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Extra6:紅蓮夏とトマト

2021.08.23 06:00


ある日、リムサ・ロミンサに来ていたガウラはとある依頼に目を向けていた。

紅蓮祭のこの時期はコスタ・デル・ソルに人が集中している為溺れた海豚亭は空席ができており、そこの一席で地図と依頼用紙を広げている。

内容は『おさかなを2ひきください。』。

何の魚かは指定されていない。

何なら字も幼い。

実はこの依頼、そういう『不足部分があるため』にたらい回しにされていた依頼だったのだ。

依頼主はこのラノシア地方に住んでいるらしいのだが、ただ『ラノシア』と書かれているのみでどこなのかが分からないのである。

依頼主の場所が分かっていれば、そこに訪ねて何の魚なのか聞けるのだが…。


「…こりゃ困ったな……」


耳の付け根をカリカリと掻きながら眉を寄せた。


─────


場所は変わって中央ラノシアのサマーフォード庄。

2人の小さなミコッテがベンチに座り大人たちが農作業をしている様子を眺めていた。


「ねぇトト、おさかなは?」

「しらないよぉ。おいらはずっとネネといっしょにいたじゃないか」

「おさかな、もってきてくれるのかなぁ?」

「いらいはちゃんとしたから、きっとぼうけんしゃさんがもってきてくれるよ」


トトと呼ばれた方は白い髪に疎らに入った茶色いメッシュ、ネネは一見黒い髪だが白いインナーカラーが入っている。

どうやらガウラの依頼主らしいのだが、お互いがそんなことも知らずにまぁまぁ近い距離で項垂れていた。

2人は推定8歳程度だろうか。

読み書きを習い始めた歳頃にも見える。


「ネネ、トト、そこの近くにハサミがあっただろう!

