ゆきゆきて、神軍 戦時中のある部隊の戦争犯罪を追及した衝撃のドキュメンタリー映画
奥崎謙三は、戦後“神軍平等兵”を名乗り、かつての所属部隊・独立工兵隊第36連隊のうち、ウェワク残留隊において隊長による部下射殺事件があった事実を知り、当時の二人の兵士、吉沢徹之助の妹・崎本倫子、野村甚平の弟・寿也とともに“敵前逃亡"の罪で処刑した元上官たちを訪ね、真相を究明しようと試みる。
二人の日本兵は敗戦後3日目には敗戦を知っていたにも関わらず、その20日後に処刑されたという。だが、当時の上官は処刑に立ちあったことは証言したものの、ひとりは空砲だったと言い、別のものは2人をはずして引き金を引いたと証言。誰が彼らを撃ったのかは不明のままとなる。
しかし、すでに病人や高齢である当時の上官は容易には口を開きたがらない。しかし、奥崎は一歩も引かずさらに詰め寄り、ときにはその煮え切らない態度に業を煮やし殴りかかる。そのうち、殴られた上官妹尾幸男は話しはじめ、少しずつ真実が見えてくる。その中で、彼らは飢餓状況の中で人肉を食べたことまで証言。
やがて、二人の遺族は奥崎の、時として暴力も辞さない態度から、その後同行を辞退。奥崎はやむを得ず、妻と知人に遺族の役割を演じさせ、処刑の責任者たる古清水元中隊長を訪問し真相を質す。また同時に、独工兵第36部隊の生き残り、山田吉太郎元軍曹に当時の様子をありのままに証言するように迫る。1983年12月15日、奥崎は古清水宅を訪ね、たまたまその場で対応に出た息子に向け改造拳銃を発砲した。
その後神戸に戻り、シズミと握手を交わした。その二日後、神戸市福原町にあるお好み焼き店から兵庫警察署に「事件について話したい。」と電話を入れ、駆けつけた警察官に逮捕された。
その後神戸から広島の大竹中央署に護送される際、駆けつけた報道陣に対し、手錠をかけられたまま右手を振り上げ、「ご苦労さん!!」と言いながら車に乗った。殺人未遂などで徴役12年の実刑判決を受け、3年後の1986年9月18日に妻のシズミが没している。自称「神軍平等兵」奥崎謙三が、かつての上官に戦争犯罪の追及する衝撃のドキュメンタリー映画。
「国家とは人類を分断する世界を1つにしない大きな障害」「警察や役人や裁判官は法律や命令に従っているだけのロボット」を持論として、新年皇居参賀の時に昭和天皇にパチンコを発射し懲役刑となり、田中角栄襲撃を計画した罪で逮捕されたことがある奥崎謙三が、かつて太平洋戦争の時に所属していた36連隊ウエワク残留部隊での隊長による部下射殺事件を調査していく。
アポ無しで訪ね、話をごまかしてとぼけようとする者を殴りつけ、殺された者の遺族を連れて泣き落とし、客商売の最中に訪問してお客さんの前で真相を問い詰めたり、殺された部下や遺族の無念を晴らすためとはいえ、殴りつけたり、部下射殺に加わった上官の一人に「大病したことはあなたの戦争中にしたことの天罰だ」と言ったり、奥崎謙三の言動は人間的にどうかと思うけど、奥崎に追及された上官が「命令に従っただけだ」「生き残るため仕方ない」「命令したけど下士官が部下を射殺する現場にいなかった」とのうのうと言い訳するように、「戦争は人間から人間性を奪い命令で言いなりに動くロボットにする残酷な状況である」ことを暴き、二度と戦争を起こさないようにしようという決意を日本人がするきっかけになり、戦死者の鎮魂になることを思うと頭から、奥崎の言動を否定出来ない。
しかし、部下射殺事件で下士官に部下の射殺命令を出した上官を暴行したり殺害しようとしたりする奥崎謙三の言動には、テロリストに似たり寄ったりの「信念を持った者」の狂気と独り善がりな歪んだ正義感を感じるのがモヤモヤする。
監督の原一男の著書「ドキュメントゆきゆきて神軍」では、撮影する中で監督の原一男とカメラポジションまで仕切ろうとしたり、奥崎がアイディアを思いつくと原監督にモーニングコールしてきたり、奥崎が原監督に黙って事前に追及する上官と話し合いして撮影に臨んだり、「判断は私がしますから原さんは黙って付いてきてください」と撮影の主導権を握り自らを演出する奥崎謙三とドキュメンタリー監督としてモラルの一線を守ろうとする原一男監督のせめぎ合いの戦い、部下射殺事件の遺族が何故奥崎との同行をある時点から断ったか?、何故ニューギニアでのロケ映像がニューギニア当局に没収されたか?などの裏側を知ることが出来て、読んだ後で再度見たら新たな発見があり、「ゆきゆきて、神軍」のシナリオも掲載されていて映画鑑賞の助けになる1冊。
「靖国神社に行ったら、英霊が救われると思っているのか?貴様!」