってますね。
Leeget 「Ari」は自分の兄と手掛けているブランドなんです。もともとリメイクブランドとしてスタートしたんです。不定期で作っていたんですけど、去年からはシーズンテーマを決めて、展示会ベースで春夏・秋冬で作っていくことにしました。3月には秋冬の展示会も予定しています。
昨年にはブランド初のオリジナルカモ柄も展開したそうだ。Keeperさんが着用しているパンツはそのオリジナルカモによるアイテム。
Leeget 去年の6月にNYとSFに行ったんです。そのとき兄はパリに行っていて。NY、SF、パリっていう僕らの旅から得た経験をカモ柄に落とし込んだんです。特にSFにあるミュアウッド国定公園っていう有名な公園があるんですけど、ここは「猿の惑星」や「スターウォーズ」などの映画の舞台にもなっている公園なんです。そこの公園にある木をリアルツリーカモ柄として表現したんです。そのなかにスピーカーなどを落とし込んで「森の中にあるサウンドシステム」というテーマで作ったんです。
自分の見たものや経験した物事をカモ柄として表現するという、何ともダンサーである彼ららしいデザインはカッコいい。「Feel Good」にしても、「Ari」にしても、そこに込められたHIPHOPのマインドに、彼らのルーツを感じられる。
彼らのブランドや作品の他に様々な雑貨やアイテムなども並ぶ。例えば、ユニークな形が特徴のサボテンやリメイクウエアなど、初めて見るような物が多い。そのどれもがカルチャー好きな僕らの心をくすぐるものばかりだ。
Leeget ダンスの活動でよく地方のさまざまな街に行かせてもらうんですけど、そのときに出会った人たちなどの物が多いかもしれないですね。このサボテンは、HOUSEのダンスチーム・SODEEPのオリジナルメンバーのYOQOくんが静岡でやっているセレクトショップ「doodle & haptic(ドゥードゥル&ハプティック)」で展開しているサボテンなんです。あとは宇都宮のシマくんが展開しているリメイクブランド「APACHE」とか、自分たちの友人がやっているブランドや、自分たちが気に入ってるものをセレクトしてます。
彼らは過去にシルクスクリーンワークショップというイベントを開催していた。シルクスクリーンを使い、その場でTシャツやパーカにプリントしてくれるという簡単にDIYな服作りを体感できる彼らしい企画だ。「Blue Corner」には、そのときに使用したシルクスクリーンの道具が置いてあり、いつでも服作りが楽しめる。自分でデザインした版があればオリジナルのウエアも作れるし、彼がデザインした版も置いてある。
Changyama 過去にSWAGGERの店舗でやったときや、「DING DONG DITCH」でやったシルクスクリーンワークショップの評判が良くて、やってほしいって言ってくれる人が多いんですよ。だから常に店ではできるようにしています。今までと違ってイベントとしてやっているわけじゃないですけど、このままやり続けていこうと思っていますね。
「Blue Corner」では、もうひとつDIYな表現がある。オリジナルのニュースペーパー「Blue Corner Magazine」という、身近な出来事やカルチャーを伝える情報紙を作っているのだ。SNSやブログではなく、紙で作るというアナログな表現だ。
Leeget もっと自分たちの世代や周りの人たちの活動を知ってもらいたいという思いで、月に1回のペースで作り始めたんです。例えばChangyamaくんがコラムを書いたり、その月にお店であった出来事や自分たちのブランドの新作なんかの情報を、簡易的ではありますが新聞みたいな感じで展開しているんです。
Changyama 俺がvol.1を担当したんですけど、普段から本を読むのが好きだから、そのときはオススメの本とか紹介しましたね。vol.2は、俺の幼馴染のカズマくん。「SMOKE」という映画について書いてもらったんです。で、その次が自分たちBIGDOGSSのクラシックロゴのデザインの解説。ロゴに使っている青は、実はTHE BLUE HEARTSからきているとかそういう感じです。