持ってきてくれー!質の良いトマトができてるぞー!」

「「はーい!」」


農作業をしていたガタイのいいルガディンの男性に呼ばれ、2人はそれぞれ収穫用のハサミを持ちトマトの収穫を行うことにする。

ただ待っていても仕方がないから。


「……この辺にはリスキーモブは居ないか」

「あらお兄さん、もしかしてリスキーモブの依頼を受けているの?」

「あぁはい。見かけましたか?」

「いいえ、この近くには来ていないと思うわ」

「ありがとうございます」


どこからか覚えのある声が聞こえたような気がした。


─────


「地図を見てても仕方がないし、中央ラノシアから捜索するか」


そう言いながらリムサ・ロミンサから出てきたガウラ。

サマーフォード庄までは近いと判断したようで、今回は徒歩で向かうことにした。


「歩きだと景色もゆっくりで面白いよなー…ん?アイツって受注した手配書のリスキーモブか?」


前方に居たのはスゴック・フリュー。

中央ラノシアでBランクと言われているリスキーモブだ。

分布は中央ラノシア全体となっており、他のリスキーモブと比べると小〜中型である。

そのためかよく見落としがちで捜索が難しい。


ガウラは音を消し弓を構える。

鋭い眼はモブしか捉えていない。

弦のギシギシという張る音の中、視界の隅でも何かが動く気配がした。

同じように誰かがあのモブを狙っている。

遠隔の弓でその相手を傷つけては元も子もないが、目前の獲物を逃すわけにもいかず弓は構えられたまま彼女はその動く何かにも注意を向けた。


ガサリと草が揺れ出てきたのは見覚えのある男だった。


「は!?」

「!?」


ガウラの声に気づきながらも彼の大剣は獲物を仕留めていた。


──────


「まさか姉さんもいたとは」

「私だってビックリしたよ、というかリスキーモブなんて手を出してたんだね」

「興味ないとでも思ってたのか?」

「んーまぁ、ちょっと?」


男はヘリオ・リガン。

白髪に黄色いメッシュが特徴だ。

ガウラの双子の弟でもあるらしい。

彼らはたまたま同時期にリスキーモブの手配書を手にし、しかも対象が同じだったということだった。

結局先に報酬を手にしたのはヘリオだったので、ガウラはまた後で捜索をしなければならなくなったが。


「で、用事はそのリスキーモブだけか?」

「いや、リスキーモブは寄り道さ。

本題はこっち」


そう言って手渡したのは、先程睨めっこをしていた依頼内容だ。

流石のヘリオもしかめっ面をする。


「魚がどの魚かも分からない上に、依頼主も在住場所をラノシアとしか書いてないからどうしたものかと思ってね。

とりあえず中央ラノシアから捜索することにしたのさ」

「なるほどな。

ならサマーフォード庄に行くか。

俺はリムサに帰ってもいいんだが、特に用事もないし」

「それは助かるよ」


─────


世間話をしているとあっという間にサマーフォード庄に着いた。

ヘリオは先程聞き込みで世話になった女性の所へ礼を伝えに行ってる間、ガウラは依頼書を片手に聞き込みを開始する。

……と思いながらも後ろをトコトコ付いてきている2つの足音は何なんだろうか。

ガウラが止まると足音も止まる。

ガウラが歩くと足音も増える。

なんなんだこれは。


「んー、何か用事があるなら話しかけてくれると嬉しいんだがなぁ」


立ち止まりわざとらしく言ってみる。


「だってさ、ネネ」

「えー、トトがいうんでしょー?」


2人いるらしい。

遠くから見ていたヘリオは今日2度目のしかめっ面。


「「おさかな!」…え?トトがいうの!?」

「ネネがいうんだろう!?」

「あー、はいはい分かった分かった」


ガウラはここでやっと後ろを振り返った。

居たのは小さなミコッテたち。

ガオーと言いそうなポーズで互いに言い合っているのをとりあえず宥める。


「で、『おさかな』と言うことはもしかしてこれの依頼主かい?」


そう言って依頼書を出す。


「それ!」

「おいらたち、おさかなをみたいんだ!」

「『ください』ってことは食べれる魚かい?」

「たべたいけど、いきてるおさかなもみたいかなー」

「魚の種類は?」

「「なんでも!」」

「……確かにサマーフォード庄はコスタ・デル・ソル等を考えると海から少し離れているからなぁ…。

見に行くとなるとリムサ・ロミンサに行くか、最寄りのコスタ・デル・ソルに行くことになるがお父さんかお母さんには許可は貰えそうかい?」

「おとうさんとおかあさんはいないよ」

「……そっか。

お世話になってる人は?」

「おじちゃん!」

「じゃぁその人に頼んできておくれ。

私は冒険者のガウラだ。ここにも何度か来ていて顔も合わせている人が大半だから、私の名前を出せば伝わるだろう」

「「はーい!」」


そう元気よく返事をすると走っていった。

入れ違いで戻ってきたヘリオにも説明をすると彼も来ると言った。

地図を開け海の綺麗な場所を探していると、斜めがけカバンを持ったネネとトトが戻ってきた。


「お、準備できたのかい」

「うん!」

「めぇかっぽじってみてこい!ってさ!」

「お、おう…?」

「ところでおにいさんだれ?」

「ヘリオだ、ガウラの弟」

「きょうだい?」

「そうさ。

そういや君たちは兄妹なのかい?」

「んーん、ちがうよ」

「そ、そうかい」


──────


安全性を考えるとリムサ・ロミンサだったが、ちょうど紅蓮祭の開催時期で人の目が届きやすく海も特段綺麗なコスタ・デル・ソルに向かうことにした。

4人だということでホバー船を用意、運転席はガウラで隣はネネ、後部座席にヘリオとトトを乗せた。

もちろん2人は見たことのない乗り物となるので興奮したままだ。

彼らは道中で事の経緯を教えてくれた。


元々2人は兄妹ではなかったがとても仲が良く、海の見える村でそれぞれ家族と住んでいたらしい。

そこには沢山の魚が泳ぎ、魚を食べ過ごす場所だという。

けれどネネの家族は1年前に流行病で他界してしまった上にトトの家族も追うように他界、病の件で村の者は忙しく育てられる者もいなかった。

その村の1人が黒渦団に知り合いがいるということでそこのツテを使い、黒渦団の繋がりでサマーフォード庄で育ててくれる者を見つけ越してくることになったそうだ。

2人は妙に賢く記憶も良いので、当時住んでいた村で見ていた泳ぐ魚…食べる魚が恋しくなり依頼を出した。

今回はそういう経緯だった。


「故郷には、帰りたい?」

「んー、いまはどっちでもいいかな」

「だっておじちゃんがいるし」

「そうかい」

「おとなになったらいってみてもいいかもね」

「うんうん」


そういう話をして数分後、無事にコスタ・デル・ソルについた。

船員に頼むと、ロータノ海に停船している船に乗せてもらえた。

船から海を見てみるとそこには沢山の魚が泳いでいる。

2人ははしゃぎとても楽しそうだ。

ヘリオは少し離れて遠くからその様子を見ている。


「よし、じゃぁここで釣るかぁ」

「「なにつるの!?」」

「…君たちホントに息ぴったりだねぇ。

釣るのはロックロブスターさ!

