Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

コマの書き散らし

山(短編)

2021.08.15 01:37

靴を見つける。4人目の物だろうか。


私は木にぶら下げられた靴を無造作に袋にしまうと、新人の三上の元へ向かった。

短期間に不審な行方不明事件が多発したとの報告を受け、私たちはこの山へ調査に来た。


村がこの山を立ち入り禁止にするまでの1ヶ月間。その間に6人。

それぞれが登山装備をしていた。そもそも村民が林業を生業としている。

村民にとっては庭みたいなもののはずだ。


そして私たちが調査に入ってすぐ、靴があった。そして近くの木に服。


「矛盾脱衣ですかね」


現場に到着したどちらかが言った。

しかし、装備品を置いておく必要はない。そもそも遺体など、持ち主の姿も近くには見当たらなかった。

そもそも夏の山で、林業者が陥る状況ではない。


次に考えられたのは熊などの野生動物に襲われた線だ。

現に近くの民家では熊の目撃情報もある。出くわす可能性は十分にあるだろう。

しかしそれならば、衣服がもっとぼろぼろになっていてもおかしくない。

あたりに血痕もなかった。


そして何より、全ての衣服が木に吊り下げられていた点が不明であった。

人為的な行動であることは明らかであるため、何かしらの事件性が疑われたが、第三者の痕跡も見当たらなかった。


現場はまるで、人体のみが消えてしまったかのようだ。


「大神さん、これで6人分の遺留品が集まりましたね」


三上がテントに自らが見つけた衣服も運び入れる。


「何か不審な点はあったか?」


「いえ、こちらは特に。強いて言うなら全て木に吊り下げられていました」


私はため息を吐くと、持参した水を飲んだ。

私たちが早朝調査に入りすぐに遺留品は、村民が利用する山道に続くように見つかった。

おかげで昼までには、全ての遺留品を集め終えることができたのだ。


「少し早いが、昼にするか」


三上が頷くと、村に入る前に購入したコンビニのおにぎりを取り出した。


「おいおい、2人分にしては量が多過ぎないか?」


「あれ、そうですね。買いすぎたかな」


三上は首を傾げると、取り出したおにぎりを一つしまった。






私たちは昼食を取ると、遺留品を広げ、順に並べ替えた。


服、ズボン、靴と並べる。

揃う、が何か違和感を感じた。


「おかしいな。これは」


「そうですか?」


「そうだろう。服装がまちまちじゃないか。林業を生業としているなら、あるはずのヘルメットが3つしかない。こちらの服装も、上下のサイズが合っていないんじゃないか」


さらに手前にあるズボンを指で摘んで見せる。


「第一、このズボンも新しすぎる。1人、新品に変えたというならそこまでだが、そちらの2人の服もズボンも新しい。山に入る時期が違うのに、新品ばかりというのもおかしくないか?」


「たしかに。集めるときは手分けして、バラバラだったので気づかなかったですね」


と、三上の言葉を聞きながら気づく。

背筋を冷たい汗が流れた。


「すぐ山を出るぞ。荷物まとめろ」


「え、急にどうしたんですか」


「狂言だ」


私は無造作に荷物をまとめると、三上も慌てて帰り支度を始めた。


「狂言?狂言って行方不明がですか?」


「ああ、行方不明者が出たという話は村からの自己申告。誰が行方不明になったのか、具体的な話はない。」


「村全体でですか?」


「わからない。しかし、そもそもこの山に不慣れな私たちが、たった数時間でこれだけの遺留品をすぐ集められるわけがない。山道においたのは、私たちがすぐに見つけられるように。吊るしたのは見つけてから回収まで、少しでも時間がかかるようにだ」


「しかし、何故僕たちをここに?」


「知るか。それより急げ。何されるかわからないぞ」


片付けもそこそこに私たちは下山を始めた。

私たちの焦りとは裏腹に、山から村への道のりは、少し迷いはしたもののスムーズだった。

私たちは村の入り口の、交番近くに停めた車へと着くと車体を急いで確認した。

異常はないようだ。


車に入り、エンジンをかける。問題なくかかる。こちらも異常はない。

三上もすかさず後部座席に乗り込んだ。

私は車を急発進させると、街へ続く一本道を走り出した。





道中のお社の前を抜けると、空気が軽くなったような気がした。

お社にいる神主のような人物が、私たちに深々とお辞儀をするのがバックミラーに映った。


「なんだったんでしょう。あの村」


「さぁ。もう2度度行くことはないだろうな」


私はぶっきらぼうに答える。

あの村について調べれば、何かわかるかもしれない。

だが、リスクを冒してまでその情報を知る必要があるのか。


私は助手席にあった誰のかわからないタバコに火をつけ、口に咥えた。


「そのタバコ、吸っていいんですか?怒られますよ」


「誰に?」


「さあ…」


曖昧な返事をする三上に苦笑いしつつ、私たちは帰り道を急ぐのだった。