「クレーン(旧版福音館版)」ライナー・チムニク
ライナー・チムニクのことを、ドイツの絵本作家/児童文学作家といっても何だかあまりしっくり来ない気がします。
その作品を「子ども向け」などと言って一括りにしてしまうには、あまりに勿体ないと思うんです。
大人が読んでも楽しめる、そこらじゅうに溢れている一見「大人向け」の小説よりもずっと深く、愉快で、切なく、楽しい物語を語ってくれる特別な作家だからです。
このチムニクの「クレーン」と言うお話は、クレーンに魅せられたひとりの男の一生を見つめたお話なんですね。
ある町にクレーンが建ちます。
そのクレーンの建築工事をする若者たちの中に、狂おしいほどクレーンに魅せられた若者が一人いました。ひょんなことから、その男はクレーンを操るクレーン男に任命され、クレーンの上での生活を始めるのです。
そこで巻き起こる数々の事件、町の人々との交流、友達のレクトロをはじめとした個性豊かなキャラクターたち、そうしたものに魅せられながら楽しくページをめくり、物語は進んでいきます。
クレーン、下には川と船、そして町からのそよ風のふくたびに、
鉄骨のうたうやさしいうた、
夜は星、そのうえ、ありとあらゆるものを上からながめられるということ、
やがて町は時代の大きな流れに巻き込まれていきます。人々は去り、町は海の下へ沈み、ただ海の中にクレーンが、そしてクレーン男はポツンと残され…。
クレーンと共に生きる男の一生に、寂しさと可笑しさを一滴ずつ、そんな風に軽快な筆で物語は語られます。
特筆すべきはその時間の経過の描き方でしょうか。個人的には芥川賞作家の磯崎憲一郎さん、そしてバージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」を思い出しもします。
おそよ70年ほど、そんな大きな時間の流れが、伸び縮みしながらも大胆に、そして無常に描かれる様は圧倒的で、本当に驚かされます。
自身で手掛ける挿絵によっても、このお話の独特の雰囲気を創り出していますね。
海の中に取り残されたクレーン男、クレーンを錆びさせないための仕事をしながら日々生きていくための仕事、そしてそこで出来る生涯の友のワシ、遠くの山でじゃがいも畑を持つ男とのボトルメッセージの交流、ワシと二人で過ごす奇跡のクリスマス…。
そのどれにも、チムニクの跳ねるような愉快な線で描かれた挿絵が添えられて、読むものを笑わせたり、胸を熱くさせたりしてくれます。
そしてまた時は過ぎていくのです。
このクレーン男がどんな最期を迎えるのかは、是非このお話を読んで確かめてみて下さい。
ひとりの男のとっても変わった人生の冒険と、無常の悲哀を描いた大傑作です。
この度当店に入荷したこの本は日本で一番最初に紹介された福音館書店版の「クレーン(1970年2刷)」です。
この物語絵本はその後「クレーン男」とタイトルを変え、童話屋、パロル舎、そして文庫では福武と、装丁/判型を変え出なおしており(しかしどれも現在では絶版のようです)、そのどれもが個性を持った装丁で良いのですが、この福音館版を一番と推す人も多くいるようですね。単純に一番大きな判型ということもあるでしょうか。
当店入荷商品はイタミ、汚れなどが見られますが、この福音館版はなかなか手に入れるのは難しい一冊ですので、探していた方、まだ読んだことのない方も、是非如何でしょうか。
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「クレーン(旧版福音館版)」ライナー・チムニク