美味い飯も食わせてやる!」

「やったー!」

「ろぶすたー!」

「全く…姉さんも子供だな」

「聞こえてんぞ」

「何のことだか」


時間を見計らい釣りを開始する。

ロックロブスターは釣れる時間帯が限られている。

その数時間が勝負だ。

といっても調べた限りではそこまで難易度は高くなく、最悪万能ルアーでも釣れるようだ(ヘリオ談)。

たまに訳の分からない魚が釣れたが、2時間弱でロックロブスターが5匹釣れた。

これだけあれば人数分の料理はできるだろう。


「さ、暗くなってしまったしコスタ・デル・ソルに戻ろうか」

「はーい」

「おさかな、ばいばいー」


コスタ・デル・ソルに戻り簡易厨房を借り、料理を始める。

と言っても大半をやるのはヘリオだ。


「おねえさんはつくらないの?」

「私は料理するの苦手なんだよねぇ」

「えーー」


作る料理はペスカトーレ。

おこちゃまには早いかもしれない料理だが、パスタなので食べれないわけではないだろう。

ヘリオはよく料理をしているからか手際が良い。

あっという間にペスカトーレができてしまった。

ガウラも料理全般が苦手というわけではなく、飲料…特に紅茶類は得意のようでカモミールティーを用意した。


「魚と言うよりエビだけどね」

「うんうん」

「おいしそー」

「冷めないうちに食うぞ」

「そうだな、じゃぁいただきます」

「「いただきまーす」」


─────


花火でも遊び、サマーフォード庄に帰ってきた頃には満天の星空が輝いていた。

2人は遊び疲れたのか眠っている。

遅くなることは想定内だったのか、迎えのルガディンの男性はイイ笑顔で待っていた。


「まさか光の戦士本人だったとは」

「いつの代名詞だい」

「はっはっは。

2人を連れてってくれてありがとうな。

実はこいつらが内緒で依頼を出していたことも魚を恋しく感じていたのも気づいていたんだ」

「そうなのか」

「あぁ、だがワシには外に連れていく時間がなかった。

農園もあったし何より移動手段もなかった。

ワシ1人なら徒歩でも問題ないが、こいつらはまだチビだからな」

「…」

「チビ共が今日の経験で何を感じたかはワシには分からん。

だが、その気持ちよさそうな寝顔を見る限りイイものだったんだろうさ」

「あぁ、そうだろうね」

「この経験で、いつかこいつらがデカくなって冒険者になりたいと言ったなら、ワシは笑顔で見送るだけだ」

「やっぱり貴方は器がデカい方だな」

「はっはっは、そうだろう!」


遅いし泊まっていけと言われたので、言葉に甘え2人も宿泊することになった。


朝になり支度をしていると口周りを真っ赤にしたネネとトトがやって来た。

もきゅもきゅと聞こえるので、さては何か食べながら来たのだろう。


「まったく、食ってる途中に立ち歩くなっておじさんに言われなかったかい?」

「ふぁっへほはほふはいんふぁほん!」

「ほはほふぁらひふぃひら!」

「はいはい、食い終わってからもっかい来ておくれ」

「「ふぁーい」」

「…人気者だな」

「んー、それ以前にあの子らが人懐こいだけな気がするよ」


─────


「いやぁすまんな、目を離した隙にトマトを頬張りながらそっちに行っちまったみたいでよ!」

「はは、後で聞いて見た感じではよっぽどトマトが美味かったみたいで私たちに分けに来たみたいだぜ?」

「あぁ、自慢のルビートマトだからな!

今回の礼として受け取ってくれ」

「俺もよかったのか?」

「構わんさ!子守りをしてくれたしな」

「そういうことなら遠慮なく」

「おねえさんおにいさんまたねー」

「またおさかなみせてね!」

「あぁ、またなー」


これで依頼も無事に終了。

なんというか、マイペースな2人だった。

生みの親と育て親が違うというある意味境遇が似ていたからか、ガウラは少し思うものがあったような表情だ。

ヘリオは見向きもせずにアリスにトマトが手に入ったという報告をしている。


「不思議なヤツらだったな」


何故だろうか、またどこかで会えそうな気もした。


─────


後日、報酬のトマトがどうなったか。

ガウラは案の定上手く調理ができなかったのか諦めたのか、切ったまばらな大きさのそれとドードーの笹身や他の野菜を串に刺して串焼きを作り食べていた。

もちろん焼き加減も把握しておらず焦がしている。

ヘリオの方はちょうどアリスが依頼で外出するということで、サンドイッチに使いバスケットを手渡した。

余りのサンドイッチはヘリオの昼食になる。


ネネとトトは今日も大人に混じってルビートマトを育てている。


「おーいネネ、トト!

お前らもハサミを持ってこい!

じゃないとお前らの好きなトマトがなくなっちまうぞ!」

「「それはやだ!」」


サマーフォード庄のルビートマトは情熱のような赤さで鮮やかだった。


ネネ&トト…元ネタは作者と一緒に住んでいる猫様。

ネネは女の子で黒毛にお腹と前足付け根に白毛、トトは男の子で白毛に茶色いまだら模様(まだら模様の中は茶色いシマシマ)。

今年の9月初期に2歳を迎えようとしている。