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こどもの にほんご

漢字の災い

2022.01.12 23:00

継承日本語を学ぶ子ども達が、苦手意識を持ちやすく負担に感じていることは、何と言っても漢字学習だろうと思います。

「漢字めんどくさい〜」と言う子ども達の発言を聞きながら、もし漢字がなかったら日本語は成り立つのだろうか?昔の日本人は漢字をどう思っていたのか?と興味が湧いて、色々と当たってみました。

漢字文化圏は、中国大陸、台湾、ベトナム、朝鮮半島、日本列島を含みますが、中国は漢字の省略形の簡体字に、韓国は漢字を廃止しハングル文字を制定(漢文教育漢字として1800字を中等教育で学ぶとあります)、ベトナムも現在漢字は使わずアルファベット表記です。

日本では、敵性語として英語からの言葉が禁止され、例えば、野球の「ストライク」を「よし1本」と言い換えた話は有名ですが、漢字は中国から伝来した日本固有の文字ではないですが、敵性語とは見なされませんでした。

国語外国語化論の一つである志賀直哉の「フランス語国語論」も、日本が太平洋戦争に負けたことで、さすがの志賀直哉も気弱になって変な事を口走ったのかと思っていましたが、書いた原稿を当用漢字や現代仮名遣いに直されることに閉口していたとあって、漢字が一因だったのかと不思議な気持ちになりました。

こんなことを調べているうちに、「カナモジカイ」という団体にたどり着きました。

ウィキペディアに項目がありますので詳細は略しますが、1920年に設立され、2013年に財団法人としては解散し、現在は任意団体として活動している団体です。

漢字廃止論には、志賀直哉のように日本語を廃止し外国語を国語にと言うものから、日本語をローマ字使用に変更しようと言う派と、日本語を仮名文字だけに変更しよう派があり、カナモジカイはその名の通り、漢字を廃止し、カナだけにしようと言う活動を行なっている団体です。

この団体の主張は、漢字には不便がありそれを取り除くべき、漢字では日本語の言葉の本当の意味を伝えられないというものですが、昭和2年発行のカナモジカイの機関紙に、ナヤミノカンジと題して、漢字がいかに不便であるか、その弊害を説いているものがありました。

漢字のワザワイ(災い)一覧として、

字数が多い

読み方が多い

読み方が難しい

同音の文字が多い

字画が多い

字画がまぎらわしい

そして、漢字の不便さとして、

教育の重荷

日常生活実務に不便

印刷の不便

目の衛生に悪い

海外発展の邪魔

をあげています。

この中で、印刷の不便は、ワープロやパソコンが発明される前の時代の主張ですので仕方ないですが、現在では完全に解決していると考えて良いと思いますし、目の衛生に悪いも、パソコンやスマホの画面で瞬時に文字を拡大できる現代ではかなり解決された問題だと感じます。また、日常生活実務に不便も、ひらがな入力から漢字変換は当たり前ですし、音声入力も可能で、スマホやインターネットも普及していますから、手書きしかなかった当時とは事情がかなり違ってしまいました。

しかし、まだ解決がほぼできていないのは、教育の重荷海外発展の邪魔の二つです。

なぜ漢字が教育の重荷になるのかと言うのは、漢字の災いとして列挙されている理由からですから、継承日本語教育における漢字学習の悩みと完全に合致していて、なるほどと言うか、やっぱりと言うか、日本人はもしかしてずっと同じことで悩んでいるのかもしれません。

95年、すなわちほぼ100年もの昔から指摘されている問題ですが、解決策としていまだに漢字は廃止されていませんし、パソコンやタブレットの普及で新しい学習システムや便利なアプリなどが構築されつつある現在でも、漢字テストや漢字ドリルでこつこつ学習する方式も生きていることは、一体どう考えれば良いのでしょう?

日本に住む日本語母語者の教育において負担だと考えられた漢字が、日本以外の国で育つ継承語学習中の子供たちや、第2第3言語として学ぶ外国人にとって負担にならないはずはなく、当事者である子供たちや学習者、保護者、教える側が悩むのは、ある意味当然で自然なことなのだろうと思います。

ただ、これだけ漢字が負担であることが明白であっても、日本語が漢字を完全に捨てないのは、漢字を切り捨てることの弊害の方が大きいと考えられているからでしょう。

継承日本語は、必ずしも日本語母語話者と同じレベルの日本語を四技能共に等しく習得することが目的ではありませんし、各家庭での学習動機や目標も違うのが普通です。

日本語学習にどのくらいの熱意と時間、経済力を当てるかも各家庭によって違いますし、現地語や学校の勉強以外に、どのくらい日本語を学習、習得できるかは、子どもの性格や素質、能力にも強く影響されます。

そのような継承日本語の状況も考えると、漢字はまず一番最初につまづきやすい、嫌がられやすい、そして、切り捨てられやすい分野であるのは当然と思えます。

『漢字は災い』なのであれば、災いからさっさと逃げるのではなく、上手に付き合って、日本語そのものから遠ざかってしまう子どもが少しでも少なくなれば嬉しいなと言うのが正直な気持ちです。

難しい、どうせ使わない、困らない、時間がない、などなど、漢字を諦める理由は色々あると思いますが、漢字を諦めても日本語学習を続けるなら、学習内容が限定的になるか、保護者や教師の献身的なサポート無しには立ち行かなくなることは自明です。

このことを常に心に留め、子どもの様子を確認しながら、一番その子に合った良い漢字の学習方法を見つけることができるようにと思っています。