地域活性化活動としての"MaaS"の可能性
MaaSは、移動課題を解決する手段として有効なツールであり、さまざまな交通サービスと周辺のサービスニーズを結びつける役割をしています。全国各地で地域ごとの課題に対して、さまざまなMaaSの構築・提供が試みられています。
長野県千曲市においても、地域全体をワークスペースにするというコンセプトのもとワーケーション体験の提供をしていますが、ワーケーション参加者が自由にワークスペース(=地域の観光スポット、温泉など)を選んで訪れてもらうために、移動サービスの提供として温泉MaaSの構築に取り組んでいます。私たちは、この温泉MaaSの取り組みを通して、MaaSの取り組みは「移動課題を解決する手段」だけではなく、「地域活性化活動のテーマ」としても有力なのではないかということに気づき始めています。
「移動」は生活や仕事、観光など多くの日常シーンに関わります。そのため、地域において個人、組織、業種、子供、大人、高齢者などさまざまな観点で「移動」に関わる方は多くいます。そのため、「移動」に関わる課題を解決しようとすると、必然的に多くの方々が関わることになります。これは全国各地で試みられているMaaSの構築・導入において苦労されている話をよくお聞きすることの主な要因でもあると思います。一方で、関係者が多くなることは、それだけ地域における活動において多くの方を巻き込みやすいということでもあります。地域を活性化する場合に、ある一部での活動になってしまうことがありますが、「移動」を中心に考えると、さまざまな方が関係することから、ひとつの活動を地域のなかで広げて行くときに広げやすいということが言えるように思います。
温泉MaaSでは、最初は「タクシー配車予約」という一つの機能からスタートしました。このときは地元のタクシー会社さん1社が関係される方でした。つぎの機能拡張においては、タクシー会社さんが2社に増えました。また、温泉旅館で従来から提供されていたレンタサイクルを機能に取り込むことで、温泉旅館の方が関係されるようになりました。また、地元のカフェやレストラン、お土産屋さんの利用を促進するために、温泉MaaSチケットで商品と交換することができるようになり、そういった関係される方が増えました。
「MaaS」は、直接的な移動の課題を解決するだけでなく、地域の方々が「MaaS」の構築を行うことで、地域のさまざまな方や、いままであまり接点のなかった方とも関係を築くことで、そこから新たな発想に結びつき、MaaSの周辺サービスとして拡充していくことで、地域の活性化に繋がって行くのではないかと温泉MaaSの活動を通じて感じています。
このとき重要なのは、地域の方々が自ら作ることだと思います。すでにあるサービスをそのまま持ってくるのではなく、あるサービスを組み合わせたり、ちょうど良いものがなければゼロから作ることで、地域の関係者を少しずつ増やしながらサービスを拡大して行くようにスモールスタートしていくことが重要なのではないかと思います。地域の方々だけではサービスを作るのは難しいという場合は、長野県千曲市のようにワーケーションで来られたさまざまな技能を持った方を巻き込んでいくこともひとつの方法だと思います。
先日2021年7月30日に開催されたDevelopers Summit 2021 Summerの講演で取られた聴講者アンケート結果によると、38%(57人/148人)の方が「地域課題の解決」に興味があると回答しています。このイベントの特性上、都市部のエンジニアの方が多く参加されているなかで、これだけ多くの方が地域課題の解決に興味があるというのは意外でした。一方で、エンジニアという職種は場所に囚われず仕事ができる性質もあり、ワーケーションには向いている職種と言えます。こういった方々の実地における課題解決の経験によるスキル向上のためにも、ワーケーションを通してMaaSを主題とした地域課題の解決を行うことで、地域活性化につながる可能性が大きいのではないかと思うのです。