ちなみに「Blue Corner」という店名の由来も映画「SMOKE」からインスピレーションを受けているそうだ。
Changyama 「SMOKE」は、NYブルックリンの街角にあるタバコ屋が舞台だから、作中に何度も“コーナー”っていう単語が出てきて、それがずっと頭に残っていたんです。そしたら、ある日のビートたけしの番組で、“世界のエッチな色”っていう話が出てきて。例えば、日本ではピンク、中国ではイエロー、アメリカではブルーなど。そのブルーとコーナーが結びついて、「Blue Corner」。それに「青コーナー」ってボクシングとかでいうと挑戦者を表しているんです。このショップは、“ダンサーでも、クリエイターとして活躍できるように挑戦したい”っていう気持ちからスタートしたこともあって、ピッタリな言葉だなって。
洗足から原宿へ移転
春から始まる新たな挑戦
インディペンデントなマインドのもと自由に表現を続けている彼らを象徴している言葉だ。そしてこの春、「Blue Corner」は原宿に場所を移すことが決まり、また新たな挑戦が始まるようだ。
Leeget いろいろ考えた結果なんですが、やっぱり東京のストリートで育った僕らとしては、原宿でやってみたいって憧れが昔からあって。フリマをやってみたり、写真展をやったり、今までやって来たことも移転しても続けますし、「Blue Corner」っていう名前のままです。この雰囲気や空気感は残したまま進化させていきたいですね。
Changyama ダンスはもちろんだけど、「Blue Corner」をきっかけに、それ以外のクリエイティヴな部分を今まで以上に認知してもらえたから、それをもっと頑張っていきたい。俺は「Feel Good」をもっと広めていきたいし、AndreはDJとイベント、keeperはフォトグラファー、Leegetは新たにアニメーションとかも始めた。音楽、服、写真、映像っていう、それぞれの力をひとつに集約した大きなクリエイティヴを、BIGDOGSSとしてやっていきたいですね。もちろんダンスがベースで。それにそれぞれが始めたクリエイティヴな活動は、ダンスにもいい影響になっているんです。今までになかった視点でダンスを捉えることができるというか。だから、場所が変わっても、ダンスをベースにいろんなことに挑戦していきたいですね。
さまざまな活動で、自分たちのスタイルやマインドを表現し続ける彼らの発信地「Blue Corner」。場所は変われど、彼らは変わらない。ダンスをするとき、服を作るとき、DJをするとき、写真を撮るとき、絵を描くとき。どんなときでも。
そしてダンサーとしても、もうひとつ新たなチャレンジがある。
Andre 4月30日に渋谷HIPHOPの聖地、HARLEMで小中学生のための「DIZZY HOUSE」っていうダンスバトルイベントを主催します。ダンスってHIPHOPのカルチャーで、クラブで踊ることの楽しさだったり、カッコよさを、クラブに来れない子たちに体験してもらいリアルな現場を知ってもらいたくて。だから実際にHARLEMでDJをやっているKANGOさんにお願いしているんです。
Changyama 次で第2回になるんですけど、1回目もたくさんの子たちが集まってバトルしてくれました。ダンスのスキルはまだまだで、できることも少ないんだけど、気持ちがすごく伝わってくるんです。気持ちと気持ちだけのバトルで、ハートとハートのぶつかり合い。それがグッとくるんです。ダンスの本当に大切な部分を、逆に教えられましたね。
Keeper 僕は審査員をしてたんですけど、すごく難しかったですね。キッズの強い気持ちがひしひしと伝わってくるので、勝敗をつけるのが辛くて。レベルが高いわけじゃないんだけど、ピュアにダンスをしていて、見てるこっちがワクワクする。ダンスってこういうものだよなって。ダンスって、スキルがなくても人の心を動かせるカルチャーなんだなって。
Photographer:岩田 貴樹 / Takaki Iwata